『花火があがる日』【#春ピリカ応募】

夏の風物詩に、2人で出かける日が重なったのは偶然だったか。
浴衣を着る機会は、小学生の夏以来なかった。

マサくんは、ずっと私の3歩先を歩くような人だった。
学年はひとつ上だし、スポーツの趣味が合うわけではないし、家が近所でもない。
それなのに何年かに一度、私たちは顔を合わす日があった。

最初は、小学校に上がる前、私はランドセル選びで商業施設を訪れていた。どうしてもランドセルの背中の部分が気に入らず、両親が何度代わりの商品を見つけてきても、気に入ったものに当たらなかった。
マサくんは一学年上で、ランドセルのメンテナンスに訪れていた。とても姿勢が良い人だと思った。

ニ度めは、中学校にあがり暫くしてからだった。マサくんは私立の有名中学校に通っていて、まるでそれが当たり前であるかのように爽やかな出で立ちで、大きな楽器を背負って部活動に励んでいた。
放課後の帰り道、あまりに天気がよく、遠回りと知りながらも私は、家から一つ離れた大橋を渡り、図書館で宿題を済ませた。
土手で川を眺めていたら夏草の香りがして、寝転がってみた。

「ねぇ、寝てるの?」
マサくんが、私に掛けた第一声だった。

「うわっ、えっ、あ、すみません。寝てしまったわ」
と、私は上半身を起こした。

夕日が西の空に大きな赤い光を放っていた。
夕日の赤を横顔に受けて、
私たちは初めて会話をした。
「遅くなると、この辺は暗くなるから、早く帰った方がいいよ」
優しい目をした人だと思った。

次にマサくんと会ったのは、高校生になってからだった。

進学校に入学した私は、勉強の息抜きに楽器を始めた。
背中に楽器ケースを背負ったマサくんが忘れられなくて、いつか会えるかもしれないという下心を抱えて、私も楽器を奏でる人になりたいと願った。

朝の挨拶の後に、びっくりするくらい簡単に、憧れていた人と再会を果たした。

「今日から、このクラスの仲間になる、森野マサノリくんだ。昨年、海外留学をしていて、
今年の春に帰国された。あとは、本人から聞いてほしい」

担任はマサくんに自己紹介するよう促した。その日から、憧れは近い距離で呼吸することになった。

マサくんがカナダのバンクーバーに一年、留学していたことを聞いた。私は幼い頃から知っていたのに、それを言い出す勇気はなかった。

季節は、長袖では汗ばむ暑さに移り変わっていた。
観光地としても有名なこの町で、花火が上がる日がやってきた。

ぞろぞろと人が進む中、マサくんがひとり歩く姿を見つけた。マサくんも私を見つけてくれた。

「同じ組のハルミさんでしょ。あと5分くらいのところだから、行こうか」

マサくんは、ペン型の懐中電灯を私の方へバトンみたいに差し出した。人波ではぐれないように、そっと懐中電灯を握った。

「あ、ごめん」
マサくんは懐中電灯を右手に持ち替えて、左手を私の右手の近くまで伸ばした。
私は恥ずかしくて、マサくんの指の1本をそっと握った。
ひんやりと冷たい指だった。


               (1,200字)




 ◇初めて恋愛小説を書いてみました。
  ピリカグランプリに初めて応募させて
  いただきます。よろしくお願いします◇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?