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【日本舞踊】 尾上菊右佐 「踊りと、舞と、しぐさ」で空間をデザインする。

見たことはある。しかし興味をもってじっくりと鑑賞したことはなかった。いわば、私にとって初めての日本舞踊“鑑賞”。尾上菊右佐おのえきくさとそのお弟子さんによる「おさらい会」である。
菊右佐の夫は私の友人であり、広告デザインの仕事をしている。そんな縁もあり、お招きいただいた。演目が二十一にも及ぶ大規模な会であったが、私はその終盤の五つを見ることができた。
※タイトル画像はイメージです。


尾上菊右佐 おさらい会の告知チラシ


まず日本舞踊とは何か、少し予習してみた。

踊りしぐさ、これらの三つの要素を持つのが日本舞踊です。踊りは拍子にのるリズム的な要素が強く、はやわらかく、表現を内にこめることが基本となっています。

日本舞踊の魅力は、まず着物を着た所作(しぐさ)、動きの美しさにあります。
すっと伸びた背筋に、軸の通った動き、なめらかに弧を描く動作、そうした流れに添って揺れる袂、ひらりとなびく裾など、身体に添う着物の動きに、日本の美が広がっていきます。

日本舞踊協会のHPより

着物を着て踊るのだから、そこには動きの制限が加わる。どのように克服して美しさを紡ぎ出すのかにまず注目だ。
また音楽も、西洋の所謂いわゆる“ダンス・ミュージック”とは当然全く異なる。三味線、太鼓、笛など、日本の古典楽器で奏でられる音楽とのコラボレーション。そこも見どころだと思われた。


尾上菊右佐 挨拶文


以下、五つの演目に対する私の感想である。


「日本舞踊の創作について」

 尾上菊佑おのえきくゆ
会場に着いて最初に目にしたのは舞踊ではなく、菊佑によるスピーチ。彼女は現在、日大芸術学部で舞踊について学んでおり、大学ではなんと「虫歯菌」をモチーフにしたダンスも創作したとか。美しい着物姿のまま語られるユニークな話と明るい笑顔で、会場の雰囲気を解きほぐす。
「創作に正解はない」という彼女の言葉は、全てのクリエイターにとって励みかもしれない。“正解らしきもの”にとらわれることなく、今後、伝統にどんな自由な風を吹かせてくれるか楽しみだ。


「越後獅子」

 尾上菊左惠おのえきくさけい
演者は登場したときから堂々としている。見ている側に安心感を与える雰囲気づくりは、全てのパフォーマンスに必要不可欠だ。演者ではなく、“踊りそのもの”を見ることに集中できた。
三部構成であろうか、変化があり、観客を飽きさせない。フィナーレでは長いサラシを両手で上下に振るのだが、この熱演には自然と会場から拍手が起きた。
途中、黒子として菊右佐きくさが登場。菊佐惠をサポートする。菊右佐は常に背を向けて存在感を消しつつも、凛とした“気”が自然と醸し出されていた。それはたぶん、舞台に出るときにはどんな瞬間でも舞台人であろうとする彼女の佇まい・美意識からくるものだと思う。


「あやめ」

 尾上菊佑おのえきくゆ
まず、幕が開いたときの演者を含めた舞台全体のデザインがいい。バックの淡い暗青の色彩。筋状の陰影を左に放射する照明と、舞台左端に静止する菊佑。叔母から受け継いだという明青の着物と金色の帯。赤の傘。これだけで美しい絵として完成している。
そこから始まる舞踊は、扇子一つでの幅広い表現が繰り出され、その工夫をとても興味深く拝見した。この「最小限の小道具を最大限に活かす」という手法は日本の古典芸能の特徴なのだろうか。落語における扇子、手拭いも然り。
首の傾げ方の柔らかさには、若い女性らしい可愛らしさ可憐さを感じる。この演目を通じて私は、日本舞踊最大の魅力を“曲線美”だと解釈した。


「七福神」

 尾上菊右佐おのえきくさ
金屏風をバックに、渋めの紫の着物(客席から見るとやや小豆色に近い)。「あやめ」での暗中の華やかさとは一転、こちらは眩い明るさとシンプルな洗練。視線の配り方、ひとつひとつの所作にメリハリが感じられる。さすが師範、キリッとしたオーラをまとっている。
足音を殺してスッスッと動く中、時折、トンッとあえて足音を鳴らすステップ、それが心地よい。大きな躍動から小さなしぐさまで、表現力の幅を感じる。何か、ストーリーは知らないけれど、そこにストーリーを感じる、といったような…。

終始、表情はない。それもまた日舞の特徴なのだろうか。他のジャンルの舞踊では、表情もまた表現パーツの一部になっているような気がする。この日舞では、ストイックなまでに無表情のまま演じられることで、舞そのものが際立ってくるような印象を受けた。
着物の白い内生地が足元でチラッと見える決めポーズが、歌舞伎の助六のようで、粋でカッコいい。エンディングは、正座でお辞儀、幕。今までの残像が一点に収斂して消えていくような、見事な終わり方だった。


令和薫風れいわくんぷう

 尾上菊佑 尾上菊左惠 他3名
菊佑振付による新作。二人での舞から始まり、その後、三人が登場。赤、黄、桃、濃緑、薄紫の着物が揃い、華やかさ五倍!!
中盤、それぞれの演者が、小さく折りたたんだ手拭いを舞台から客席へいくつも投げるという演出があり(おみやげ?)、芸者さんによる演芸のような趣に。
五人が違う形で静止するよう工夫を凝らしたポーズが鮮やかに決まり、幕。


最後は、菊右佐による舞台挨拶。
その中にとても興味深い言葉があった。尾上流・日本舞踊の神髄は「品格・新鮮・意外性」だという。これは広告デザインにも通じるものがあると思う。
特に「意外性」。かつてクリエイティブディレクターの岡康道氏は、プレゼンで提案すべき優れた企画のことを「意表をつく正解」と表現した。品格、新鮮は当然として、意外性が重要。ぜひ心に留めておきたい。


参考資料として、
1.菊右佐の紹介ページ
2.日本舞踊協会のHP
3.「七福神」の動画
を貼っておきます。こちらもどうぞご覧ください。


(参考1)菊右佐の紹介ページ

(参考2)日本舞踊協会のHP 「日本舞踊とは」をわかりやすく解説。

(参考3)花柳貴代人による「七福神」

和ごと邦楽ライブ第17弾 令和2年10月18日(日本橋社会教育会館)
立方 花柳貴代人
長唄 杵屋勝眞規社中
囃子 福原鶴十郎社中
記録 まちひとサイト


というわけで、「ユーも日舞、気軽に見に行っちゃいなよ!!」。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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