覚書_39
「腕時計」
高校の頃は、腕時計をしていた。
いつからか、きっとスマホを持ち始めた頃からだろう。
徐々に腕時計をしなくなった。
年末だからと掃除を始めると、母が使っていた腕時計が出てきた。
SEIKOの金色の腕時計は時が止まったままだった。
仕事が休みの日に、時計屋さんへ電池を変えてもらおうと持っていった。
いざ時計を開けてみると、手巻き式の時計だったことが判明。
巻き方なんて知らないから、教えてもらった。
それから一週間が経つ。
毎朝、ぜんまいを巻いている。
耳を時計に当てると、カチコチと規則正しい音が聞こえる。
それが随分心地いい。
十年くらい腕時計をしていないから、時計をつけた右腕に、まだ慣れない。
けれど、母の遺した腕時計が、もう一度時を刻み始めたことが嬉しいのだ。
きっと何ヶ月か後には、右腕に日焼けの跡もできるだろう。
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