『あじさいペインターのはなし』


あじさいの咲く頃になると、どこからともなくあじさいペインターがやってくる。

雨上がりや雨の中、あじさいに近づいて、
花びらにのっている雨粒を筆に含ませる。
小さな瓶に水滴を集め、
それがいっぱいになると次のあじさいに移動する。

あじさいペインターはこうして、雨粒を入れた小瓶をたくさん持ち帰る。
その小瓶たちにひとしずく、
代々伝わる無色透明の魔法の液体をぽたりと垂らす。
するとびっくり。
小瓶の中はきれいなあじさい色の絵の具に変わる。
それは集めたときのあじさいの色。
水色、青、たくさんの紫、白、クリーム色に薄いピンク。

あじさいペインターのアトリエには、こうして何百もの小瓶が壁一面に置かれている。
熟した10年物から、先週の雨で取れたばかりのまだ色若いあじさい色まで。

さて、あじさいペインターのお仕事はここから。
真っ白な傘を開いて、あじさいの絵の具で色をつけていくのが主なお仕事。
依頼主の顔を思い出しながら、
あの人にはこの青紫を、あの子には明るい赤を、と
たくさんのあじさい色から傘にさまざまな色をつけていく。


皆さんも町で素敵なあじさい色の傘を見かけるかもしれません。
けれどその人に、その傘はどこで手に入れたの?と声をかけてはいけません。

あなたがあじさいをきれいだなぁと見ているとき、
隣にあじさいペインターが現れたら。
そのときあなたはあじさい絵の具で描かれた、
傘の依頼主になれるのです。



おしまい

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2020/05/26放送 chigusaの庭より


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