見出し画像

人生の主役を変わってくれる人はいない 〜新卒危機一髪

新社会人になって2週間、別れ話のこじれた彼氏が職場にやってきました。まだセキュリティがゆるゆるだった時代です。廊下で先輩から指導を仰いでいる私の視界に様子のおかしい彼氏の姿が映りました。目を疑うとはこのことです。

先輩が丁重に職場から出て行ってもらうよう促すと、彼はエレベーターホールに佇み、隣の部署からも「おかしな人がいる」と電話が入りました。私は彼に、今は勤務中で話せないから階下で待っていてほしいとお願いしました。エレベーターホールで私は土下座され、勘弁してくれと思いました。

昼休み、1階に降りると彼が待ち構えていました。就職したてでオフィスの地図もよく判らず、気も動転していた私が彼を連れ出した場所は運の悪いことにやけに人通りの多い通路でした。部長会が終わったのか、部長がひとり、またひとりと私たちの前を通り、こちらに目をやります。就職早々素行不良で退職させられるのでしょうか…

ああ、これが私の人生なのか。「人生の主役は自分」ってこういうことなのか。今この瞬間を代わってくれる人はいないんだ…初めて痛感したこの情景を今でも鮮烈に覚えています。

私が就職するまで、いわゆる共依存だった彼と私は毎晩数時間電話で話していました。彼は、一足早く就職して連日深夜に帰宅し彼に構えなくなった私に怒り心頭でした。「毎日こんなに遅くまで働かせるのはおかしい。部長に掛け合ってお前を辞めさせる」と息巻き、とにかく職場から出て行ってほしいと願う私とはまるで話がかみ合いません。

大学を中退して紆余曲折があってなんとか就職したのに、ここで辞めたらまた白紙に戻ってしまう。ああこの人は私のことを大事に思っているわけじゃなかったんだ、自分のことしか考えてなかったんだ。ようやく踏ん切りがつき、私は彼と別れました。

とは言え、もし私が先輩の立場だったら、就職早々恋愛沙汰でもめる新人なんて信用なりません。職場に行くのは針のむしろ状態で非常に心苦しかったのですが、「大丈夫、経験豊富なお姉さまたちもいるから」と励ます先輩もいましたし、部長には注意を受けたものの退職させられることはありませんでした。私はこの職場に非常に恩義を感じ、無我夢中になって働きました。ここで退職したら本当に社会不適合者になってしまうという恐怖心もありました。

私が頑張れた理由としてもう一つ、「恋愛でやらかして人生がダメになった」女性には何としてもなりたくない、という意地がありました。口が裂けても「彼のせいで人生がぼろぼろになった」とは言いたくないし、「男性に翻弄されたかわいそうな私」と自分を憐れむような真似はしたくありませんでした。

それは私のプライドなのかもしれません。心身の弱い私が色々な問題をなんとか乗り越えられてきたのはなぜだろう、と考えるとき、この「自分を憐れみたくない」という意地は結構重要だったと思います。悲劇のヒロインにはなりたくないのです。

2-3年程すると、苦手だった対人コミュニケーションも随分楽にできるようになりました。当時無心になって働いたからに他なりません。信頼回復に必死だった私には「苦手だからやれない」などという選択肢は残されていませんでした。

信じられないようなトラブルにあった時はもちろん、苦手な仕事に向かう時、成果の出ない勉強に挫けそうな時、私はいつも新人時代を思い出します。どうしようもないやらかしネタではありますが、「あの時乗り越えられたのだから今回も」と自分を励ますのです。

#新人 #新卒 #新社会人 #失敗談 #恋愛   #共依存 #悲劇のヒロイン #創作大賞2024  #ビジネス


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?