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普通に生きるって

私の中で尊敬している人はたくさんいて、その内の1人に中学校からの友達が名前があげられる。その子とは中学校一年生の入学式の日に知り合った。出席番号が前後で入学式の時に初めて話しかけたのが彼女だった。

中学生になると小学校までの、セーラー服にネクタイをスナップボタンで留める制服に変わって、セーラー服は同じだけれど今度は細長いリボンを自分で蝶々の形に結ぶスタイルの制服になった。

入学式の日に私が結んでいったリボンは、その日の朝時間をかけて何度もくくり直して、家族にも確認してもらって、やっと自分でも納得して家を出てきたものだった。けれど、入学式の日に初めて会ったその子に「リボンの結び方ってこれであってる?」と話しかけ、「いいと思うよ。」と交わした言葉が彼女との最初の会話だった。

入学式のバタバタも落ち着き中学生としての学校生活にもあらかた慣れ始めてきた頃、授業中の様子や休み時間の会話から彼女の博識さを垣間見ることになる。

まず国語の時間の作文がとても上手い。確かペアの友達のことを紹介する、といった内容だったと記憶しているけれど、友達が話した内容を自分の中で解釈し、事実から引き出せるその人の人柄の良さを順序立てて文章にしていた。(もちろんユーモアも交えて!)休み時間に話していると、自分の意見をはっきり持った子だなと感心する場面が多々あった。特に私は他の人に何か意見を言われると、「ああ、たしかにそうかもしれないな〜」とすぐに納得してしまうので、彼女のように中学一年生の時点で自分の意見を持って発言できるのはとても素敵に映った。

ある日、彼女の家にお邪魔することになった。そこで彼女の博識の理由を垣間見ることになる。彼女の家まで自転車を漕いで、少し汗ばんでいた私は彼女の家のインターホンを押す前に少し息を整えて、それからインターホンを押した。リビングに通されて、少しあたりを見渡すと、ハードカバーの本がぎっちり詰まった本棚が目に溜まった。どうやら彼女の父親のものだったそうで、経済学の本やら株の本やら中学一年生が興味を示すにしては、内容が小難しく感じる本がお行儀よく整列していた。「すごいね〜この本読むの?」と聞くと、「うんたまにね!」といって彼女が持ち出してきた本が、起業した女の人の本だったから驚いた。図書館でほとんど小説しか借りたことのなかった私は、今まで出会ったことのないタイプの同年代の子に会って、わくわくした気持ちになっていた。

夏休みの終わりの日に一緒にプールに行き、「明日から学校始まっちゃうね。」「嫌だねーー!」と他愛もない会話をした。その日は早めに帰って、始業式の持ち物を確認して就寝した。昨日楽しかったねって話そうと思って学校に行った次の日、彼女は学校に来なかった。次の日もその次の日も彼女は来なかった。先生は体調が悪くなったと説明していて、私も2学期の始業式が終わり、最初の1週間は彼女の体調を心配しつつも、来週からは学校に来るだろうなと考えていた。

けれど来週の月曜日になっても彼女はやっぱり来なかった。当時は私がまだスマホを持っていなかったため、連絡手段が家の固定電話に限られていて、その週の水曜日になってようやく彼女の家に電話をかけてみた。母親が出て、彼女に代わってくれた。「体調大丈夫?」と電話越しに訊ねると「うん」と小さく返事が返ってきた。その日の電話はそれで切った。

それから1ヶ月が経過し、さすがに心配になってもう一度電話をかけてみた。すると彼女は「ごめんね、しばらく学校に行けそうにない」と言った。驚いた私はその時、無神経にも「なんで学校に来ないの?何か理由があるのなら教えてほしい!」と言ってしまった。今思うとこの時の私に、こう声を掛けてあげたい。「理由」も「なんで?」も自分自身でも説明できないことがあるんだよ、と。

でも中学生の私はそれが理解できなくて、夏休み最後の日にプールで一緒に話した時は何も言ってなかったのにどうして、と思ってしまった。

今でもその子とは仲が良いけれど、ある時何気なく言われた言葉が頭に残っている。

「毎日学校に行ってすごいね。」

という言葉だ。その時も私は「そんなの全然普通だよー!」と答えてしまった。もしかしたらこの時以外にも、自分が気付かない内に彼女のことを傷つけてしまっていたのかもしれない。

普通ってなんだろうと思う。中学3年生の時は普通に高校生をしている人たちがすごいと思ったし、大学受験の時は普通の大学生になるのって実はすごく難しいことなんだと身に染みて感じた。

普通からそれない人生を送ることは難しくて、普通ってなんだろうと思いながら、普通に生きてきた。今目の前で笑って話している人がその背景にどんな事情を抱えているのか一生懸命想像力を働かせて、「普通」という一つの括りで捉えてしまわない考え方ができる人になりたい。



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