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【漫画紹介】朔田浩美『百花春風抄』

ボンチノタミ、ジョーカーです。

今回紹介したいのはこちらの漫画。

講談社 ワイドKC Kiss
朔田浩美『百花春風抄 花の章/風の章』

朔田浩美さんの『百花春風抄 花の章/風の章』です。

2011年発行、幕末長州藩の人物・高杉晋作を巡る人物たちの物語を描いた作品です。
花の章』では彼を取り巻く女性たちの物語が描かれ『風の章』では男性たちの物語が描かれています。

わたしは高杉晋作が大好きなので、こういう漫画はすぐに買ってしまうのですが、中でもこの作品はいちばん好きです。
絵の雰囲気、物語の爽快さや切なさ、高杉晋作という人物の描かれ方、全部がお気に入りで、何度も読み返しています。

あらすじ

高杉晋作と彼を取り巻く人物たちの物語をオムニバス形式で描いた作品ですので、あらすじというものは特にありません。
史実に沿ってそれぞれの人物の物語が描かれます。

『百花春風抄 花の章』
「革命」に恋して、「死」を願った男に女たちは「生きる」意味を教えた。
幕末の志士・高杉晋作を愛した女たちが咲かせた5つの恋物語。

『百花春風抄 風の章』

新しい日本の夜明けを求めて「革命」に生き、疾風のごとく幕末を駆け抜けた男・高杉晋作と日本を変えた6人の男たちとの物語。

 『百花春風抄 花の章/風の章』単行本カバー裏より

『花の章』では数多くの女性と出会ってきた高杉晋作の奔放ぶりや正妻との関係性が、そして『風の章』では坂本龍馬や久坂玄瑞など、史実に登場する幕末志士たちとの関係性が描かれます。

高杉晋作とは

わたしが大好きな人物です。好きすぎると余計なことばかり書いてしまいそうなので、簡単に紹介します。

幕末長州藩尊王攘夷志士として活躍した人物で、奇兵隊など諸隊を創設したことで有名です。
生まれは良いとこのお坊ちゃん。ゆくゆくは藩主である毛利氏を支えるための藩政の要職に就けるという生まれながらのエリートだったわけですが、藩の学校(明倫館)の勉強よりも、当時は危険な思想を持つ人物だとされていた吉田松陰私塾(松下村塾)で学ぶことに熱心になり、それが彼自身の思想や、ひいては長州藩の、そして日本の未来を拓いていく礎となっていきます。
しかし、彼自身は明治維新をその目で見ることなく29歳という若さで病に倒れました。
酒が好き、女が好き、破天荒で過激派。
反面、家や藩を大切にする良家の子息でもあり、藩からも頼られる切れ者。
三味線を愛し、風流を愛する一面もありました。

『百花春風抄』にある春風という言葉は、晋作の諱です。

頑張ってかなり割愛しました。以前、N●Kの歴史番組で<愛されやんちゃ>と称されていましたが、そんな感じの人物です。

ここがおすすめ

高杉晋作の描かれ方

前述のように、わたしは高杉晋作が大好きです。
漫画やアニメ、小説にドラマ、いろいろな描かれ方をする高杉晋作を見てきました。
強く気高くありながら奔放で破天荒、風流を愛し自由に生きながらも家や藩のことを捨てられない忠義心のある人物で、周囲を振り回すけれどどこか憎めない愛される人物、というのがわたしのイメージなのですが、そのどの部分も描かれていてとても良い高杉晋作を見ることができます。
女性関係の少しだらしない部分と、それでもきちんと正妻を持ち子を成すという、高杉家長男としての姿。
最期まで面白く、自由に生きようとする姿。
仲間とともに命を散らして、紫電の如く駆け抜ける姿。
強さ、儚さ、美しさ、無邪気さ、狂気、そういう、わたしの大好きな高杉晋作の色々な部分が描かれています。
読んだら高杉晋作ファンになると思います。

『黄金の御神酒徳利』

坂本龍馬、桂小五郎(木戸孝允)、久坂玄瑞、伊藤俊輔(博文)&井上聞多(馨)、そして奇兵隊に属する少年・五太郎という6人との5つの物語で、どれも良いのですが、特に伊藤井上コンビの『黄金の御神酒徳利』は嬉しいエピソードでした。

この<御神酒徳利>というのは伊藤井上コンビの呼称です。長州藩好き界隈では割りと有名ですが、そうでない人に話したら「なにそれ」と言われた程度の知名度でした。
互いに欠けてはならぬ、ふたり揃ってこその存在。そういう意味です。
実際、明治期になるとこのふたりは政府で大活躍するので、教科書などで名前を見た方も多いかと思います。近年の大河ドラマにも伊藤博文と井上馨が出ていましたしね。
ただ、高杉晋作の物語となると松下村塾に焦点が当たりがちで、同じ村塾生である俊輔はまだしも、聞多についてはあまり触れられないこともあるんですよね。
公使館焼き討ち事件だとか、畳針で縫われたけど駆けつけてくれたとか、要所要所ですごく活躍してくれているし、助けになってくれているんですが。
どちらかというと長州ファイブのほうがイメージ強そうだなと思っています。
そんな、晋作死後の明治を担っていくふたりと晋作の関係を描いてくれているので、このエピソードが好きです。御神酒徳利かわいい。
あと、坂本龍馬のエピソードも大好き。晋作と龍馬の関係性大好き。

画面の美しさ

絵が綺麗、という言い方でも良いんですが、それだけではないんですよね。
シーンごとの温度や情感が伝わってくる、素敵な作画だと思います。
時に華やかに、時に穏やかに、時に激しく。その中に立つ人物たちが強く美しく生きる様が一層際立つような背景や、細かな描写、そして絶妙な間。
また、百花とタイトルにあるように、花にまつわる話や、もちろん花が描かれる場面も多く出てきます。これがどれもその人やそのシーンのイメージに合っていてとても美しいです。
そういう部分も、風流を愛する晋作っぽさがあって良いんだよなあ。

動けば雷電の如く発すれば風雨の如し

伊藤俊輔は、後年、高杉晋作をこう評しました。
雷のように、風雨のように駆け抜けて、そして若くしてこの世を去っていった高杉晋作。
けれど彼はその勢いのままに走るだけではなく、傍らの花を愛で、仲間とともに風を感じ、そうして生きて散っていったのです。
教科書ではさらりと流してしまうことの多い人物かと思いますが、興味のある方はぜひ読んでみてください。
高杉晋作好きのひとりとして、おすすめしたい作品です。

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