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【選挙ウォッチャー】 刈羽村長選に見る日本の闇。

あまり知られていないのですが、11月15日、日本の未来を大きく左右する選挙が行われます。それが「柏崎市長選」と「刈羽村長選」です。ご存知だと思いますが、柏崎市と刈羽村には東京電力が運営する日本最大級の「柏崎刈羽原発」があって、福島第一原発事故の検証がまだ終わっていないにもかかわらず、事故を起こした当事者である東京電力が、懲りもせず、再び原子力発電所を稼働させようとしているのです。言ってしまえば、一度は事故を起こして人を殺してしまった人が、また反省もなく車を運転しようとしているのと同じです。柏崎刈羽原発の再稼働は、柏崎市長、刈羽村長、新潟県知事の3者の同意があれば実現してしまいます。だからこそ、11月15日に行われる「柏崎市長選」と「刈羽村長選」からは目が離せないところなのですが、実は、この重要な選挙がとんでもないことになっていることを、ほとんどの人が知りません。


■ 柏崎市長選には選択肢がある

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柏崎刈羽原発の再稼働に賛成するにしろ、反対するにしろ、実は、柏崎市長選の方には選択肢があります。現職の桜井雅浩さんは、将来的には風力発電や太陽光発電にシフトするべきだとしながらも、火力発電をすれば二酸化炭素が排出されて地球温暖化につながってしまうのだから、今は原子力を容認するべきだというスタンス。一方、新人の近藤正道さんは、福島第一原発事故で原発がちっとも安全ではないことは証明されているし、もし柏崎刈羽原発で同様の事故が起これば、双葉町や大熊町のように、柏崎市が人の立ち入らない街になることは明らか。だから、今こそ原発の再稼働は見直すべきだと訴えています。悲しいことに、全国的な世論調査では原発再稼働は止めるべきだという人が多いのですが、原子力施設の立地する自治体では、収入の多くを原子力関連に依存していることもあって、反対する人はあまり多くありません。とはいえ、自分の気持ちを1票に託すことは可能だと言えます。


■ 市民が重視するのは経済政策が中心か

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現地を取材してみると、争点は「原発問題」であるものの、市民が重視しているのは「原発」ではなく「地域経済」が中心のようです。結局、原発の再稼働問題とは言いつつ、市民にとっては発電方法なんて何でも良くて、ただ原発を再稼働するとなれば数多くの作業員が必要になり、その人たちが休日や仕事帰りに買い物や飲み歩きをしてくれるようになれば、地域にお金が回るようになる。火力でも原子力でもいいから、とにかく街に賑わいが欲しいというのが市民の願いです。なので、原発を動かしてでも街に賑わいを作ろうとしている人と、とにかく原発を止めようと言っている人と、市民が見比べた時にどちらが魅力的に映るのかという話になってしまうのです。


■ 刈羽村の絶望的な選挙

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柏崎市長選には、柏崎刈羽原発の再稼働を望むか望まないかを示す選択肢がありますが、実は、刈羽村長選には選択肢がありません。現職の品田宏夫さんは今日まで5期20年も村長を続けていた人物。しかも、前回は無投票当選だったため、選挙になるのは8年ぶり。一応、2012年の刈羽村長選では福島第一原発事故の直後ということもあって、原発反対派の候補者が立ったのですが、2016年にはいなくなり、今年はとんでもない選挙になりました。

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現職の品田宏夫さんのポスターは、顔写真もなく、完全なポエム状態。しかも、印刷会社に発注したキッチリとした選挙ポスターではなく、ただのコピー用紙です。村内には35ヶ所しか掲示板がなく、村役場の前にすら掲示板がない状態なので、わざわざ印刷会社に発注するまでもないということなのでしょう。顔写真を乗せると余計にコピー用紙感が出てしまうので、ポスターを使って、あえてお手紙を出す始末です。

