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目に見える意識

以前、20人の俳優を3日間かけて撮る仕事があった。

スタジオにだいたい毎日9時か10時に入って撮影し、19時30分頃にスタジオを出た。
普段は起床時間や行く場所がばらばらで規則性というものがほぼ無い生活をしているから、決まった場所へ通勤し、毎日同じスタッフと仕事することが新鮮で短いながらも楽しい時間だった。

スタジオに行くと、照明セットを言う通りに組み立ててくれ、撮影をサポートしてくれ、相談すればアドバイスもしてくれるスタジオマンと呼ばれる人達がいて
カメラマンアシスタントの役割を担ってくれる。
日々、様々なカメラマンの現場に入っているから経験も知識も豊富、年齢に関係なく経験歴が長い人が先輩でありリーダーになる。

その時はリーダーの女性と、男性2人の3人チームだった。
何度かサポートをしてくれた事があり気心が知れていて、かつ頼れる人達だったので、撮影の合間に私は他のスタッフに聞こえないところで時々彼らにボソッと話しかけた。
「疲れたよ」とか「床に膝つくと痛いけど歳かなぁ」とか、主に弱音を。
それを聞いて彼らはふふふ、と笑ってくれた。頑張ってください、そんなことないです、などと言いながら。

長時間の撮影は時にピリっと緊張することもあるし、ずっと集中して気を張っていると疲れてしまうので、影でこうしてちょっとふざけた私を笑ってもらうだけで救われた。彼らは内心うるさいなぁ、と思っているだろうけど。

でも、誰にでもこんな風に気を許せる訳ではない。
ある程度自分を捧げて、来たものを真摯に受け止める意識。
空気を常に読んで、こちらが何をしようとしているか同時に考えている意識。
そういうものがアシスタントしてくれる側に少しでもあると、私も心を開いて一緒に仕事することが出来るように思う。
人の意識は目に見えるから。

自分がアシスタントしていた若い頃にそんな風に出来ていたかどうかはとてもとても怪しい。自分のことで精一杯で、出来たアシスタントでは全くなかった。
だけど、今は自分が撮る側になって見えてきたものがある。

きっと今なら、ものすごく良いアシスタントになれるだろうなあ、と妄想してしまう。こればかりは、やってみないと分からないのだが。


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