ミュージカル「この世界の片隅に」~歌唱指導の視点から~(3)
相方のジュンコ先生と。
そんなこんなでこの
「まだ世の中に出ていない、完成されていない」
作品の歌唱指導を引き受けることになったんですが、
何せミュージカルの仕事は未体験ゾーンの私。
歌唱指導そのものは出来ても、その他の舞台のセオリーや段取り、稽古の流れやスケジュールなどあまりに知らないことが多すぎて不安なため、助手を黒崎ジュンコちゃんにお願いしました。
彼女はVOICEGYMのWEB制作や事務方をずっと手伝ってくれてる人で、ズボンドズボンというバンドのボーカリストであり、2.5次元舞台の歌唱指導経験豊富なボイストレーナーでもあります。ちなみに私が初めてジュンコのボイトレを担当した時、彼女はまだ女子大生だったんだよね!
まずはワークショップに向けて。
稽古が本格的に始動するのは2024年3月からでしたが、2023年1月にワークショップが行われました。これはまだ決定稿ではない台本を、実際に演者にリーディングしてもらったりデモ楽曲を歌ったりしてもらい、そこからまたブラッシュアップを行なっていくためのものです。
この段階での楽曲のデモ音源はすべてアンジー本人の声を重ねて録音されているため(男声パートも!)、20人以上の男女のコーラスでどう聴こえるのかは、やってみなければわからないもの。(実際に稽古場で音取りをした後、全員で声を合わせて歌ってもらった時には鳥肌が立ったもんです!)
2023年の年が明けてすぐ、ジュンコに下北沢の我が家まで来てもらって…私たちはアンジーのデモ音源と楽譜の束とを照らし合わせながら、延々と「解像度を上げるための分析作業」を始めました。
譜面に書かれてない音を洗い出す
たとえば2幕の最初の方。M14の「掘り出しもんみーつけた」の
サビの部分は、譜面上ではこうなります。
でも実際のアンジーのデモ歌唱では、この譜面に書かれていない細かな音が入っていたり、あえて休符を入れることでグルーヴを生み出すような歌い方をしていたのです。
あえて譜面に書くとしたら、こんな感じです。
この曲はどこか日本的な、昭和っぽいメロディーでありながら実は16ビートのファンクのようなリズムの要素を持つ楽曲。今までのミュージカル歌唱ならばきっとAのような歌い方になったと思いますが(^^;)アンジーとも話し合い、このBのノリは絶対にみんな(演者)に再現してもらおう!ということになりました。
今回の作品の楽曲には、こういう「ふつうの楽譜には書かれない」ポップス的要素がふんだんに盛り込まれています。ですが、決してポップスの持つネガティブなイメージ「チャラチャラしてる」「軽い」「浅い」楽曲は一つもありません。
アンジェラ・アキという音楽家が書いた曲達にはひとつひとつの音や休符に全部意味があり、それらが連なりひとつひとつの言葉と深く結びついているメロディーがあり、その景色や心情を表すハーモニーがあります。
私とジュンコは、それを演者のみなさんに伝えるメッセンジャーであり翻訳者のような存在だったと思います。
(続く!)
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