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一方、新人の後藤浩昌さんは「行政書士」という肩書きなのですが、現職と同じく、こちらもコピー用紙製。一応、顔写真こそあるのですが、何よりマニフェストがぶっ飛んでいて、インパクトは抜群です。何よりも目を引くのは、村民1人あたり300万円を配布するという、とてつもなく巨大な公約を掲げています。刈羽村の人口は今年9月30日現在で4458人。全員に300万円を配るために必要な予算は133億7400万円ということになります。つい先日の岡崎市長選で、新人の中根康浩さんが「市民全員に5万円を配る」という公約を掲げて当選。しかし、それから1ヶ月も経たないうちに、やっぱり市民全員に5万円を払うのは無理だとして、所得の少ない人に方針を発表。これには当然、市民は大激怒。「最初からできもしない公約を掲げていたのか」などと疑問の声が相次ぎ、大炎上状態に。この恨みは必ず4年後の選挙で晴らすと宣言する市民が現れるなど、市長になってから1ヶ月も経たないうちに、市民からの信頼を大きく損なう事態となってしまいました。そんな岡崎市の惨状を知ってか知らずか、刈羽村では1人300万円を給付すると宣言。2つもケタが違う壮大なスケールの公約を掲げているのですが、それでは終わりません。

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「国からの交付金を1人300万円分配します」
「ヤギの酪農をけん引します」
「田植えと田畑の管理をドローンで行います」
「無料のタクシーを走らせます」
「コミュニティーバスに自動の昇降機を取り付けます」
「ふるさと納税の返礼率を90%として日本中からかき集めます」

どこからツッコんだらいいのか分かりませんが、2つ目の政策に「ヤギ」が出てくる点。個人経営の小規模な畑にドローンを飛ばしたところで、そんなものはオッサンが自分の目で見た方が早い点。そして何より、ふるさと納税の返礼率をまさかの90%以上にしようとしている点など、とにかくインパクトだけは絶大です。だいたい「電源立地地域対策交付金」というのは、使える用途が限られているため、学校の建設や公園の整備などには使えるけれど、村民に現金として配れる性質のものではなく、どうやって交付金を配るのかは分からないし、現在は「ふるさと納税」の返礼率の上限が3割以下と定められてしまったため、90%の返礼率というのは実現できません。だいたい90%も返してしまったら、手元に入る税収は10%しかなくなってしまうので、どれだけたくさんの人が刈羽村に納税してくれたとしても、ほとんど税収にはつながらないのではないでしょうか。つまり、刈羽村の選択肢は、「原発推進の現職」か「村民に300万円配ると言っているインパクト絶大すぎる新人」かの2択となっていて、とても「原発反対の1票」を投じる空気にはなっていないということです。


■ これが日本の原子力ムラの景色である

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福島第一原発事故から、まもなく10年が経過しようとしていますが、いまだ大熊町や双葉町で暮らしていた人たちは、家に帰ることができません。思い出がたくさん詰まった家に帰ることができぬまま、避難先でお亡くなりになった方もいらっしゃることでしょう。ヨーロッパを中心に、世界の国々では日本の失敗を参考にして、クリーンエネルギー政策にシフトしました。原発を止め、新しいエネルギーを採用することで、国家が滅びるかもしれないリスクを避けようと考えたのです。ところが、チェルノブイリに匹敵するような深刻な原発事故を起こした当事国の日本は、いざとなった時の避難計画の策定もままならないうちに、再び原発を動かしています。原発の再稼働反対を求め、国会議事堂や首相官邸前がたくさんの人で溢れかえったこともありました。あれから5年ほどで、刈羽村では原発推進派の村長が無投票当選するようになり、9年経った今年は佐渡市に選挙事務所を構える謎の新人が立候補するだけで、相変わらず原発に反対するための1票を投じることができない環境にあります。もし柏崎刈羽原発で福島第一原発のような事故が起こった時には、今度という今度は日本の広い地域が放射能に汚染され、国家存亡の危機に陥ります。ましてや、柏崎刈羽原発というのは、あの福島第一原発事故を起こした「東京電力」が管理するものであり、中越沖地震の時には火災が発生し、過酷事故につながるリスクがあったにもかかわらず、情報が隠蔽されてしまったこともあります。事故が起ころうものなら、柏崎市や刈羽村だけでなく、近隣の新潟市や長岡市はもちろん、関東一円にだって大きな影響があるかもしれないにもかかわらず、柏崎刈羽原発を再稼働するかどうかを決定できるのが、柏崎市や刈羽村といった原発立地自治体だけ。しかも、その大事な決定をする市長や村長を決める選挙が、こんなことになっている日本の現実。そもそも刈羽村の選挙がどうなっているのかを、ほとんど誰も知らないのです。


