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動物との暮らしに憧れを抱いていた美大生による卒業制作

本作は2021年の3月、とある都内の美大の卒業制作の「BOWHOUSE」についての日誌みたいなものです。
今年も卒展の時期ですが、この機会に 約1年経った現在では何を思うのか、そして当時何を思ったのかを言葉に残しました。 この制作日誌が今後卒業制作を行う学生さんのお役に立てれば幸いです🧸
2022/3/21 誤字脱字がありましたので、一部分修正致しました。

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まずは私の卒業制作の紹介から。


作品タイトルは「BOWHOUSE
日常生活から非常事態まで一貫して使用できる、愛犬と飼い主のための防災テントです。

💬「自分の防災準備は万端だけど、愛犬の防災準備は万端ではない」

近年自然災害が相次ぐ中、日頃からの防災対策が重視されています。そんな中、ペットを飼育している方の大半が「ペットのための防災準備が不十分」ができていないことがアンケート調査にて判明しました。

実際には、不十分だった防災対策の例として、
○想定している避難所がペットの同行避難(もしくは同伴避難)が受け入れているか
○避難所までの移動の負担
○避難グッズに愛犬のための用品は備わっているか
(ご飯、お水、薬、狂犬病の証明書など)などなど…

💡「予測できない避難所のトラブルを最低限に留めるための準備」
を促す防災グッズ

避難所のような非常事態での環境下では、予測できないトラブルが数多く潜んでいます。
そこで多くの問題の根幹には、愛犬が非常事態に過ごす「環境」が影響されるのではないかと考えました。

日常⇄非常事態で過ごす環境のギャップを少しでも減らすことで、飼い主と愛犬の両方に負担を軽減できるのではないか、このような提案を行いました。


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2020.4-5 「ペットのための」防災準備は万端ではないよね


元々動物との暮らしに関わる卒業制作をしたいと思っていた私は、ペット関係のお店でアルバイトをしていたことや、知人にペットを飼っている方が多くいたことから初期の段階で「ペット関係の制作をしたい!」と決まっていました。

プロダクトデザインの卒業制作の大きな評価基準の一つに「社会貢献性の高いデザイン」という項目があったため、ペット関係で社会貢献生の高い課題だと「災害」「防災」というテーマは自然と決まりました。

そこでまずペットを飼っている方々に「普段からペットのための防災対策は意識できているか」というアンケートを実施しました。

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【アンケートの結果にて分かったこと】
アンケートの結果により、飼い主の防災意識の傾向が分かりました。
○2、3日以上の最低限のご飯、数枚のトイレシーツの準備はできている
○想定している避難所がペット受け入れかどうか把握ができていない
○実際に避難所に行くまでの過程、避難所にて過ごす状況があまり想定できていない
○「待て」「座れ」「クレート」など、周りの家庭に迷惑をかけないようにしつけができていない

そこで愛犬が非常事態に過ごす「環境」を着眼することに。
自然とペットが過ごす環境に初期段階の時から着眼していました。

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ただただ、ひたすら調べて脳内に思い浮かんだのを絵に起こしていました。

「移動できる日常空間」をテーマとし、既存製品(クレートやキャリーなど)と差別化できるよう「+a」の機能として「状況に応じて空間の大胆な拡張機能」を取り入れました。


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2020.6 中間審査にて


2020年6月。第1回の中間審査が行われました。ご時世柄もありリモートでの開催でした。

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第1回の中間審査では「非常事態でも飼い主と愛犬が、共に過ごすための防災テント」をテーマに愛犬が過ごす空間が2段階変化する提案を行いました。

審査で頂いた評価&感想を要約するとこんな感じ。

頂いたアドバイス💬
● 猫だけではなく、他の動物でも避難で必要なもの・ことを分析して、共通して取り上げる必要があるかも?
→最初にペットという括りではなく、どの動物対象なのかを明言したほうがいいかもね
● 避難所でパッと広げられるにはいい。運動不足解消できるのもいいね
● 人間とペットの関係性から導かれるプロダクトに期待
● 災害時を想定するのであれば、有事にすぐに準備できることが大前提
→アタッチメントの余裕はないかも?
● 最近はキャスターやキャリーバーの内造のかばんなどあるので参考に!
● 移動時と到着後で大胆な形の変化があるといいかも
→折りたたみテントのような仕組みを参考にするといいかも
● ペットの分類は?体系化の必要があるのでは?
ケージの必要項目を明確にし、対象となるペット類に応じてその優先度が選べることもあり?
● ペット目線がオリジナリティになるはず

