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アンバーアラート 失踪者特捜班

Alerte Amber(カナダ/2019)
監督 ステファン・ボードイン/フレデリック・ダムール

邦題で非常に損をしてしまったドラマかもしれません。

これは、バラバラに千切れ、砕け散り、壊れてしまった家族の「緊急事態」の物語。

結果が出てしまった後の、たられば、ならいくらでも言えることかもしれません。けれども、嵐の只中にいれば、人は必死に、真剣に、間違えていく――。

「僕たちは問題児。ママにとっては僕たちがいない方がいい」
プライドと建前、他人の視線を気にするあまり、決して言えない親の本音は、実は子供たちには伝わってしまっている――。
ある時期、子供にとって親とはそれだけ巨大な存在です。
この物語では、ローガンの壊れてしまった心を中心に、日常に紛れて見えにくい、心の緊急事態が綴られています。

愛しているのに、大切なのに、傷つけ、壊していく悲しさが容赦なく描かれています。
カナダドラマではよく見られる描写ですが、無理やり良い話に持っていこうとしないぶん、とてもリアルです。

ひっそりと、けれども誠実に仕事をする社会福祉士ドミニクの姿に、
被害者や当事者の家族の心に寄り添う、警察でも検察でもマスコミでもない存在は、実はこれからの時代、とても重要かもしれない、と思いました。

母親ですらもてあますエリオットの不安衝動を、ローガンが一人でその都度鎮めている姿が印象的です。
母親が決して認めようとしなかった兄弟の絆が、ここで明かされています。
建前や嘘の通用しないエリオットだけが、実は兄の本質を理解していたのかもしれません。

ナゲットと焼きマシュマロにはしゃぐ兄弟。
兄を大好き、愛している、と繰り返すエリオット。
弟を強く抱きしめ、優しくキスをするローガン。

大人たちの視線のない場所では、兄弟はのびのびとした表情を見せます。
二人を引き裂いてしまったものは何なのか。
「なぜこうなってしまったのか」
と母親はただ繰り返すだけでした。

育児に疲れたとき、ふと、子供が邪魔だと感じたり、一人になりたい、と感じる瞬間が親や保護者には訪れるかもしれません。
それは一瞬のことで、すぐに消え去っていく感情です。
けれどもその一瞬が、子供にとっては永遠に刻まれる、致命的な凶器になってしまう悲劇――。

「消えたかった
でも弟が僕を生かしたんだ」

愛されていない、必要とされていない、と感じ続けてきたローガンが、自分の人生を取り戻す日は来るのか、
登場するいくつもの家族の問題は、なにひとつ解決しないまま、物語は終わっていきます。

大勢で一方的に兄弟に襲いかかった少年達は一切罪に問われないまま、彼らの心に後ろめたいしこりを残したまま放置されていったこと、自閉症の子供のPTSD問題、LGBTについてもふわりと触れて、声高な強いメッセージではなく、そっとささやくように問題提起の余韻を残していく作品でした。
意外とこうしたささやきの方が、長く心に残るものかもしれません。

カナダでの「緊急事態宣言」の様子や事件関係者へのケアなど、非常に興味深い描写がありました。(日本にも取り入れて欲しい制度)

レヴィ・ドレの、目の動きひとつ、動作ひとつで想いを伝えられる見事な演技に魅せられて、一気見してしまいました😁
他の作品ではスクールカースト底辺の内気な少年を演じていますが、彼のこれからの出演作が楽しみでなりません。

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