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【選挙ウォッチャー】 千葉県知事選2021・国民主権党を検証する(#1)。

 3月4日告示、3月21日投開票の千葉県知事選に、例の「コロナはただの風邪」だと主張する、国民主権党の平塚正幸が立候補してきた。
 言うまでもないが、新型コロナウイルスは100%「ただの風邪」なんかではない。中国の武漢で見つかって以来、瞬く間に世界中に広がり、世界中で1億人以上が感染し、既に257万人が亡くなっている。世界中の交通事故の死者が約135万人と言われているので、ざっくり2倍近くの人が新型コロナウイルスを原因にして亡くなっていることになる。
 しかし、国民主権党の平塚正幸は、それでも「コロナはただの風邪」だと言い張ってきかない。本当は「新型コロナウイルス」なんていうものは存在せず、メディアが作り出した架空のウイルスに過ぎないという主張だ。
 そこで、今回は平塚正幸の街頭演説での発言などをもとに、実際のところはどうなのかを、わかりやすく解説していきたいと思う。


■ ポスターの中にも間違いがある

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 前回の東京都知事選では「コロナはただの風邪」というキャッチコピーだった平塚正幸だが、今回は「ワクチン打つな!強毒危険」というキャッチコピーに変わっている。そして、「マスクを外そう!」や「ワクチン接種は強制ではありません」などの文字が躍る。
 しかし、一番気になるのは、平塚正幸の顔の右側に書かれた、こちらの文面である。

「ワクチンにより、海外で重篤な副反応が起きた人、死亡した人は、コロナの死者数以上です」

 まず、新型コロナウイルスが原因で亡くなった人は、これまでに257万人以上。もし、平塚正幸の言っていることが正しいとすると、新型コロナウイルスのワクチンが原因で亡くなっている人は、その257万人を超えるということになる。
 現在までにわかっているデータとしては、比較的信頼性の高いCDC(アメリカ疾病対策センター)のデータで、アメリカでワクチン接種が始まった2020年12月14日から2021年2月7日までの間で、接種後に死亡が確認された人は1170人。これはワクチンを接種した人全体の0.003%にあたる。もちろん、まだワクチンとの因果関係はわかっておらず、ワクチンとは無関係で亡くなったかもしれない方も含まれた数字になっているが、ワクチンが原因で亡くなっている方が1人もいないと考えるのも難しそうである。
 実は、日本でもワクチンを接種した後に亡くなった例がある。日本では医療従事者から優先的にワクチン接種が始まっているが、厚生労働省は3月2日、60代の医療従事者の女性がワクチンを接種した3日後に死亡したと発表している。死因は「くも膜下出血」と推定されているが、ワクチンとの因果関係は「評価不能」となっており、今後のさらなる情報収集によって、何らかの結論が出るかもしれない。
 ノルウェーでは、接種後3週間以内に高齢者が亡くなった111件のケースを精査したが、多くは高齢者施設に入居し、既に衰弱していたり、持病があったとされ、衰弱している患者にワクチンを打てば、軽い副反応でも持病を悪化させる可能性があり、専門家チームを立ち上げ、さらなる検証を進めるとしている。
 ワクチン接種の進んでいる国では、イギリスで402人、ドイツで113人、韓国でも7人が死亡しているが、いずれもワクチン接種との因果関係は明らかになっていない。日本の厚生労働省は、ワクチンの副反応で死亡した場合には一時金として4420万円を支払うことにしているが、因果関係を証明するのはかなり難しそうなので、もし接種後に亡くなるようなことがあったとしても、ほとんどの人はお金を受け取れないかもしれない。
 こうしたデータから見ても、ワクチン接種後に亡くなっている方がいないわけではないし、因果関係が不明なので、もしかしたらワクチンが原因で亡くなっているのかもしれないのだが、人数だけで言えば、「新型コロナウイルスが原因で亡くなった人よりワクチン接種で亡くなった人の方が多い」は間違いだと言えそうだ。


