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乗り越えるべき【起業の壁】Chapter3 リクルーティングの壁(後編)

こんにちは、千葉道場メディアチームです。

千葉道場noteは、起業家コミュニティである千葉道場内の起業家が持つ経営ノウハウをもとに、日本のスタートアップエコシステムをよりよくする情報を発信しています。

スタートアップの経営では、起業後に必ず遭遇する悩みや困難、すなわち「壁」があり、それを乗り越えなくては成長が停滞してしまいます。

本連載『乗り越えるべき【起業の壁】』は、千葉道場コミュニティのメンバーでもある令和トラベルCEO・篠塚 孝哉さんのnote記事「スタートアップ経営で現れる壁と事例とその対策について」を参考に、スタートアップ経営において乗り越えるべき「壁」に注目。千葉道場コミュニティ内の起業家にインタビューを実施し、壁の乗り越え方を探ります。

本連載では起業家が直面する壁を下記の8つに分類。壁ごとに前編4人・後編4人の計8人の起業家の考え方をご紹介します。

第3回の前編は、スタートアップ起業家にとって大きな壁である「リクルーティングの壁」の乗り越え方を探りました。今回は後編をお送りします。

【今回の壁】

第3回:リクルーティングの壁
・創業メンバーのリクルーティング
・社員のリクルーティング

【次回以降の壁】

第4回:サービスローンチの壁
第5回:ファイナンスの壁
第6回:PMFの壁
第7回:組織の壁
第8回:倫理・ガバナンスの壁

ご協力いただいた起業家の皆さん

石井 貴基さん
千葉道場株式会社取締役、千葉道場ファンドパートナー。2012年に株式会社葵を創業、誰でも無料で学べるオンライン学習塾「アオイゼミ」をリリース。2017年にZ会グループにM&Aを実施。以降も株式会社葵の代表取締役として、グループ各社と複数の共同事業を開発し、2019年3月末に退職。同年10月より現職。

篠塚 孝哉さん
株式会社令和トラベル代表取締役社長。2020年4月から21年4月まで千葉道場ファンド フェロー。2011年株式会社Loco Partnersを創業、2013年に宿泊予約サービス「Relux」を開始。17年春にはKDDIグループにM&Aにて経営参画。2020年3月退任。千葉道場ファンド フェローを卒業後、2021年4月、株式会社令和トラベルを創業。「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに海外旅行代理業を展開。2022年4月、海外旅行予約アプリ「NEWT(ニュート)」をリリース。

名越 達彦さん
株式会社パネイル代表取締役社長。2012年、株式会社パネイルを創業。次世代型エネルギー流通基幹システム「Panair Cloud」の研究開発および小売電気事業者等への業務支援などの事業を展開。

門奈 剣平さん
株式会社カウシェ代表取締役CEO。日中ハーフ。2012年より「Relux」を運営するLoco Partnersにジョインし、海外担当執行役員と中国支社長を兼任。2020年4月に株式会社X Asia(現・カウシェ)を創業し、同年9月にシェア買いアプリ「カウシェ」をリリース。

創業メンバーのリクルーティング

石井 貴基さん(以下、石井)
創業メンバーのナンバー2や3は、ナンバー1に従うという強い意思を持っていたほうがよいと思います。要は「最終的に誰の意思決定を尊重するのか」を明確にしておくべきです。特に初期は仮説検証などもブレたりしますし、何がどうなるか分からない状況が続きます。そういう状況においては「少なくともこの3年間はナンバー1の言うことを信じよう」と決めてブレずに進み続けられることが、すごく大事になると思います。

創業メンバーのスキルセットが、いい具合に組み合わされていることも大事です。例えば、営業が強い社長と優秀なエンジニアといった感じで、それぞれ長所を出しあえる組み合わせが強いと思います。

その点、葵の創業メンバーは僕も含め3人とも営業が強かったので偏りはあったんですが、それぞれのスキルを深掘ってみると実は1人は経理が得意で、もう1人はリーガル分野で強みがあって……といった具合にハマっていた側面もありました。のちに技術の人材とコンテンツを作れる人材が加わってくれて、パズルのピースがそろったかたちです。

一方で、「創業メンバーだから」という理由で安易にCXOなどに据えることは、あまり良くないと思います。「創業メンバーのなかでは経理ができるからCFOにしとこう」というようなやり方をたまに見ますが、あくまで経営上のイシューに対して立ち向かえるスキルセットを持った人材を役員や幹部に据えるのが大事です。

