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映画『658㎞、陽子の旅』(8/4鑑賞)

なんて突き刺さる物語だろう。
父が死んだ。葬儀のため従兄に連れ出された陽子だが、思いがけずヒッチハイクで青森に向かうことになる。道程で出会う様々な人々。遭遇する数々の出来事。ふいに現れる、父の姿――。
陽子の旅の行く先は。

まず印象的だったのは、陽子の瞳。なんだか虚ろで、刺々しく他人を拒むように見えたんです。
普段は家にこもって仕事をし、物資の調達も通販。人を前にすれば声は小さく、言葉はうまく出てこない。
“コミュ障”――そう言われる彼女が、人に声をかけなければならないヒッチハイクの手段に出る。

親切な人もいれば、弱みにつけいる人間もいた。次へ繋げてくれる場合もあれば、放り出されるケースもあった。
孤独な陽子に押し寄せる、人、人、人との接触。
自ら握手を求めたときは胸がじわりと疼いた。渾身の叫びを聞いたときは引き裂かれる思いがした。
北へ進むほど、陽子に変化が訪れる。

ついに彼女は語り出す。自身のこれまで。父の死を知った心境。いま何を望むのか。
旅の中でしばしば目にする父の姿が、陽子と変わらぬ若さだったのは……それだけの断絶があったから。だから父が最後に登場したときの姿と陽子が、忘れがたくて。

どうか陽子の旅を見届けてほしい。これは凄い……。

映画『658㎞、陽子の旅』は上海国際映画祭での受賞をきっかけに知り、待ちわびていた映画だったんですが、観にいって本当に良かった。

なんていうのかな、単に「人のぬくもりに触れて歩み出せました」っていう作品じゃないんですよ。
どうか観て、確かめて、感じてほしい作品です。

終盤、嗚咽を漏らさぬよう口元を押さえて観ていたなんて、なかなかない体験だった……。


「658km、陽子の旅」予告編


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