高槻3

★澤村御影『准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと』(角川文庫)

怪事件を収集する民俗学の准教授と、噓を聞き分ける耳を持つ大学生の、凸凹コンビによる民俗学ミステリシリーズ第3巻です。
表紙に尚哉も登場したほか、佐々倉・瑠衣子・難波も含めたキャラクター紹介がイラストつきで見られるのが嬉しいですね。

高槻彰良3

2月頭。秋学期試験を終えた尚哉は、憔悴しきった様子の難波を目にします。『不幸の手紙』のせいで呪われた気がすると聞き、高槻の研究室で相談に乗ってもらうことに。
それから別件の調査に出かける高槻と尚哉。依頼人たちの言う『図書館のマリエさんの呪い』は、ある中学校の一部で知られる都市伝説で、高槻も聞いたことがありません。噂をたどって話の出所をつきとめ、マリエさんが残した暗号を皆で解いてゆきます。

その翌週、尚哉は高槻・佐々倉と共に山梨へと向かいます。お世話になるのは瑠衣子の両親が経営するペンション。近くに鬼を祀っている洞窟があるのだとか。
「温泉」に「おいしいごはん」と、魅力的なワードが並ぶ二泊三日の旅行。
けれどパパラッチ・飯沼との再会、過去の高槻を知る人物との邂逅、鬼を祀る洞窟で人骨らしきものを発見、と良からぬ事態が続く中、高槻の身にとんでもない出来事が起こって……。
鬼神伝説の真相とは何か。高槻たちは無事に帰りつけるのか。とても緊迫感に満ちたエピソードでした。

3巻まで読み進めてきて、やはり実感するのは尚哉の変化。本人も自覚しているように、難波を高槻のもとへ連れて行ったのがいい例です。尚哉が周囲との間に引いた線は未だに存在する。それでも可能な範囲で手を出してもいいと思えるようになった。高槻のおかげで。
もちろん完全に解放されたわけではありません。例の祭りで言われた『お前は孤独になる』という言葉が、ふいに彼を苛む。他の人と過ごし、それを楽しんでいるのは、許されることなのかと。
でもそれは変化しているが故のことで、この先もきっと尚哉は変わっていくのでしょう。高槻たちと過ごしながら。高槻に、大切なことを教わりながら。

そして、尚哉が高槻と過ごす機会が増えるほど。共有する時間を重ねるほど。
高槻が笑顔の裏に隠しているものが覗きます。失踪していた十二歳のひと月、何があったのか彼はいまだに思い出せないまま。だから想像してしまう。それが幻想であれ現実的な説であれ、悪夢でしかありません。二十年以上経ってなお過去に囚われる高槻の苦しみに、尚哉は次第に触れていくことになる。
たとえ大丈夫でなくとも、高槻は相手を気遣い「大丈夫」と口にします。繰り返すことで自己暗示をかけている面もある。ただ尚哉には嘘を言わないと誓った手前、その言葉を飲み込んで。でも尚哉は気づき、苛立ちすら覚えてしまう。
彼が高槻に想いをぶつける場面は、ただただ胸がぎゅっと締め付けられるばかりでした。どれだけ気にかけ、考えて、心配していたのかを思うと……。それに、現実と異界の境界線を歩く高槻の道連れとして、持ちつ持たれつ歩む努力をしようと尚哉が思えていることにも、ぐっと来るものがありました。

いつでもにこにこと笑っている高槻。でもその陰には未だ苦しめる過去の存在があり、尚哉にかける言葉なども、苦しみぬいてきた結果なのかなと思います。そうやってこちら側の世界に踏みとどまってきたのだろう、と。
尚哉が願うように、本当のことが分かって高槻が過去から自由になる日が来てほしい。それが、せめて穏やかに訪れてほしい。
共に境界を歩むふたりが、光の射す方を向き続けていられますように。そう望むばかりです。

この巻には【extra】として高槻と佐々倉の過去……まだ6歳だった彼らがどのように知り合い、どうやって過ごし、どんな経験をしたかのエピソードが綴られています。
三十年近くも続く関係のはじまりや思い出が見られて嬉しい反面、神隠し事件以前の高槻家の様子はもう戻らない光景なのだと思うと、胸が痛むところはありました。
子供時代の付き合いが大人になっても続いて、佐々倉が高槻の傍にいてくれて良かったですし、この先もそうであればいいと思います。

★他巻の感想はこちら
『准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき』
『准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る』