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ホシヲキクモノ【全9話】 1.序章

あらすじ

果てしない宇宙の彼方、高度な星々の連合、ユニバーサルガーディアンズの宇宙パトロール隊「スターライト・セントリー号」は、困難に直面する星々を支援していた。

ガイナン星にたどり着いた彼らは、物質の声を聞く能力を持つリタを仲間に加え、支援能力を強化する。

リタと共に、様々な星の自然災害や環境問題に取り組み、多くの星々を救ってきたスターライト・セントリー号は、リタのテレパシーに導かれ、太陽系の青い星、地球にたどり着く。

スターライト・セントリー号は地球でどのような問題に直面し、どのような支援を行うのか、新たな冒険が始まる。

あらすじ

 果てしない宇宙の闇を一隻の船が静かに進んでいた。

 スターライト・セントリー号――

 星々の光が点在する無限のキャンバスの中で、その船はまるで一筋の流れ星のように輝いていた。船体は漆黒の宇宙に溶け込み、唯一、船尾から放たれる微かな光がその存在を知らせていた。

 その船は、連合したユニバーサルガーディアンズの宇宙パトロール隊である。
 ユニバーサルガーディアンズは、高度な文明を持つ星々が手を取り合い、宇宙全体を見守るために結成された連合軍だ。

 加盟している星は200〜500星系にもおよぶ巨大な連盟になる。
 
 戦争が消え去り、争いの概念が忘れ去られた時代。

 彼らの生活は穏やかで幸せそのものだった。

 しかし、次第にその平穏は退屈へと変わり、彼らの心には空虚感が広がっていった。

「刺激が必要だ」と彼らは思った。

 自分たちの星にはもはや問題がない。ならば、困っている星々を救うことに意義を見出せるのではないか。

 発展途上の星々を自分たちのテクノロジーでさらに幸福へと導くことが、彼らの新たな使命になるかもしれない。そう考えるようになった彼らは、宇宙全体を見守るためにユニバーサルガーディアンズを結成した。

 しかし、パトロール隊を編成して、派遣してみると、多くの問題が持ち上がった。
 
 まず、意見の対立だ。同盟を結んだどの星も独自の考えを持っていた。対応策を出し合っても、そのたびに星と星の主張は食い違いを見せた。
 
 例えば紛争が続いている発展途上の星に対して、好戦的なタナリス星の代表、ザークが言った。

 「敵対するどちらかの種族を滅ぼせばよいではないか」

 ザークは高身長で筋肉質な体格を持ち、青銅色に輝く肌をしている。彼の鋭い琥珀色の目が相手を見透かすかのように光り、冷静で決然とした表情には強さと冷徹さが漂っていた。

 対して、エリオス星の代表、リーヴァは穏やかに反論した。

 「交渉して無理やりにでも友好関係を結ぶべきだ」

 リーヴァは中肉中背でしなやかな体格を持ち、淡い金色の肌が太陽の光を反射するように輝いている。深いエメラルドグリーンの目は優しさと知恵が宿り、長い金色の髪が肩まで流れていた。彼の表情は常に穏やかで、優雅な微笑みが誠実さと理解を感じさせた。

 一番簡単な解決策は星の住人たちに何を望んでいるのか訊くことだ。それはわかっている。
 しかし、それは宇宙同盟のルールとしてできなかった。

 発展途上の星が他の星に生命体がいることを知った場合、彼らの文明への影響は計り知れない。

 例えば、他の星から高度な技術を手に入れた発展途上の星では、その技術に依存するようになり、独自の技術開発が停滞してしまう恐れがある。

 また、宗教や哲学が揺らぎ、社会全体が文化的ショックと混乱に陥ることもある。一部の国や勢力が高度な技術を独占し、それを武器や経済的な優位に使おうとすることで、紛争が激化するリスクも存在する。

 さらに、倫理的な基準が混乱し、社会全体のモラルが崩壊する可能性もある。未知の生命体の存在を知った住民が集団パニックに陥り、社会的な混乱や暴動が発生する危険性も考えられる。

