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日本地理学会と共催でサマースクールを開催

2023(令和5)年9月7日、立命館大学東京キャンパス(東京都千代田区丸の内)にて、日本地理学会との共催でサマースクールが開催された。

本サマースクールは地理関連分野に関心のある大学生・大学院生らを対象に、実社会における地理学に関連した技術・知識を学ぶ機会として日本地理学会が毎年開催しているもので、本年度は「地図づくりで社会に貢献する地理学」として、初めて当協会との共催で実施された。

当日は午前中、希望者が会社見学として内外地図株式会社を訪れ、地図会社の現場を見学したのち、午後からは立命館大学東京キャンパスに場所を移し、講義やディスカッションがオンライン配信とのハイブリッドにより行われた。

日本地理学会箸本健二理事長の開会挨拶に続き、遠藤宏之地調協研究教育部会長による講義「地図・測量業界の現状~ハザードマップを例に~」が行われ、現在の地図・測量業界の構造や基本測量・公共測量の仕組み、民間各社が行っている業務の関係性などについて解説した。

開会挨拶にたつ日本地理学会箸本理事長(左)と、
冒頭の講演で地図・測量業界の現状について熱く語る遠藤研究教育部会長(右)

次いで、地図会社の仕事の紹介として、株式会社ゼンリンの古川智寛氏、株式会社東京地図研究社の石井利正氏、マップボックス・ジャパン合同会社の山家千晶氏がそれぞれに自社の事業展開について講演した。マップボックス・ジャパンは同社の地図デザインツール「Mapbox Studio」を使ったハンズオンも実施し、参加者に地図づくりの一片を体験してもらった。

株式会社ゼンリン  古川智寛氏(左)
株式会社東京地図研究社 石井利正氏(中)
マップボックス・ジャパン合同会社 広報 山家千晶氏(右)

最後に、参加各社が提示した「課題」を参加者が議論するグループディスカッションを実施した。
各社からの課題は、次の通り。

  • 株式会社ゼンリン

    • 今後、地図情報・地図業界で活躍する人はどんな人?(活躍するために学生の間に学ぶべきこととは?)

  • 株式会社東京地図研究社

    • どんな地図が求められているのか?(地図の提供者と利用者のマッチング)

  • マップボックス・ジャパン合同会社

    •  オープン・データを増やすにはどうすればいいか?

会場参加者は課題ごとに3グループに分かれ、課題を出した会社の社員が加わる形で、オンライン参加者は1つのグループとなって、それぞれのグループで選ばれたファシリテーターを中心ディスカッションを行った。

オンライン参加者を含めて4班に分かれ、各社から提起された課題について検討

ディスカッションの後、各グループの代表がディスカッションのプロセスや結果について発表を行った。

<A班の報告(ゼンリンの課題を議論)>
基礎的なスキルや幅広い専門分野の知識が必要。このことにより、地図への付加価値がつけられる。

<B班の報告(東京地図研究社の課題を議論)>
1. 特定のテーマに特化した地図、マニアックでも良いので、そういったものが求められる。
2. 高さを付与した精密な地図(例えば精密に地下まで表現された地図)。これによって、利用者はスマートな行動が可能となる。
3. 日本人が作る外国人にアピールする多言語の地図。日本人の目線で外国人に対して日本をアピールすることが重要。
4. 参加型の地図。地域住民が自分が済む地域がこうあって欲しいという理想や希望を表現した、いわば都市計画提案型の地図というのもあって良い。

<C班の報告(マップボックス・ジャパンの課題を議論)>
オープンデータについては、公開されているがどこで公開されているのかが判らなかったり、そこにたどり着けないケースが多い。
また、提供されるデータのフォーマットが不統一なのも使いにくい要因となっている。
これらが解消されたとして、次のようなデータがオープンになれば良い。
1. 人流データ
2. 自治体などで統一された「災害時の避難ルート」
3. 地下や新規供用開始された道路
問題点は、現在のオープンソースの地図データは、その修正などがボランティア頼みになっている点。新たな仕組みを構築することが必要である。

<オンライン班の報告(ゼンリンの課題を選択)>
「業界で活躍する」のはユーザーにとって判りやすい地図を作れることと定義し、そのために何を学ぶべきかを議論した。
必要なのはユーザー視点に立つためににさまざまな経験を重ね、広い視野を身に着けることで、そのために学ぶべきことは、
1. いろいろな地図の使い方を経験する
2. 多彩な表現方法を学習する
とした。

各グループの発表を受けて、各地図会社から、以下のような総評があった。
・柔軟な知識のアップデートができ続けることが必要。
・潜在的な「困りごと」を見つけ出す能力をもつ人材がこの業界には必要。
・地図はまだまだ多方面で発展し続ける可能性を感じた。
・オープンデータの存在を広める活動をしていく必要がある。
・業界の中にいると欠けてしまうユーザー視点を意識し続けることが重要
・みなさん、一緒に地図を作りましょう!

最後に本サマースクールの主催者である日本地理学会企画専門委員会の矢野桂司氏が挨拶し、初めて地調協との共催で、民間の地図会社の仕事を知る貴重な機会となり、意義のあるサマースクールとなったと振り返り、参加者全員で記念撮影を行った後、散会となった。

今回のサマースクール参加者

今回のサマースクールは、本協会にとっても、地図づくりに興味がある学生と触れ、その声を聞く貴重な機会となった。参加した学生たちは非常に熱心で、終了後も講義内容に対する質問や確認に来るなど積極的な姿勢を見せていた。
参加者の中から将来地図・測量業界で活躍する人材が出てくることを願ってやまない。

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