ひそひそ話
「ねぇ、久しぶりじゃない。25年ぶりぐらい?」
一 あゝ、そうね。成人式、2回まわってきちゃったもんね。
「元気にしてた?学生の頃の面影はないけど」
一 そりゃそうよ、10キロは目方増えてるもの。あの頃は走るのだって苦じゃなかったけど、今じゃ、コンビニ行くのも車、使っちゃうわよ。
「まぁ、そうよね。
それにしても、彼女のこと、覚えてる?」
一 卒業して、一回、同窓会やったでしょ?アレ以来、会ってなかったから‥‥
「そうよね。悪い人じゃなかった。あんまり覚えてないな。そんなに親しくなかったから」
一 たしか、新聞を教室の後ろの掲示板に張られてたのよ。運動は全然だったけど、そっちの方は頑張ってたのよね。
「あぁ、そうだった、そうだった。でも、アレね、担任が勝手に応募してたのよ」
一 え、何で?名前出てたじゃん。本人の許可とらずに、先生が応募してたの?
「そうなの、放課後に掲示板を睨みつけてたトコ、見たのよ。でさ、褒めたの、学校の名前も出て、すごいね、良かったね、って。
そしたら、頼んでないよ、って。嬉しそうじゃなかったわ」
一 そうなんだ。昭和の話だもん。コンプライアンスなんて無かったよ。名簿なんて、あちこち出回ってた時代だよ。自分の名前、晒されて、出ると思わない作文が、ある日突然新聞に載ってたら、気分悪いね」
「田舎の学校だから、余計じゃない?先生なんて、そういうことで点数稼ぎたかったんだろうね。彼女も気の毒に。思春期のときは、気をつけてあげなきゃいけないのに」
一 あと、児童会長、やってたよ。小学校のとき。
「そうだったっけ。あぁ、そうそう。みんなやりたくないから、推薦で名前があがって、多数決で決めたんだ」
一 アレも、やりたくなかったんだろうね。
決まってからも、しぶってたもんね。
「うん、まぁ、悪い人じゃなかったから。嫌々でも、がんばってたんじゃない?あんまり記憶ないけど」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
私は、そんな話をしている古い友達のやりとりを聞いている。
これくらいでいいな、って。
弔問客のヒソヒソ話。
あの人、頑固で、付き合いづらかったよね、
とか。
意地悪されて、顔も見たくなかった、とか。
テスト勉強できなくて、罰でペナルティのマラソンやらされたよ、とか。
そんな想像力、いらないけど。
泣かなくていいから、
悪口ばかり言われるのはちょっとな、なんて。
もっと面白い会話を期待しているけど。
そういうの、お願いするものじゃないからね。
〜 石蕗の花 手を伸ばしても 空をきる 〜
(つわのはな)
ちび蔵 ココロの俳句
※好きなツワブキの花を手折ろうと手を
伸ばしてみたが、実体が無くなり掴む
ことが出来なくなりました。
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