 本来成長すべきその星の文明の進化を、「介入」という形で間違った方向に誘導してしまうことは断じて避けなければならなかった。

 これらのことを考慮して「異星人の存在を知られてはならない」という絶対的な条約が宇宙同盟内で定められていたのだ。

 星の存在する生命体たちに、何を望んでいるのか訊くこともできない状態で、最善の援助を決めることは不可能だった。
 
 しかし、連合がよかれと思って始めた援助が、逆に星が成長する機会を阻害し、ひどい時には破壊につながる事例も発生した。

 発展途上の星に高度なエネルギー技術を提供したところ、そのエネルギー技術のトラブルに対処できず、大規模なエネルギー危機が発生し、社会の崩壊を招いた。

 また、高度な医療技術を提供した結果、急速な人口増加が起こり、食料供給や住居が不足して社会のバランスが崩れ、混乱と内戦が発生することもあった。

 経済的不均衡や文化的ショックも問題となり、一部の地域や勢力が高度な技術を独占して内部での対立が激化し、内戦に発展したり、外部の情報が一気に流入して現地の文化や社会構造に混乱をもたらしたりすることがあった。

 最善の援助とは何なのか、基本的な定義が決まらないまま、宇宙テクノロジーの粋を結集したパトロールチーム計画は頓挫しようとしていた。

          ◇   ◇   ◇

 
 再びスターライト・セントリー号――

 船内では、キャプテン・ゼノが指揮を執っていた。彼の深い紺色の瞳は、スクリーンに映し出された星図を見据え、次の目的地を見定めていた。その背後では、優れた科学技術と成熟した精神を持つクルーたちが、各自の持ち場で黙々と任務に当たっていた。

 彼らの目指す先は、未知なるガイナン星。遠い銀河の彼方に位置し、まだ誰もその真の姿を見たことのない、神秘に包まれた星である。

「キャプテン、ガイナン星に接近しています」

 航行担当のクルーが静かに報告した。

 ゼノはすでに、ガイナン星に高度な文明を持つ住人がいることを観測データで確認していた。事前に通信で訪問の許可も取ってあった。ただ、どんな高度な文明を持っているのかは、データだけでは計り知れなかった。
 
「了解した、準備を整えろ」
 
 ゼノは落ち着いた声で指示を出した。

 船がガイナン星の軌道に入ると、星全体が美しい紫色の光で輝いているのが見えた。ゼノはその光景に一瞬見惚れながらも、任務に集中するために気持ちを引き締めた。
 
「ガイナン星の到着センターに着陸シークエンスを開始します」
 副官が報告した。
「着陸準備完了。全クルー、到着態勢に入れ」
 ゼノは命じた。
 
 宇宙船はスムーズに降下し、着陸エリアに無事降り立った。着陸エリアはガイナン星の最先端技術を駆使した施設で、光るエネルギーフィールドが周囲を囲んでいた。地表には奇妙な模様が浮かび上がり、その一つ一つが星の歴史や知識を象徴しているようだった。
 ゼノは船内のクルーに向かって最後の確認を行った。
 
「全員、準備は整ったか?我々は今から未知の文明と対面する。慎重かつ敬意を持って行動しろ」
 
 船のハッチが開き、ゼノはクルーと共に外へと一歩を踏み出した。迎えの施設には、すでにガイナン星の迎えの代表が待っていた。その中心に立つ存在が、彼らを出迎えた。

 深い紫色の肌と銀色の髪、琥珀色の瞳を持つその存在は、まるで空気と一体化しているかのように静かに立っていた。ゼノはその美しさと威厳に一瞬圧倒されたが、気を引き締めて挨拶した。

