高槻2

★澤村御影『准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る』(角川文庫)

怪事件を収集する民俗学の准教授と、噓を聞き分ける耳を持つ大学生の、凸凹コンビによる民俗学ミステリシリーズ第2巻です。

高槻彰良2

ひとつめの依頼は、『五年二組のロッカー』という、小学校の怪談。コックリさんを行ったところ帰ってくれず、ロッカーに棲みついたというもので、子供達が怖がって騒ぎになっているのだとか。
高槻曰く「子供達にとって、日常と非日常が同時に存在する場所」だという学校での怪異。騒動を収めるため、高槻は尚哉にある提案をします。

次の依頼は、ホラー映画の撮影中に起こる幽霊騒動。『霊感女優』として知られる依頼人の話に、しかし高槻は落ち着いています。こういう時は、怪異ではないと判断しているということ。
しかし尚哉の耳に、依頼人の声は歪んで聞こえません。というのも風邪から中耳炎を発症して以来、噓を聞き分けることができなくなったから。
これで普通の人と同じ――なのに尚哉は喜べない。高槻のことを考えてしまう。どんな顔をするのか、何と言うのか。調査の助手をさせるのも能力が多少役に立つからで、それを失えばもう、要らなくなるのではないか。
高槻に言い出せないまま、撮影スタジオの調査に同行する尚哉。やはり噓は聞き分けられず、募る焦りと苛立ち。さらには、撮影現場を張っていたパパラッチが高槻に目をつけ、身辺や過去を探り出して……。
一体どうなってしまうのか、緊張感とともに事態の成り行きを見守った一件でした。

みっつめの依頼は、バス事故で唯一生き残ったという『奥多摩の奇跡の少女』について。神のご加護であるとお参りする者が急増、両親もそれにハマっているという依頼人は、変な宗教団体ではないか調べて欲しいと言います。
その内容に、不思議ではあるが高槻好みの怪現象とは違うという印象を抱く尚哉。実際、高槻も食いつく様子はなく落ち着いたもの。ただし関連記事を調べる眼差しはひどく真剣で、尚哉は奇妙な違和感を覚えてしまいます。
日帰りがきつい場所だからと、調査は泊りがけで行うことに。『奇跡の少女』のもとを訪れ、事故現場に足を運んで、依頼への結論は出ます。が。
らしくない様子を窺わせる高槻に尚哉は心配してしまいますし、同行していた佐々倉も「入れ込みすぎだ」と忠告します。けれど高槻は真実を明かそうとし――彼が見せる初めての顔に、語られる過去に、尚哉は触れることになる。

尚哉が他人との間に線を引いているように、高槻もまた、線を引いている。
嘘は言わないが本当のことも言わずに取っておく高槻を、案外ずるい大人だと尚哉は思います。けれど自身のことを聞かせてくれた、それが線の中に迎え入れてくれたというのなら嬉しいとも感じる。それくらいには、心を許している。
また高槻は、尚哉が風邪のときには駆けつけ、友達や思い出を作れと言い、「君を手放さない、絶対に一人になんてしない」と口にします。その背景には、昔の自分と重なる尚哉への不安があって。
過去のある一点から、それまで歩いてきた道とは違う場所を歩くことになってしまった彼ら。今更、もとの道には戻れない。
現実と異界の境界線を共に並んで歩くふたりが紡いでゆく物語。読むほどに魅了され、どうしようもなく惹きつけられていきますね。


★他巻の感想はこちら
『准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき』
『准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと』