滑稽な男女(18)~海と雪のふるさと
自業自得とはいえ、さすがにこの1ヶ月はかなり疲れた。
周から連絡はない。
周は落ち着きがあり、頭がいいから、慰謝料請求通知に動じてはいないだろうな。
周の場合、孝が既婚者とは知らなかったと言い通せる。私は同級生だから、難しいけど。
一度遊んだだけの、見ず知らずの男性が、慰謝料を払う理由はない。
ロングブーツに、ロングのダウンコートを着て、東京駅から上越新幹線に乗った。
トートバッグには、大判のストールとニット帽、革の手袋も入っている。
革の手袋は、東京では出番が無いので、ちょっと嬉しそうだ。
駅弁屋で柿の葉寿司とビール、緑茶を買って、自由席に座る。1月末の新幹線はわりと空いている。
14歳から18歳を過ごした、海と雪の街に向かう。
初めての一人旅だ。
2歳くらいの男の子が泣いている。
うるさい。
正直、うるさいよ。
せっかくの一人旅にも我慢はつきもの。
会社でも周りの人の話し声に我慢している。
若い頃は平気だったけど、40歳を過ぎた頃から、それまでまったく無かった生理痛がはじまり、下腹あたりがチクチクすることが多くなった。
そのためか、人の話し声や人と話すことがストレスになる。
プライベートでは、本当に気を許した人とだけ過ごしたいと思うようになっていた。
気を許せる人が、周のような出会い系アプリで知り合った男性だったり、孝のような人の夫だったりするから、自分でも訳が分からない。
でも、この2年間で、気を抜いて付き合える人は、本当に彼らだった。
だけど、私も知っている。
昔、一緒に暮らして、結婚も考えた男性に気を許していた頃は本当に幸せだった。
彼とはセックスレスになり、私から逃げ出してしまったけど。
できれば、また、ふつうの恋愛がしたい。
未来も語り合える人がほしい。
周と向き合えばよかったのかもと思う。
セックスレスではなく、セックスばかりで、そこから逃げ出してしまった。
セックスレスのときも、セックスばかりのときも、さみしいと思った。
自分の欲しいタイミングで、欲しい数だけしたいだなんて、なんてわがままなんだろう。
お互い違う人間だから、やっぱり会話が大事なんだろうな。
セックスのことも、2人の将来のことも。
もっと会いに行って、さみしいって声に出して、こういうセックスがしたいって言って、将来についても話し合おうって言えば良かった。
それで、周が逃げてしまえばそれだけのこと。私もたくさん逃げてきたから、仕方がないことだ。
でも、たぶん、周も本当の気持ちでは、そうしたかったんじゃないかな。
でも、もう周はいなくなってしまった。
(つづく)