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牛とウイルスと人間、4000年の物語

みなさん、こんにちは。牛ラボマガジンです。牛ラボマガジンでは「牛」を中心としながらも、食や社会、それに環境など、様々な領域を横断して、たくさんのことを考えていきたいと思っています。
新型コロナウイルスの影響で、大変不安定な世の中になってしまいましたが、私たちも、その中で何ができるのかを考え、勉強を続けています。
今回は、牛の病気について調べたことや、考えたことをお届けします。病気になるのは人間だけではありません。牛にも、一生懸命にウイルスと戦ってきた歴史があったのです。

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牛のペスト、「牛疫」

牛の病気でいちばん有名なのは「牛疫(ぎゅうえき)」というものです。牛疫は「牛のペスト」とも呼ばれる、とても有名な病気なので知っている人も多いかもしれません。主な症状は、発熱、涙、鼻水、よだれ、そして激しい下痢です。致死率も約70%とかなり高く、発症後は通常1〜2週間で死に至るという、大変危険な病気です。

牛疫の歴史はとても古く、紀元前2000年頃、つまり、今からおよそ4000年前にさかのぼります。紀元前2000年頃のものと思われるエジプトのパピルス(古代エジプトで使用された文字の筆記媒体)に、牛疫のことを示すようなことが書かれていたそうです。
それ以外にも、さまざまな古代文明の名残の中から牛疫に関する情報が発見されており、牛疫は古くから牛を苦しめてきた病気だったということがわかっています。

現代の人間と同じように、古代の人間にとっても牛は欠かせない存在でした。牛は農業のための重要な労力として、人間のために活躍してくれていたのです。だから、牛が病気になってしまうと、人間の社会にも大きな影響がありました。
たとえば、4世紀後半にローマ帝国近くで発生した牛疫では、一部の民族の中で牛が全滅してしまい、人間は飢餓に陥りました。その結果、暴動が起こり、その争いの中でローマ皇帝は戦死してしまいました。それがローマ帝国が衰退した原因の一つとも言われています。また、18世紀にはヨーロッパ中で牛疫が大流行し、約2億頭の牛が死んでしまいました。これは、この当時のヨーロッパ全体の牛のおよそ半分に相当する数です。ほかにも、19世紀後半にはアフリカで牛疫のパンデミックが起こるなど、牛疫は世界中に大打撃を与えた大きな病気でした。日本でも、寛永年間に大きな流行が起こり、50万頭以上の牛が死んでいます。
どうしてここまで牛疫が世界中に広がったかというと、それは、戦争が大きな原因です。戦争中、食用のために軍は相手国内に牛を持ち込みました。その牛から相手の国の牛に感染し、世界中に広がっていったのです。

牛疫の撲滅に向かって

では、このような病気にたいして、人間はどう対処してきたのでしょうか。その答えは、「移動の制限」と「ワクチンの開発」です。なんだか身近な話題になってきたような気がします。

感染拡大の大きな原因は、牛の移動です。だから、牛の移動を止めてしまえば、感染は拡大しない。数百年前のイタリアでは、違反した者は死刑にするというくらい厳しい内容で、動物の移動を制限したようです。これがとても効果的で、すばやく牛疫が収束したと言われています。これはまさにいま新型コロナウイルス対策で世界中で行われている「ロックダウン」と同じようなものだと思います。非常にシンプルな方法ですが、非常に効果的なことが、数百年前にすでにわかっているのです。

ただ、その後も牛疫は繰り返し発生していました。そこで人間が取り組んだ活動が、「ワクチンの開発」です。
牛疫の感染を止めるため、牛疫を撲滅するため、ワクチンの開発は進みました。しかし、ワクチンの開発も一筋縄ではいかなく、撲滅できたと思ったら再発してしまったなど、数々のトラブルがあったようです。しかし、最終的には、ワクチンを接種し、発生が止まった時点で接種を止め、清浄化確認を行うというフローを取ることで、撲滅へと向かっていきました。
いま、新型コロナウイルスもワクチンの開発が進んでいると聞きます。ですが、もちろんかんたんなことではないでしょう。何年間もかけ、検証を繰り返し、開発していくのだと思います。

「移動の制限」や「ワクチンの開発」など、牛疫撲滅に向かう世界的な取り組みの甲斐もあり、日本国内では1922年に撲滅され、世界でも2011年に撲滅が宣言されました。こうして世界から牛疫はなくなったのです。これは、天然痘の次に人類が根絶した2つ目の感染症といわれています。牛疫の根絶は、人間と牛とウイルスの、4000年にわたる偉大な歴史の物語なのです。

ウイルスから考える、これからのこと

このように、人間の世界だけでなく、動物の世界でも、はるか昔からウイルスとの戦いがありました。それに、「移動の制限」や「ワクチンの開発」は、いままさに行われていることであり、人間でも動物でも、ウイルスへの対策が完全に一致します。新型コロナウイルスの話の際、スペイン風邪やペストが過去の事例として挙がることが多いですが、牛疫の歴史からも学ぶことはできるかもしれません。

今回牛の病気について調べようと思ったのは、正直言って、新型コロナウイルスの影響です。人間に感染症があるならもちろん牛にもあるはずだと思い、調べはじめたのがきっかけです。いろいろと調べてみると、非常に興味深い歴史が多く、大変勉強になりました。

戦争によって広がった牛疫ですが、グローバリズムによって広がった新型コロナウイルスも非常に近いものがあります。動物と人間、戦争とグローバリズム、という点ではもちろん違いはありますが、「国境を越えていのちが交わる」という点においてはまったく同じです。いつの時代も人間は、なんらかの形で国境を越え、ウイルスを広めているのです。そして、ウイルスに対して人間ができることも、数百年前から何も変わっていないのです。

新型コロナウイルスはまだまだいつ落ち着くのかわかりません。ですが、かならず落ち着くときは来ます。そのときに最大級のようこそを言えるように、ウシノヒロバメンバー一同、一生懸命にプロジェクトを進めています。

みなさんのもとに、一刻もはやく穏やかな日常に戻ることを、こころより願っています。

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参考文献
山内一也、『牛疫根絶への歩みと日本の寄与』、日本獣医師会雑誌 第63巻 第9号(2010).
山内一也、『「史上最大の疫病・牛疫」— 世界史への影響と獣医学のルネッサンス —』、一般社団法人予防衛生協会(2008).

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(執筆、編集:山本文弥)
(Photo by Ben White on Unsplash)