■ この世はポンコツパラダイス

悲しいことに、多くの人は政治や選挙に興味がありません。消費税を上げられたって文句を言わないし、まともな新型コロナウイルス対策をしていなくたって文句を言いません。だから、選挙があっても投票に行かない人はたくさんいるし、ましてや選挙に立候補しようなんていう人は滅多にいるものではありません。中にはとても高い志を持って、本当にこの街を良くするんだという気持ちで立候補する人がいないこともないのですが、そんな人はレア中のレア。今どき選挙に立候補しようという人の中には、ちょっと頭のネジが外れているような人も少なくないわけです。しかも、ネジが外れているぐらいならまだマシで、そんな世の中を逆手に取り、選挙を利用して金儲けをしようという輩まで現れるようになってしまいました。表向きは「NHKの受信料問題に取り組む」なんて言いながら、その裏では、選挙ポスターを安く作っておきながら公費で賄ってもらえる上限の金額を請求することで利益を得る専門の会社を立ち上げ、「選挙をやればやるほど儲かる」なんて言い出す始末なのです。しかし、日本の未来を大きく左右しかねない原子力ムラの選挙がどれだけ悲惨なことになっているのかを誰も知らないように、選挙を使って金儲けを企むバカが現れるようになってしまったことさえ、多くの人は知りません。日本は今、少子高齢化が進み、税金や水道代や電気代といった生活に必要不可欠なコストばかりが高くなり、どんどん生きづらい社会になっています。そんな中で新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっていて、第3波は日本も例外ではないようです。しかし、政治家にとって最大の腕の見せ所であるはずの新型コロナウイルス対策は、何一つ満足にできていません。それもこれも有権者たちが無関心だったばっかりに、頭のネジが外れた人や、言っていることとやっていることが全然違うような人を選んでしまい、何が起こっているのかを監視することさえ怠るようになってしまったため、政治家がポンコツだらけになってしまったからです。これを変えるのは、ほんの少しでいいから、政治の話題に触れてみること。いろいろな街の選挙を見てみることなのだと思います。


■ 選挙が開店休業状態の街もある

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11月15日は新潟県内で、柏崎市長選や刈羽村長選のほかに、南魚沼市長選も行われる予定になっているのですが、こちらは選挙こそ行われているものの、選挙運動はほとんど行われていません。というのも、新型コロナウイルスの第3波は、それまで感染者のいなかった南魚沼市も襲い、南魚沼市の警察署でクラスターが発生。警察官が自宅待機となってしまったため、警察の機能が失われることになり、現職の林茂夫さんは「選挙をしている場合ではない」ということで公務に専念。新人の黒岩揺光さんも予定していた集会を取りやめるなど、選挙らしい選挙ができなくなってしまいました。それでも市長選そのものが中止になることはないので、11月15日に予定通りに投票日を迎えることになるわけですが、市民が何をどうやって判断するのかが注目されます。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

実は、11月15日は全国各地で注目の選挙があります。LRT(次世代型路面電車システム)で揺れる宇都宮市長選や栃木県知事選、河井案里・克行夫妻による公選法違反や議員の居眠り&恫喝問題に揺れる安芸高田市議選は特に注目です。自分の住んでいる街ならともかく、他の街の選挙を見ることは滅多にないかもしれませんが、実は、すべての選挙が自分たちの街につながっています。だから、この機会にぜひ少しだけ覗いてみていただきたいというのが、選挙ウォッチャーの密やかな願いです。

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