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その手は空いてませんか

  (約1,100字)



調剤薬局に勤めていたときの話です

数日しか働いてないときで、何とも言えませんが、患者さんが来るとピリっとした空気になります

門前薬局(すぐ近くに病院がある薬局のことをいいます)のため、病院側と道路側から患者さんがいらっしゃいます


病院に来られるお年寄りの方は、歩くのもやっとで来訪されたり、家族が付き添っていても距離を置いて同じ空間を過ごしたりします

それは薬を受け取る場所でも同じで、お一人で来られた患者さんがタクシーを呼んで、自宅まで帰られる場合もあります


その殆どが、薬局で薬を受け取ったときに
「タクシーを一台、お願いします」
となります

ある患者さんが、リュックを背負って杖をつきながら薬を受け取られました

タクシーを頼んでから10分ほどで、タクシードライバーさんが薬局へ現れました

ドライバーさんは、すぐに後ろのドアを開けてドアを両手で押さえていました


介護タクシーではありませんでした



私はおばあさんの歩き方が危なげだったためカウンターを出て、後から追いかけました

道路側の駐車スペースは、なだらかな下り坂に
なっていました

ほんの数メートルですが足腰の不自由なかたが杖で歩くのは、下り坂が意外と危険なのです

ヨロヨロと歩く小柄なおばあさんが、タクシーに向かって歩いていくのに、ドライバーさんはドアの横で身動きせずに待っていました


そうしないとドアが閉じてしまうのか、タクシー会社のルールなのかは、分かりません

ドアの端を押さえる両手は、動きませんでした

介護の仕事をしていた時期があったので、他人の体を支えることに抵抗はありませんが、慣れないひとにはハードルがある行動かもしれません

右手で杖をつき、私が左腕を少し支えると、おばあさんの体の緊張がゆるんだのが分かりました

ありがとう、と小さく言われました


タクシードライバーの方は、高齢の場合もあります

そして元気な方は、なかなか身体の不調を抱える人の気持ちは分かりにくいものです


でも、

自分が風邪をこじらせたとき、

疲れて、ご飯を用意するのも大変なとき、

腰痛で同じ姿勢を取れないとき、

頭痛で機嫌が悪いとき、

胃腸に違和感があって気持ちが悪いとき、

みんな、年齢差がなくても感じる不調はあると思います

もし、そこに手すりがあれば、
誰かの代わりになります


でも、都合よく手すりがある所ばかりではありません

手すりがないときは、元気な人が手すりになってあげてほしいです

元気でなければ誰も助けられません

自分が健康でいさえすれば、
だれかの手になったり、
だれかの足になったり、
誰かの
ホッとできる存在にかわれます

健康で、元気に、
ときどき笑って
ひとを楽しくしたいものです



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