篠塚 孝哉さん(以下、篠塚)
創業メンバーは「即戦力」であるべき、というのが揺るがない真実だと思っています。起業したばかりの時期は教育をしている余裕などありませんから。

創業メンバーを含めて最初の10人から20人くらいまでは、自ら考えて動ける即戦力の人材をそろえるのが理想だと思います。実際、スピーディーにユニコーンへと成長できた企業を見ると、そういうチームづくりができています。リクルートや楽天、ビズリーチといった有名企業も、最初は中途採用で即戦力を集めていました。

では実際にどうやって即戦力人材を集めるのか。

僕の場合は、会ったことのある人を全員思い出して「この人と仕事をしたい」と思った人に声をかけていきました。そもそも「僕と一緒に起業したい人を募集します!」なんてやっても、自分から手を挙げてくれる人なんかいませんよね。となると必然的にこちら側からアプローチしていく必要があるわけです。

過去の人との繋がりというのは、高校が一緒だった人、大学が同じだった人、前職の同僚、あるいは過去の取引先というパターンもあるかもしれません。いずれにしろ、自分の繋がりから探してアプローチしてみるのが最初の一歩であり、基本中の基本だと思います。

名越 達彦さん(以下、名越)
私は「信頼関係は仕事を通じてしか生まれない」と思っています。創業メンバーを集めるにあたっては、業務委託でいいから、まず一緒に仕事をしてみるべきだと思っています。最初から役職ありきで人をあてがうことをしない、ということですね。

一緒に仕事していて、お互いに信頼関係ができあがってから「チームに入ってもらえませんか?」とお願いをする。創業代表はいつも気を配りお願いをし、相手はそれを引き受ける関係になると思います。スタートアップにおいて、創業代表以外の取締役は特に、株主総会での選任をうけて、会社と委任関係を結んでいる点を皆忘れがちです。従業員も同様に、会社と雇用契約を結んでるから一緒にいるわけです。

すなわち、会社と役職員の間は、相互選択であり、常に適度な緊張感をもって接することが信頼関係醸成の中でとても重要だと思います。

門奈 剣平さん(以下、門奈)
スタートアップの苦境を乗り越えていくには、「いざ」という時に背中を合わせて戦えるチームプレーが必要です。信頼関係とパフォーマンスの両方が、創業時のリクルーティングにおいては大事だと思います。

「仲が良い・悪い」と「ハイパフォーマンス・ローパフォーマンス」の4象限で考えてみるとわかりやすいと思います。

ただ仲が良いだけの人と共同創業してもサークル活動のようになってしまう。一方でパフォーマンスが高いだけの人を集めても、組織に定着しづらいという感覚を持っています。

創業メンバーに求めるべきだと思うのは、スキルはもちろん、経験や実績もです。スタートアップという特殊な、人が少ない組織がワーッとグロースをしていく過程で起こる、いろいろな苦悩を経験をしている人だと話が早かったりしますから。

社員のリクルーティング

石井
シンプルに「やれることを、きちんとやりきる」のが、リクルーティングにおいては大事だと思っています。

例えばエンジニアの採用であれば、使える採用媒体はとことん使ったり、良さそうな人材がいればTwitterでDMを送るなどしてアプローチする。あるいはエンジニアの勉強会に足を運んでリクルーティングをしたり。あれこれ悩む前に、まずはできることをやりきることが大事です。

葵の場合は、エンジニアが必要になった時には、アルバイトの学生みんなに「とにかく学生のエンジニアを探してきて!」とお願いしてリクルーティングしました。最終的に3か月くらいで3人の学生エンジニアを集めることができました。他にも、早稲田大学のとある学部に優秀なエンジニアがいると噂を聞けば、埼玉の所沢にあるキャンパスまで足を運んだり、東京理科大に良い人材がいると聞けば、千葉の流山にある運河キャンパスまで行ったりしました。特に初期の採用活動においては、実際に体を動かしてアプローチしていくのもアリではないかと思います。

篠塚
やれることを、とにかく全部やるのが大事だと思います。今の時代はTwitterやInstagramなどのSNSがありますから、DMを送ってみるとか。採用媒体もたくさんありますよね。

