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方言の違いかと思ったらそんな次元じゃなかった【ヤマシタのおたより#42】

先日、役者の先輩とごはんに行った。
作品によく出てらして、エンドロールにもばんばん名前が載っている憧れの先輩である。

お芝居が素敵なのはもちろん、普段の姿がとても気さくでユーモアにあふれていて、私とでも「飲もうよー!」と、ご一緒してくださる先輩だ。
私も気軽に「ご飯行きましょ!!!!!」と誘える先輩だ。

そんな先輩と飲んでいて、ふと方言の話になった。

先輩は関東出身で、私は関西出身。
セリフというツールに直面したとき、地方出身者は関東弁のイントネーション、関東出身者は方言のなじませ方に気を遣う。

私は、役者を始める前、広報の仕事をしているときに関東弁をマスターした。(大阪弁が禁止というわけではないけれど、相手とTPOに合わせられるように)

なので、関東弁!というスイッチを入れれば、一切関西弁は出なくなる。

なんなら、ドラマや映画を見ていて、「これ関西弁のイントネーションやん。誰も気づかんかったんかな」と思うこともあるくらいだ。

まあ、関西弁は、お笑いの影響もあって全国で馴染みはあると思う。
「なんでやねん」「あかん」「知らんがな」など、分かりやすい言葉の違いも知れ渡っていると思うし、あの独特のイントネーションも、割と受け入れられている(と信じたい)。

それに、私がそうであるように、だいたいの関西人は、普段関西弁でしゃべる。なんなら、仕事中も、支障がない限り、関西弁を使う。
私たちのアイデンティティなのだ。

関東弁は、必要に迫られてはじめて、習得するもの。
英語のようなものである。

…お気づきだろうか、私たち関西人(の大多数)は、「標準語」と言わない。「関東弁」という。なぜなら、我々にとっては関西弁が「標準」だからだ。

さて、そんなこんなで市民権を得ている関西弁だが。
そもそも、方言独特の言葉は、そんなに多くない。
先ほど紹介した「あかん」くらいで、たいていは言葉自体は東京と変わらない

たまに、「片づけることを”なおす”と言う」などといった同音異義的な違いはあるものの、言葉自体は、そんなに変わらないのだ。

擬音語が多いと言われるし、以前完璧な関東弁を話したにも関わらず、擬音語の数で関西人だとバレたこともあったけど、まあそれくらいだろう。


ひとつ面白いのは、大阪のおっちゃんの喋り言葉が、文面にするとお城様風になるということ。

例えば…
「このおかず、いただきますわ」
「明日の朝、迎えに行きますわ」
「そんなことしたら、困りますわ」
という感じ。

...いま気づいたけれど、この手の話の説明は、文章には向いていないな。
イントネーションの違いが、文章で伝わるわけがない…

ラジオで実演しようかな…
→追記、実演しました。10月6日20時に公開です。

そんな話で盛り上がりながら、私は、何気なくこう言った。

私「そうだ、こっちって”でん”も言わないですよね、鬼ごっこで。」


先輩「なに、”でん”って」

私「鬼ごっこの、タッチのことです」

先輩「え、関西ってタッチのこと”でん”って言うの!?(今日一番驚いた顔)」

私「(得意げに)そうなんですよ~だから、タッチ返しのことも”でん返し”って言います」

先輩「???????」

私「だから、タッチ返しなしね!ではなく、でん返しなしな!って言うんです」

先輩「タッチ返し…?」

私「大阪はゴロがいいですよね(笑)”でん返しなしな!”って言いやすいし速く言えます(笑)」

さあ、ここまでで、皆さんはどう思ったでしょう。
「へえ~でんって関西弁なんだあ」
「”でん返しなしな!”の必死さ、懐かしいやん」
このあたりでしょうか。

先輩は、違いました。

先輩「ごめん、ちーちゃん。でん返しってなに?
っていうか、タッチ返しってなに??????????????????」


私「え、あのタッチ返しです。鬼にでんされて、すぐにでん仕返すやつです」

先輩「タッチをすぐにし返す…?」

そう、先輩には「鬼にタッチ(でん)されて、そのまますぐタッチ(でん)を返す」という発想がなかったのだ。

よくよく聞くと、「鬼にタッチをされたら、”タッチされたー”と自己申告をし、仕切り直して再スタートする」らしい。
おそらくこれは、関東の鬼ごっこルールなのだろう。

(たしかにタッチ返しという言葉を聞いたことはない。勝手に、でん=タッチだからタッチ返しだと解釈していた。大人になったから、普段の会話で出てこないだけだと思っていた...)