頂いたアドバイスを参考に、今後私がやることを明確にしました。

やらないといけないこと📝
● どのような種類のペットをターゲットにするのかを明確にする
● 犬をターゲットにした場合、日本で飼育されている犬種の傾向を調べる
・調査により分かったこととして、日本で飼育されている犬種は所謂「小型犬(ここでは体重5kg未満を定義)」の部類に分類される犬種が多いこと。      ・そして市場のペット商品の多くが小型犬向けに作られていること。例えばドーム型クッションの寸法の平均が400×400×460(mm)。またスリングバッグの幅も400mmのものが多い。

頂いたアドバイスをそのまま自分の作品に取り込んでしまうと、自分が本当にやりたいことが薄れてしまうので、一旦アドバイスを自分の中で消化し、
頂いたアドバイスをあくまで参考にする姿勢は大切だと思うのです…🧸


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「え、これって本当に実現できるの…?」


中間審査明け、当時の私の最大の難所は「本当にできるかどうかの確証がないこと」でした。

まずは中間審査で頂いた意見の通り、市販のポップアップテントを購入しました。実際に畳む⇄広げるという行為をしてみました。

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実際にAmazonで5000円くらいのポップアップテントを購入。
試しに購入したテントの骨組みを参考に、
実際のスケールの1/3の大きさで簡易的なモックを手縫いで制作。
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2020.10 第2回中間審査にて


若干内容の準備も整わないまま、中間審査に挑みました…

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第2回の中間審査では実際に1/3スケールのラフモックを制作し、形態ごとの説明を中心に行いました

第1回目と同様、発表後に頂ける評価シートの意見から今後の課題を明確化していくことに。

 頂いたアドバイス💬

● 3種類の変化を構造的にどう実現するのか、早急に検証すること
● 動物がケージの中で立っていられる平らな面は移動の際も確保できているのか?ペットにとって抱き抱えられた方がいいのか?ペットの立場で考察するのは難しいが、ペットを使って検証して欲しい。現在のアイデアは一般的なテントのミニチュア版にファスナーが付いているだけのようにも受け取られかねない。
● ワイヤーで広げたり折りたたんだりすること自体は技術的に問題はないが、畳んでペットを運ぶのにそのアイデアが本当に適しているのか、よく検討すること。畳んだ上で内部構造をどう確保するか
● 犬にとっての安心をデザインすること
● よく考えられていると思うが、実際に簡単かつ効果的な使用ができるかどうかがポイントになってくる。最低限の非常収納スペースは残して欲しい
すぐにやらなくてはならないこと📝
● 構造面が本当に実現的で効果的かどうか?
● 移動時のペットの体勢(抱っこ)は本当にそれでいいの?

中間審査では「移動時のペットの体勢(スリングバッグのように抱っこ)は本当にそれでいいの?」という言及に対して、私の中でうまく言葉にできなかったので、審査後改めて整理。

● 移動時のペットの体勢(抱っこ)は本当にそれでいいの?
→愛犬を運ぶのに「クレート」「スリングバッグ」「リュック」「ショルダーバッグ」が代表的に挙げられる。
災害時のような緊急時では移動は迅速かつ安全に行動できることが第一条件。そのため今回は「重い」「片手が塞がる」「持ちにくい」等の要素を持つクレートやキャリーケースは除外。
リュックの場合、人間用の防災セットがリュック型が多いので、保留。

今回の提案では「体重が5kg以内の小型犬」に絞る(日本のペット犬のほとんどが小型犬として分類されるため)
抱っこの体勢で移動がしやすいスリングバッグのような形状のものを採用。(ショルダーバッグだより愛犬の体重を感じにくい)

とモヤモヤを一回言葉にし、立ち止まって、整理することで、改めて気付く知見もありました。


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「動け!」「作れ!」「ちょっと待て、考えろ」


この時点でようやく気付きます。「あ、これ、作りながら考えないと終わらないやつだ」と。(遅い)

1/3スケールのモックを試しに作ったとはいえ、原寸の大きさが同じように機能できるか確証はありませんでした。

ずっと指摘された通り、私の提案は構造面にて難ありなので、一旦考えるのは辞めて、実際に作ることをはじめました。

まずテントの軸(フレーム)となる「ダンポール」という農業用トンネル支柱の調達からスタートです。

しかしこのダンポールは直径も形も長さもたくさん種類があるので、各種類で検証する必要がありました。

太さや長さが合わないと、圧着部分に接する部分が折れてしまう…難しい
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スプレットシートに今日を何をしたのか、明日何をするのか…と
検証している時は言葉にしてまとめていました。
フレームに使った素材も一覧にし、検証では何mで行ったのか随時記録📝

