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梅雨の晴れ間




私には同棲して3年になる恋人がいる。
3年も一緒に生活しているとルーティンや癖も分かってくる。
私は料理が好きだけど彼は苦手。私は洗濯が苦手だけど彼は好き。
家のことはお互いが気づいた時に得意なことをする。二人とも不得意なことは協力したりじゃんけんで決めるようにしている。

休日の昼食。料理が得意でない彼が『ホットサンドくらいなら僕にもきっと出来るだろう』と頑張って作ってくれた。
パンが焦げたと残念そうにしていたけど、照り焼きチキンサンドもたまごサンドも美味しかった。
「これからホットサンドを作るときはお願いね」と今後の上達に期待。

昼食後、休日のゆったりと流れる時間と血糖値が上昇していくのを感じる。このまま昼寝をしたいところだ。普段料理をしない人が料理をするとキッチン周りには洗い物であふれかえっている。彼も私も後片付けは苦手。
ご飯を作ってくれたから本来なら私が後片付けをするところ。だけど満腹と睡魔でおしりに根が生えてしまって動く気にはなれなかった。

「よし、じゃんけんしよう!」
「負けた方が後片付けね!」
『えー』
そう言いながらもじゃんけんに付き合ってくれる。

「『じゃんけんぽんっ!』」
「やったっ!」

もちろん私の勝ち。
特別強いわけではないけれど、彼とのじゃんけんでは勝つことが多い。
『仕方ないなぁ』と重い腰を上げてキッチンに向かう。
ちゃくちゃくと洗い物を進めていく彼を眺めながらお腹を休める。
梅雨とは思えないほど良い天気で心地よい風が部屋の隅々まで流れていく。
一休みして満腹感も落ち着いてくると彼の片付けも終盤に差し掛かっていた。
ご飯と後片付けのお礼に食後のコーヒーを淹れることにしよう。コーヒーを入れるのは私の担当だ。豆から入れたりドリップしたり手の込んだことはせず、マグカップに粉とお湯を入れるだけのお手軽コーヒー。『君が入れるコーヒーは美味しいね』いつものようにそう言ってくれるから作り甲斐がある。




僕には同棲して3年になる恋人がいる。
3年も一緒に生活しているとルーティンや癖も分かってくる。
僕は洗濯が好きだけど彼女は苦手。僕は料理が苦手だけど彼女は好き。
家のことはお互いが気づいた時に得意なことをする。二人とも不得意なことは協力したりじゃんけんで決めるようにしている。
といっても僕は洗濯以外はあまり得意ではない。基本的になんでもそつなくこなす彼女に頼りがちだ。

最近テレビでホットサンドメーカーを使った特集をよく見かけた。料理が苦手な僕でも出来そうなほど簡単そうに見えた。普段頼りにしているお礼も兼ねてお昼ご飯にホットサンドを作ることにしよう。料理アプリで調べて美味しそうだった照り焼きチキンサンドとたまごサンド。普段料理をしないから何度も何度もレシピをみて、レシピ表記の調理時間の倍以上の時間がかかってしまった。焼き加減が分からずパンを焦がしてしまったけど、彼女は「ん~!」と美味しそうに食べてくれた。「これからホットサンドを作るときはお願いね」と言われてしまった。次は成功出来るようにこっそり練習しておこう。

食後ゆったり過ごしていると勢いよく「よし、じゃんけんしよう!」と持ちかけられた。彼女は唯一片付けが苦手だ。そして僕はじゃんけんが弱い。
元々今日は日頃のお礼も兼ねているので最後の片付けまで僕がするつもりだったわけだけど。そう思いながらじゃんけんをする。案の定、彼女が勝って僕が負けた。
ゆっくり休んでいて良かったのに「今日のお礼」と言ってコーヒーを淹れてくれた。絶妙な濃さとミルクと毎回同じ味。彼女のコーヒーはいつも美味しい。


彼女にはちょっとした癖がある。
じゃんけんをする時、始めにパーを出すこと。

この癖に気付いてから僕はわざとじゃんけんに負けることがある。家事をじゃんけんで決める時。勝負に勝って喜ぶ姿、好きなものを食べる姿。そんな君を見たくて僕は”グー”を出す。僕は特別じゃんけんに弱いわけじゃない。嬉しそうに楽しそうにする君に弱い。
これからもそんな君の姿を見たいから、この癖のことは内緒にしておくよ。




私は彼とじゃんけんをする時、始めに“パー”を出すと決めている。

多分彼は癖だと思っているんだろうけど、本当はわざとなんだよね。
少し前にこの癖に気付いてから彼はよくじゃんけんに負けるようになった。
彼は優しいから、家事の負担が私の方が多いとか考えてるんだろうな。私がゆっくりしたそうにしてる時、何かを選ぶ時、わざとじゃんけんに負けてくれる。
彼の優しさに触れる度、嬉しくて幸せな気持ちになる。私が嬉しそうにすると彼も嬉しそうにする。だから君がこの癖に気付いていることに気付かないふりをするよ。


「これからもよろしくね」

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