私は思った。


なんて、お行儀がいいんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


バイきんぐの小峠さんも驚きの衝撃である。


大阪では、そんな仕切り直しなど存在しない。
鬼にでんをされたら、そのまま自分は他の人たちを追いかける。
とんでもない手のひら返しルールである。

ただ、”でん”された人がすぐ鬼へし返したら、鬼はずっと鬼のままになってしまう。

子ども達なりに、どうやったら鬼になるスリルを満遍なく味わえるか、そして鬼がひとりに集中せずみんなが気持ちよく遊べるかを考えた末のルールが、「”でん返し”なしな!」なのである。

(ちなみに鬼ごっこ関連のときだけ、”でん”と言う。改札出でICカードをかざすときやハイタッチは、タッチのままだ。ハイでん、とは言わない)


というわけで、大阪ルールでは、逃げている人たちは周りをよく見なくてはいけない。
ボーっとしていたり、逃げることだけに集中していたら、鬼の交代に気づかず、仲間だと思って油断した相手にやられるのだ。

サバイバーである。
鬼ごっこなんて生易しい名前...いや、これでもインパクトがすごいけど、はなく「周りをよく見ろ!敵か味方を自分で見分けるんだゲーム」に変えるべきである。

あ、だからか。
だから大阪の駅のホームでは人が綺麗に整列され、スクランブルな交差点もスムーズに歩けるのか。(これについては次回書く)

きっと、大阪は子どものころから「よく周りを見て状況を判断する」訓練がされているのだと思う。
まあ、普段の生活でも、近所のおばちゃんから「あんた早よ前つめや」と言われたり「信号青やではよ進み」と言われたりするのだけれど。

子どもの遊びにも、その影響があるのかもしれない…

とにもかくにも、私は驚いた。
「大阪では”タッチ返し”のことを”でん返し”って言うんですよ~」
という、ちょっとした一言が「発掘!文化の違い」に繋がったのだ。

方言の違いではなく、文化の違い。

関東ルールからしたら
「鬼にタッチされて、そのままゲームを続けるなんて!」
「申告せずに虎視眈々と仲間を狙うなんて!!」
てなもんだろう。

そういえば、長崎でも似たことがあった。
赴任して数日、私はあることが気になって先輩に尋ねた。

「あの、長崎ってエスカレーターで寄るとき、右ですか?左ですか?」

大阪は右なのだが、他の都道府県は左が多い。
(右なのは大阪とヨーロッパだけ、という説を聞いたことがある)

すると先輩は、こう答えた。

「ああ~右とか左とか、そんなルールはないとよ~
エスカレーターで抜かす人がおらんけんね~」

最近さかんに呼びかけられている、「エスカレーターは歩かないで!二列で立ち止まって!」のお手本である。

当時の私は、ものすごい衝撃を受けた。

路面電車の時刻表が欲しくて、泊まっていたホテルのフロントに尋ねたときもそうだった。

私「路面電車の時刻表をいただきたいんですが…」

フロント「あ~時刻表は、ないとですね」

私「あ、そうなんですか。どこに行ったらもらえますか?」

フロント「いやいや、時刻表ってもんが、ないとです」

私「え…?」

フロント「まあ、待っとったら来ますからね~」

…長崎でのカルチャーショック(それも今では愛おしい)は、まだまだあるので、別の回で紹介しようと思う。

さて。ずいぶん話がそれてしまったけれど、以上、最近あった「方言の違いかと思ったらそんな次元じゃなかった」話でした。

※ちなみに、関東全域でこうなのか、細かい地域や世代差なのか、気になるところです。「関西やけどこうやったで!」「東京でこうだった!」などありましたらぜひ教えてください◎

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