釣りに例えて考えてみます。ある希少な魚を釣りたい時、1回池に行けば必ず釣れるわけではないですよね。それでも実際に釣りに行ってみないことには、どうやって釣れば良いか全く分かりません。まずは1回、釣りに行ってみれば、その池にいる他の釣り人と話ができて「その魚はもう今は釣れない。でもあっちの池ならば釣れるらしい」といった情報もゲットできるかもしれない。そうしたら、また次の池に行って試してみる。これを繰り返していくことで、欲しい魚をうまいこと釣る方法論ができあがっていく。希少な人材のリクルーティングというのはこういう話だと思います。

リクルーティングで悩んでいる人の話を聞いてみると、そもそも釣りに行かないで、調べることばかりしている人が多いんです。釣りに行かなければ、魚は釣れるはずがありません。リクルーティングもそれと同じ。まずは行動をすることが大事です。

エンジニア採用の場合は、さらなるポイントがあります。エンジニアは優秀な人材に、他の優秀な人材がついて移籍するっていう風潮がけっこう強いんです。1人目には徹底的にこだわって、優秀な人材を確保することが大事ですね。

名越
「なぜリクルーティングをするのか」が大事で、自分の能力を高めないままに、知識や能力を得るために安直に人を雇用してしまう、あるいは雇用し過ぎてしまうケースが多いように感じてます。

日本の場合、従業員に辞めてもらうのは本当に大変です。雇用というのは、それだけ会社の責任が重いことを鑑みると、責任を負ったりマネジメントコストを払うよりも、勉強代を払って経営者自らの能力を高めるほうが良いと思います。

会社組織の文化は、「最初の10人」でほぼ決まると思います。創業メンバー含めた最初のメンバーは徹底的にこだわり抜き、丁寧に採用する。「この10人が集まれば企業のビジョンが貫ける」というメンバーがそろった段階で幹部クラスとして据え、100人組織を目指すべくさらに採用を続けていく。困難があっても自分たちで乗り越えられる筋肉質な組織に繋がると思います。

門奈
創業メンバーのリクルーティングも含めての話になりますが、私自身の経験に基づく教訓が2つほどあります。

1つ目が、起業して自分で目標を決めて「自分はこうなりたい」ということを周りに発信していると、相談に乗ってくれる人や協力してくれそうな人が見えてくる。そういう人を巻き込んでいくことが大事です。実際、今コアメンバーとしてやってくれている人のひとりは、そういったかたちでジョインしてくれた経緯があります。

もう1つが、例えば「有名大を出て有名企業に入った人だから、きっとすごい」みたいな感覚で採用してもうまくいかないことが多い。これは人と関係を築く前後でイメージが変わるのと似た話です。付き合う前って、その人のことがすごく良く見える。でも、実際に付き合ってみると、いろいろと知らなかった部分や良くない部分も見えてきますよね。人材の採用もこれと同じで、結局は実際に一緒に働いてみないと分からない部分も多いんです。

起業家が口をそろえる「リクルーティングの壁」の乗り越え方

起業家が語る“スタートアップの8つの壁”、第3回では「リクルーティングの壁」について、前後編あわせて8名の起業家の話を紹介しました。過去2回と比べ、各起業家の考え方に共通している部分が多かったように思います。

創業メンバーに関しては「前職で一緒に働いていたメンバー」「大学の時の同期」あるいは「前に起業した会社から手伝ってくれていた人」など、すでに関係性を構築済みの人と創業している傾向がありました。また、それ以外の方も、創業メンバーは信頼関係を構築できていることが必須とする意見が多く集まりました。

一方で、「創業メンバーだからと安易に役員に据えない」「創業メンバーは即戦力であるべき」といったように、信頼関係のみを重視することは危険だという意見もありました。信頼関係と高度なスキルの両方を兼ね備えていることが、創業メンバー集めの重要なポイントであることがうかがえます。

社員のリクルーティングについては、採用媒体の活用はもちろん、SNSでの声かけや、知人や友人のつてを頼るリファラル採用など、考えうるすべての手段を駆使すべきだと異口同音に語られていることが印象的でした。スタートアップ企業の場合、大企業と比べてネームバリューで見劣りするため、能動的なアプローチが不可欠なのだと考えられます。

もちろん、今回ご紹介した意見が「壁」を乗り越えるための唯一の答えとは言えませんが、少なくとも、ひとつの鉄則として理解しておくべきだと言えるでしょう。

次回は「サービスローンチの壁」がテーマです。どうぞお楽しみに!

文:小石原 誠
編集:西田 哲郎


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