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【1分で読める小説】 その4 専属ヘアーメイク

ドライヤーの動きに合わせてそのオレンジ色の“生き物”はうねり、暴れたが、最後には完璧な曲線を描いて美しく制圧された。ヘアーメイクの世界的なコンテストで優勝経験もある私にとっては容易いことだ。もう遠い昔、過去の栄光だが…。

私が担当した女優やモデルはことごとく売れた。彼女達は、若い頃の私が人生のすべてをかけて仕上げた「作品」だった。その美貌は名だたる映画監督たちを魅了し、たとえ無名の新人であっても、次々と主役の座を勝ち取っていった。

マスコミからパワハラ経営者というレッテルを貼られた。今では申し訳なかったと思っている。そのスキャンダル以来、私の名声は地に落ちた。世間からも業界からも全く評価されなくなったのだ。店を閉じ、今はある風俗嬢の専属ヘアーメイクをしている。

唇には性欲を刺激するレッド、下瞼には瞳を潤んで見せるパールのラインを入れた。「じゃあ行ってくるね」「ああ」きっと今夜も指名を勝ち取れるさ。俺の作品なんだ、評価されないわけがないんだ!! 妻の香水の残り香だけが玄関にいつまでも漂っていた。

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