◇“ヤヨイちゃん”の記憶

小学生のころ、同じソフトボールチームに所属していた姉妹が、転校してしまったことがあります。移る先は市内で、校区をひとつふたつ挟んだ程度の、たいして遠くない場所。
けれど当時のわたしにとって、学校が変わるというのは相当なショックでした。もう二度と会えないと思った。特に妹のヤヨイちゃんと親しくしていましたから、絶対に彼女のことを忘れないようにしよう、と強く誓ったものです。
その時わたしが五年生、ヤヨイちゃんは四年生で、


……とここまで書いて、お姉さんのほうが五年生、自分が四年生で、ヤヨイちゃんは三年生だったかな?としばし考え込みました。
そもそも、お姉さんの名前ってなんだったかな。ふたりの名字は、なんて言うんだっけ。どうしてヤヨイちゃんと仲良かったんだろう。いや、一方的に気に入ってたのかな。ヤヨイちゃんは髪がくるっとして、おとなし……かったはず、だよね。

ただ「ヤヨイちゃんのことを忘れないようにしよう」という気持ちだけが強く残っていて、肝心の“ヤヨイちゃん”がどんな子だったかも、何を話したかも、どうして大切に思っていたかも、もう分からないんです。
本当に、確かに、存在した子だったんだろうか。まさかイマジナリーフレンドじゃないよね……?

写真が残っているかも分からないんですよね。もしかしたら試合の日なんかに撮っていたかもしれないんだけど、定かじゃない。子どものころのアルバムなんて、開かなくなってどれくらい経つんだろう。どこに保管してあるかも怪しい。

結局“ヤヨイちゃん”のことが分からないまま、ただ忘れないでいようと誓った気持ちだけはこの先も抱き続けるのかもしれません。それって、空っぽの宝箱をずっと大切にするようなものなのかなあ。