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詩情の流し込み方(笹川諒歌集『水の聖歌隊』)

 性別や職業、地理などの属性に依存していない点で、好印象だった。意味的喩や映像的喩とは違うところで勝負を仕掛ける姿勢も見習いたい。歌集全体を高潔な美意識が貫いている一方、作者の意図したであろう詩情が存分に流れ込んでくるのが意味的喩・映像的喩を使った次のような歌たちだったのは、僕の読解力不足なのか、それとも短歌の辺境がそのあたりにあるのか。いずれも飛躍の距離が絶妙で、潤いのある歌たちと思う。

飼い慣らすほかなく言葉は胸に棲む水鳥(水の夢ばかり見る) 「天国の自転車」p19
あなたがせかい、せかいって言う冬の端 二円切手の雪うさぎ貼る 「裸木」p30
やがて言葉は届くだろうか蛇口から水は刀のように眩しく 「涅槃雪」p33
きみが発音するああるぐれいほどアールグレイであるものはない 「色水」p45
空想の街に一晩泊まるのにあとすこしだけ語彙が足りない 「原光」p125

 このほか、歌集タイトルが『水の聖歌隊』ということもあり、音楽や聴覚にまつわる歌も多い。音楽をモチーフにしている点では、僕が知っている限りでは、久木田真紀、河野美砂子、徳重龍弥あたりの系譜があって、そこに笹川諒が加わったという認識である。

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