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Youtuberから入った彼らは、まったく真相を知らない

公募のため、サイトより一部修正の上転載しております。

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 師走というばかりでなく、社会人なら2日3日はたやすく過ぎる。4kgもある肉塊を漬け込むのと同じ時間だというのに、学生でいたあの頃の方がずっと、1日が長かったように思う。

 ――ひとぉつ、解凍に金物を使うべからずのこと!

 解凍の器にはプラスチックを使え、レシピの待機指示に逆らうな、肉は焼けてもすぐ食うな。

 歴代のOBたちによるローストターキーの知恵は、覚え書きのような口伝によって、後輩たちに伝えられていた。まだ通販も存在しない頃から七面鳥を食べられたのは、ひとえに卸もする肉屋が近くにあったことと、留学生の多さ故だ。

 イベント数日前となれば、また鳥の丸焼きか、とこぼしながらも車を回し、手持ちのオーブンに入るぎりぎりのサイズを複数買い込む。山のような香味野菜ともども、白くかちかちに凍った4kgの肉塊たちがトランクにごろごろと詰め込まれていく様は、実にばかばかしく愉快だった。

 戻れば早速解凍からの仕込み作業である。自動製氷機を持つ者は崇敬を集め、オーブンレンジすら持たない者は水炊き係に回される。そんな場合分けができるほどに、丸焼きづくりはサークルの年中行事となっていた。……それだけ相手のいない者が多かったということなのだが。

 一生分と思えるほどの香味野菜を刻み、肉を漬け込む2日の間に米を大量に炊いておく。そして三生分かと思うほどのバターライスを、大蒜と炒め続けるのだ。最後には髪まで大蒜くさくなるというのに、皆どれだけ暇だったのか――いや、〆切間際の文系4年や、実験を抜け出した理系院生も混ざっていたか。

 つまるところ、祭の好きな連中だったのだ。

 その勢いについていけない新人が増え、時流もあってついにサークルが廃止されてしまうまで、肉塊丸焼きの狂乱は続いた。今となっては、懐かしむ思い出の一片である……

「ひとぉつ、解凍に金物を使うべからずのこと!」

 突然拾った声に思わず振り返る。そこには無数のエコバッグを提げた若者たちが群れ歩いていた。ナイロン製らしい袋はどれも限界を叫ぶようにふくれ、その重みを全身で示している。

「何で解凍する? バケツ?」
「とりあえず100均じゃね」
「ついでに銀紙な」

 聞こえてくるのは、思わず足を止めてしまうほどの、懐かしいあの頃の会話である。数も人数も少ないが、突然の、学生時代の襲来だった。

 ――後に調べたところ、サークルの口伝とレシピが人数ともども匿名掲示板に投稿され、そのばかげた数量を再現するブームが動画投稿サイトで起こったことにより、莫大な速度で世界中を駆け巡っているらしかった。その過程で卒業以来消息不明だった仲間達の様子が知れたのは余録である。

 それにしても。

 ネットに書いたことって、本当に消えないんだな……


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驚きのある不思議な話をお好きな方へ。


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