検証が進む中、なかなかいい感じの種類のダンポールが見つからず、行き詰まりどうしよう…となっていたところ、

ふと学校の工房の片隅に、数本今まで検証していなかったサイズのダンポールを発見。

建築の授業で使ったものの残りとのことで、そのダンポールを頂き、検証してみた結果、私が探し求めていた種類のものでした!
灯台下暗しとはまさにこのこと…🐶

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おそらく私にしかわからないであろう雑メモ。
このメモを描くためにいろんなところに足を運び、見て、触ってきました。

この「実現できるかどうか」の渦中、3年生の頃に受講していたインタラクションデザインの先生が「実現できなければそれはただの絵空事、考えていないのと同じだよ。」と言っていたのを思い出しました。

実現できれば説得のレベルも格段に上がるし、デザインにおいて大切な要素なんだなぁ、と改めて実感。

そして私には、作る:考えるの比率が8:2ぐらいがちょうどいいということも分かりました。自然とどうすればいいのか、と考えてしまうので…


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2020.11 作って、壊して、作っての繰り返し


さてフレームが私の想定する大きさで八の字型に捻られる確証ができたところで、次はテント生地の作成です。

しかしミシンは小学校の家庭科の授業で使った以来、全く触っていないので、作業の傍らミシンの基本練習も行っていました。

ここからは生地を取り扱うお店で安価な生地をたくさん購入し、作って見て、検証して、壊して、検証しての繰り返しです。

↑原寸大のラフモック
↑実際に使ってもらい、スケール感の確認☑️
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実際にわんちゃんに試してもらうと、こっちの方が入りやすい&寛いでる!
という新たな発見もありました。
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テントの可動域の生地の寸法がどうしてもうまく採寸できない…😢
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縫い方、生地の幅など裁縫素人の私にいろんな方が力と知恵をくれました…本当に感謝しかない…

そして拙いながらも頑張って最終モックの生地の裁断が完了。下記の写真はファスナー部分の生地です。

最終モックのテントの生地裁断の一つ。
絶対もっと綺麗な方法があったとは思うけれど、これが私の精一杯でした…
最後に縫い合わす前に、入ってもらいました🐩
中に入って座る部分は生地が何重に重なるので、クッションとして機能します


色々苦しいところもありましたが、なんとか完成しました…!


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2020.12 いよいよ展示準備!


まずモックが完成したら、チワワを飼っている友達にモデルをお願いして使用シーンの撮影を行いました。

↓オフショ (?)

このチワワちゃんはこの洞穴型がお気に入りだそう。数分経つと中で寝ていました🐶
最初は「なんだこれ」と若干警戒していましたが、次第に慣れて入ってくれました🐶

撮影に協力してくれた友達とチワワちゃんに感謝…!

最終審査ではコロナ禍ということもあり、例年のような完全な状態で実施することは叶いませんでした。

また卒博もオンライン上のみの開催でした。

それでも家族や親戚、昔の知人に友人たちに「よかったよ!」とLINEで連絡をくれたりと、「あぁ、頑張ってよかったなぁ」と心から思いました…

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最後に、


当時はコロナ禍による突然のリモート化だったり、私の諸事情の都合など、不幸なことが色々重なり、特に4-7月は本当に苦しかったのを今でも覚えています。

しかしそのような状態の中でも、一つの作品を作り上げたことは、私の中での大きな自信になったし、大きな糧となりました。

この経験があれば、なんだか何でも乗り越えられそうな気がします。


また制作面に関しては、「愛犬の防災準備」という課題が実際にたくさん課題が潜んでいる中で、今回私が着眼したのは「愛犬が非常事態で過ごす環境によるストレス」でした。

当然これ以外の課題も着眼点もたくさんあります。

この卒業制作では、膨大の問題の山から「私が発掘した一つの答え」として、自分の制作を自分の意思で貫き通すことができました。

そしてこの姿勢を大切にものづくりを続けていきたい、と思った1年でした。


この制作で学んだこと
①作りながら考えた方が効率がいい
②作って、壊して、もう一回作るの繰り返しを大切にする
③自分の考えを実際に「形」にすることの重要性。形にすることで、自分の考えの説得性も高まる。


ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記録が今後ものづくりをする人のお役に立てれば嬉しいです🧸


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▼2020年度卒業制作選抜展(去年の)

こちらもぜひ!
今年度の母校の卒展が、2022年3月13日(日)〜3月20日(日)江古田キャンバスにて開催されるそうです!
(予約必須で、入校前8日間(入校日を含めると9日分)の検温記録が必要なので、行くという方はお早めに予約した方がいいのかもしれません。)

▼2021年度卒業制作選抜展(今年)

▼卒博申し込みページ、注意事項


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