■ なぜ時短営業がコロナ対策になるのか

 平塚正幸は、千葉県庁前で行われた第一声で、さまざまな珍説を開陳していたが、どれも平塚正幸が理解できていないだけである。あまり初歩的な話なので、あんまり教えてくれる人がいないのかもしれないが、平塚正幸の主張に「なるほどガッテン!」してしまう人が生まれているので、一つずつ丁寧に解説していくことにしたい。まずは、平塚正幸の街頭演説をチェックしてみよう。

「8時以降飲食店が休んだら、皆様の健康や安全が守られる。こんな簡単な嘘に騙されてはいけません。我々は毎日呼吸をし、そして、心臓を動かし、生き続けているんです。その間で8時以降に感染しないだろうとか、飲食店に行かなければ健康になれるだとか、あり得るでしょうか。他の目的があると見るのが自然です。権力は常に大衆の行動を制限するように法律を作り、常識をメディアによって書き換えて、今、この2021年があるんです」

 なぜ飲食店の営業時間を短縮するのか。それは、居酒屋やスナックなどで会話を楽しむことを制限するためである。なぜランチタイムは良くて、20時以降がダメなのかと言ったら、通常の食事は当然のように「食べる」ことが目的であるのに対し、20時以降の食事というのは「食べる」よりも「しゃべる」が目的になりがちだからである。食事中はマスクをつけることができないため、マスクをつけずに話をすれば飛沫が飛ぶ。そうして感染者が増えてしまうというわけだ。
 もしかしたら20時以降であっても、黙々と食べることだけに徹し、「会話の禁止」を条件にするのであれば、営業できないわけではないのかもしれない。ただ、図書館のように静かにしなければならない食事の、一体、何が面白いだろう。
 実は、政治家たちの本音を言えば、時短営業なんてお願いしたくない。そう言ってしまうと、まるで政治家たちが国民のために頑張ろうとしているように受け取られてしまうかもしれないが、これは飲食店で働く人たちのためではない。時短営業を要請するとなれば、多少なりとも補償を用意しなければならないため、そこに何一つおいしい利権があるわけでもないのに、税金を投入しなければならないからだ。できるだけ税金は使いたくない。時短営業なんてしたくないのである。
 その証拠に、税金を使わないことが何よりも正義だと考えている大阪維新の会の吉村洋文知事は、とにかく一日でも早く緊急事態宣言を解除してもらえるように要請していたほか、宮城県の村井嘉浩知事は「GoToイート」キャンペーンを勝手に再開している。政治家たちは、できるだけ早く飲食店の時短営業を終わらせたいのである。だから、他の目的なんてない。


■ 「コッホの4原則を満たしていない」はデマ

 平塚正幸は、普通の人が知らない「コッホの4原則」という言葉を使うことで、まるでしっかり調べているような印象を与えているが、平塚正幸が述べている「新型コロナウイルスは『コッホの4原則』を満たしていない」というのはデマである。平塚正幸は、何と述べているのか。

「実際、コロナウイルス、これが本当に危険なウイルスであるのかということが、我々はしっかりと見なければいけないわけです。しかしながら、コロナウイルスが危険なウイルスなのか。蓋を開けてみたら、ウイルスが同定されていない。つまり、この遺伝子はウイルスであるというふうに定められていない。『コッホの4原則』という、『ウイルスで間違いないでしょう』という、そういう実験がされて、健康な人の体にこのウイルスがあったら、このウイルスが体の中に入っていない人と比べて、病気になる、重篤な症状になる、そのような実験を繰り返して、初めてこの遺伝子がウイルスであるというふうに同定できるんです。そのような実験、一切されていない中、感染症対策はしなければいけないというふうに一人歩きして、我々はマスクをこれだけ強いられる社会になってしまいました」

 コッホとは、1874年に初めて炭疽菌を発見した人の名前である。
 そして、「コッホの4原則」とは、まだ電子顕微鏡も、ウイルスの存在も知られていなかった時代に編み出された、「こうすれば菌が原因で病気が起こっていると断定できる」という理論のこと。

