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山を登った話

 思い立って近くの山に登ってみた。少し出発も遅れたため、人がまったくおらず、進むほどに言いようのない不安と恐怖に襲われ、さらには運動不足による息切れ、途中でこれはもう無理だと山頂に到着する前に引き返した。

 表山道を上っている時は、つらい、苦しい、こわい、などネガティブな感情ばかりだったが、裏山道を下っていると、次第に落ち着きを取り戻した。すると、後ろから人の気配が。ほっとするも、震える足で身体を支えるのに精一杯な私は、お先にどうぞ、と道を譲ることしかできず。
 そんな私に、大丈夫ですか?がんばって!と声をかけてくれた。

 その人が去ったあと、人と会話したことの安心感と、ありがたい気持ちと、あぁ私はいつも自分のことばかりだな、という情けない気持ちで、なんだか泣けてきてしまい、涙を拭いながら山を降りることとなった。その瞬間、柔らかく温かい風が頬を撫でた。太陽が輝いて、樹々の間から道を照らしてくれた。

 ありがとう、と伝えることにしよう。できるだけ。こんな汚い世界でも、まだ自然は与えてくれている。疲れてるのに眠れなかったのは、きっと山の何かの仕業なのだ。


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