 その瞬間、ゼノとクルーたちは驚きで息を呑んだ。リタと名乗る存在の声は、彼らの耳には聞こえてこなかった。
 直接、リタの声は彼らの心に響いたのだ。

「あなた方は、他の星々を救うために、我々の力を必要としているのですね」
 
リタの声が再び彼らの心に響いた。

 ゼノは驚きを隠しきれずに頷いた。

「テレパシー、ですか?」

 リタは柔らかく笑って、今度は唇を動かして声を出した。
「ええ、このように声にすることもできますが、私たちは日常的にテレパシーで会話をしています」

 リタは静かに手を挙げると、周囲の空間が一瞬揺らめいた。ゼノとクルーたちは驚きに目を見張ったが、次の瞬間には違う場所に立っていた。そこは、ガイナン星の中心部で、美しい建造物が周囲を取り囲んでいた。

「さあ、私たちの中心部へご案内します。そこで、我々の文化や能力について詳しくお話しましょう」
 リタはゼノたちを招き入れるように手を差し伸べた。

 ゼノはその技術に驚きながらも、リタに従って歩みを進めた。中心部には、紫色のクリスタルで作られた壮大な建物が立ち並び、その中に広々としたホールが広がっていた。ホールの中央には円形のテーブルがあり、その周りにはガイナン星の代表者たちが座っていた。 彼らもまた、リタと同じく紫色の肌と銀色の髪を持ち、琥珀色の瞳が知恵と穏やかさをたたえていた。

「こちらはガイナン星の代表者たちです。彼らもあなた方に協力することを望んでいます」
 リタはゼノたちに紹介した。

 ゼノは一歩前に出て、敬意を込めて一礼した。
「お会いできて光栄です。私たちは他の星々を救うために、あなた方の特別な能力を必要としています。どうかご協力いただければと思います」

 ガイナン星の代表者たちは互いに目を合わせ、静かに頷いた。
 リタは微笑みながら続けた。
「私たちガイナン星人は、他の星々の住人に比べても長寿です。平均年齢が1000歳になります。その文化からテレパシーだけでなく、物質の本質を聞く術を身につけました。例えばあなた方の宇宙船、名前はスターライト・セントリーというのですね。船は、その名前を大変気に入っています。そしてキャプテンゼノ、あなた方クルーのこともとても愛していると声が聞こえました。ただ……」

「ただ、なんでしょうか?」ゼノは問いかけた。

「エネルギー推進コアのNo15の部分に亀裂が入りそうだと心配されていました。どうかお調べください」

 ゼノは驚き、船内に残っているクルーに連絡を取った。ほどなくして、No15の部分にヒビが入っていることが確認され、リタの言葉が真実であることが証明された。

「船の声さえ聴けるのですね……」

 ゼノは驚きで言葉が続かなかった。

 リタは柔らかく頷き、「ええ、それがガイナン星人の特徴です」と答えた。

「それならば、星の声は聴けますか?」

 期待のこもったゼノの声に、リタは一瞬考えた後、答えた。
 「そうですね、天体となれば、その範囲は大きく全員が聴けるというわけにはまいりません。しかし、長く生き、テレパシーに長けている者ならば、物質の本質を感じ取り、星々が何を望んでいるのか、どのように助けを必要としているのかを理解することができるでしょう」

 ゼノはその言葉に感銘を受けながらも、さらに詳しく知りたいと思った。
 「その能力を使って、具体的にどのように星々を助けることができるのですか?」

 リタは優しく微笑みながら答えた。
 「例えば、紛争が続いている星に対して、どのように介入すれば平和をもたらすことができるかを見極めることができます。星そのものが何を望んでいるのかを感じ取り、それに基づいて最善の解決策を提案できるでしょう」

 ゼノとクルーたちはその説明に感銘を受け、ガイナン星の代表者たちに深い敬意を抱いた。
 スターライト・セントリー号を通してユニバーサルガーディアンズにガイナン星と交渉が始まり、やがて両者の間に新たな協力関係が築かれた。

 そして、ガイナン星代表として、パトロール隊にリタが加わり、宇宙の平和と調和を目指す冒険が新たに始まった。



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