① ある病気には一定の菌が見つかることを証明する。
② その微生物を分離・培養できる。
③ 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせる。
④ その動物から再び同じ菌を再分離できる。

 今回の新型コロナウイルスで言えば、感染者から「SARS-CoV-2」というウイルスが見つかり、感染者から「SARS-CoV-2」を分離・培養でき、それをマウスやフェレットなどに接種して感染させることができ、マウスやフェレットから再び「SARS-CoV-2」を分離することができる。
 こうなれば「コッホの4原則を満たしている」ということになるわけであるが、ご存知の通り、新型コロナウイルスに関する動物実験は世界中で行われている。例えば、東京大学ではハムスターを使った実験で、新型コロナウイルスに感染すると早い段階で鼻の奥にあるニオイを感じる組織が損傷することを確認し、嗅覚異常が起こるメカニズムの解明に一役買っている。
 つまり、新型コロナウイルスの「コッホの4原則」は、とっくの昔に満たしており、平塚正幸の言う「ウイルスが同定されていない」や「コッホの4原則を満たしていない」は間違いである。
 ちなみに、世の中には「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」のように、動物実験を行うことができず、「コッホの4原則」を満たしていないが、ウイルスとして認められているものも存在する。


■ マスクの効果について

 マスクの感染防止効果が高いことは、スーパーコンピューター「富岳」のシミュレーションでも明らかであるが、平塚正幸はマスクに効果らしい効果はないと主張している。

「マスクの効果は顔を隠し、そして自分が吐いた二酸化炭素を吸うという効果しかありません」

 唾液を使ってPCR検査が受けられるように、新型コロナウイルスは唾液に多く含まれている。なので、くしゃみをしたり、咳をしたり、唾を飛ばしながら話をすれば感染してしまう。
 マスクをつけるというのは、飛沫を浴びないための効果もあるが、何より飛沫を飛ばさないための効果がある。飲食店でクラスターが発生しやすいのは、食事をするためにマスクを外してしまうからで、マスクの効果がどれだけ大きいのかがよくわかる。
 日本は欧米の国々に比べて感染者が少なかったが、その理由の一つは「マスク」だったのではないかと考えられている。例えば、まだまだマスク不足だった2020年3月中旬、公共の場でのマスク着用率は62%しかなかったが、マスクが買えるようになった5月頃には86%まで上昇。その後も90%近い着用率をキープしている。
 一方、感染者が多い国々ではどうだったのかと言うと、ドイツ1%、イギリス2%、アメリカ5%、フランス12%など。新型コロナウイルスが流行していても、ほとんどマスクを着用する人はいなかったので、一瞬にして感染が広がり、街全体をロックダウンしなければならなくなってしまった。つまり、日本が欧米のようにロックダウンをしなくても生きられるのは、「マスク」が非常に高い効果を発揮しているからだと言ってもいいのかもしれない。それくらいに「マスク」は大事なのだ。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

 まだ国民主権党や平塚正幸の主張をすべて聞いたわけではないが、おそらくすべての主張に対し、間違いであることを指摘できると考えている。今回初めて真剣に検証してみることにしたが、この企画はしばらく続けてみたいと思う。
 なにしろ、ネット上には似たような言説がたくさん流れており、うっかり平塚正幸の演説を信じ、支持してしまう人たちがたくさんいるからだ。しかし、これらがどう間違っているのかをわかりやすく説明できれば、平塚正幸の言説に惑わされる人も少なくなるし、有権者が迷うこともなくなるのではないだろうか。だいたいの主張はそんなに難しくないので、専門家でなくても指摘できるものばかりだ。
 今回の千葉県知事選では、平塚正幸が8人中4番目ぐらいに票を取ってしまいそうな選挙情勢であることもあって、なるべく多くの方に正しい判断をしていただくためにも、彼らの主張に対する検証は必要だと思う。

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