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誰が署名活動をしてくれるのか 〜休職中に悟ったこと

パワハラで休職していた10年前、職場にはセクハラなら配置転換ができるがパワハラによる休職の場合は「原則」元の部署に戻る、というルールがありました。

病み上がりの体で再びパワハラ上司と働けというのもなかなか酷な話です。職場復帰に向けたリワーク仲間に状況を話すとみな一様に同情の目を向けてくれました。彼らの職場にはだいたい閑職的なポジションがあって、休職明けの人はそこに引き取ってもらえるとのことでした。うらやましい。

でも、うらやましがっていても事態は変わりません。私は覚悟を決めて、思い出したくもないパワハラの記録を時系列にまとめ始めました。休職中封印していたメールボックスをそっと開けて過去のメールを掘り返すというのは、なかなかにやつれる作業です。何度も寝込みながら作成した記録を人事担当者に提出し、「『原則』元の部署、というのを再考してもらえませんか?このような人と再び働くのは厳しいです」とかけあいました。休職者としては精一杯の訴えです。

人事担当者の返事はもごもごしていましたが、数カ月後「お伝えしたいことがあるので電話面談を」と言われました。きっとつらいことを言われるんだろうなと予測した私は、ちょうど予定していた観劇の前にその面談を設定しました。

電話面談では案の定、「原則」は変えられないと言われました。
-この程度はパワハラって認められないんでしょうか、私の被害妄想でしょうか?
-いえ、千田さんの被害妄想ではありませんよ、力不足で本当に申し訳ありません。でもグローバルの方針は変えられないんです。

私はそのまま、渋谷のPARCO劇場に行って三谷幸喜の『ショーガール』 を観ました。歌い踊るシルビア・グラフと川平慈英がまぶしくて、笑いながらそっと泣いて、そしてその輝きを胸にともしました。舞台はたしかに砕けそうな私の心の支えになってくれました。

「パワハラ上司のもとに戻るしか選択肢がないようです」と言うと、産業医も同僚・友人もたっぷり同情してくれました。
…でも、この人たちが私のために「パワハラのあった部署に復職するのは理不尽だから会社のルールを変えろ」と署名活動をしてくれるだろうか?とある時思うに至りました。そんなわけはありません。

休職前にある会議で聞いた役員の言葉が思い出されました。「自分が苦境に陥った時、その対処について本当に真剣に考えるのは自分しかいない。どんなに優秀な他人でも自分ほどには真剣に考えてくれない」。自身の経験に基づく言葉でした。

部署異動ができない代わりに、休職期間は最長3年間ありました。猶予は与えるから自力でなんとかしろ、というのが会社のメッセージなのでしょう。誰かが何とかしてくれるのを待っていても仕方がない。私はできる療養に精を出すことにしました。

おかげで私はかろうじて復職し、半年ほどしてから社内公募を受けて自力で他部署に異動しました。今でも逆境に陥ったときは「でも、誰かが私のために署名活動してくれるわけじゃないし」と思うようにしています。声援を送ってくれる人もいるだろうし、手を差し伸べてくれる人もいるでしょう。でも他人ができることには限度があります。自助努力を求める社会に不満をぶつけている暇はありません。私の人生は待ったなしで、自分で前に進むしかないのです。

それでハッピーエンド?もちろんことはそう簡単に運ばず、私は数年後に再び休職することになりました。しかしタイムリーにも『ショーガール』が再演していて、私は赤坂に足を運んでもう一度励まされました。

転んで這い上がってまた転んで…と繰り返すのは消耗しますが、続けられる理由のひとつはおそらくエンタメの力です。直接的でないソリューションは割とじわじわ効いてくるので、即効性のあるノウハウよりも当てになるんじゃないかなと思っています。

#パワハラ #休職 #社内異動 #社内公募 #ビジネス

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