フランス人は各人各様にご意見番。コピー機の前の弁論大会
パリの国立図書館でのこと。ここの視聴覚資料(映画)は、原則すべてデジタル化されて保存されている。ネットのカタログで注文すると、目の前のパソコンに映画がダウンロードされてくる、という仕組み。なかなかハイテクである。
ここにある雑誌を、コピーしようとしたときのこと。最初にコピーセンターへ行くと、係の女のひとが、USBメモリがあれば、スキャンイメージを持ってかえれる、という。USBメモリが買える場所まで、教えてくれた。とても親切なひとだった。
USBメモリを買って、戻ってきたら、今度はべつの女のひとがいた。スキャンイメージをまとめてひとつのPDFファイルにして、タイトルまでつけてくれた。なんでもスクリーンやタブレットで読むわたしは、なんて素晴らしい!、と感動した。
よろこんだわたしは次の日、同じタイプの記事をすべてPDF化してしまおうと、さらに数冊の雑誌を借り、コピーセンターへ持っていった。すると、そこにいたおじさんは、古い資料じゃないからダメと言って、紙コピーしかしてくれない。
ここのコピーセンターの奇妙な点は、担当さんがたぶん一時間ごとくらいに、めまぐるしく変わること。そして担当者によって、対応がぜんぶちがうのだ。
スキャナーの使い方がわからないひともいた。ジョージ・オーウェルの『1984年』のペイパーバックを読んでいたお兄さんは、スキャンでずっとやってくれた。
しかし、最大のドラマは、三日目にやってきた。
そのときの担当さんは、あなたのiPadで全部写メを取ればいいじゃないですか、と言いだした。それならタダだし。
すべて写メなんか無理に決まっているでしょ、とおもったものの、彼がそういうので、わかりました、やってみます、といちおう引き下がるわたし。
しばらくして、やっぱり無理です、とコピーセンターに戻ったが、コピーはできない、と彼はいう。すると、次に入ってきた男の人が、わたしたちのやり取りを聞いて、わたしのために、わたしの権利について、弁論をはじめた。
彼女がスキャンしてほしいと言っているのに、断るのは失礼ではないか。でもこの資料は十分古くないので、たくさんコピーはできないことになっている、云々。
二十分間くらい、わたしもコピーもそっちのけで、彼らはケンケンガクガクと、討論会をしていた。
最初のひとはわたしを見て、「あなたにとって一番いい方法はなにかと、議論しているんですよ」、と言う。わたしはうなづく。
さ、さすがフランス。コピーセンターでも、人権?問題は、討論されて決まるものなのである。
結局、わたしのために弁論をしてくれた男の人は、その後ランチタイムが一五分も過ぎているのに、すべてスキャンをやってくれた。あとにはどんな人間がくるか、わからないからね。
フランス人が、ランチタイムになってもいなくならないなんて、信じられない事態である。
コピーしながら彼は、「日本人?」と聞く。そうです、と言うと、「You are welcome.」。
そして、フランス社会における生き方について、わたしに講義をしてくれた。
ゆっくり、ひとつひとつ、やっていけばいいんだよ。ダメだと言われても、すこしずつ、段階を踏んでいけばいいんだ。もしどうしてもダメな場面に来たら、上の人のところに行く。そうしたら、上の人が決めてくれる。そうやって、ひとつひとつ、あきらめずに乗り越えていくんだ。
コピーセンターでコピーするだけの、話だったんですが。でもこのひとの人間的な熱さは、わたしの人類への信頼感を、すこし向上させてくれた。
フランス人は、各自がご意見番である。ささいな日常の出来事にも、各自のあるべき生き方のスピリットで対応し、人権を討論する。
どちらがいいということではないが、たぶん誰でも対応が同じであろう、同調的日本とくらべると、やっぱりこういうのはおもしろすぎて、ちょっとまぶしい。
#エッセイ #ブログ #フランス #パリ #ライフスタイル
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