見出し画像

起業家コミュニティ「千葉道場」がファンドを設立したワケ。主宰・千葉功太郎インタビュー

はじめまして、千葉道場ファンドです。起業家コミュニティ「千葉道場」を母体とするユニークなVC(ベンチャーキャピタル)「千葉道場ファンド」の知見を共有して、起業家や起業に興味を持っているみなさんのお役に立ちたいと思っています。

noteを始めるにあたって、まずは「千葉道場」とは何か、主宰である千葉功太郎本人が紹介します。

日本のスタートアップ黎明期に何が起こっていたのか。千葉道場はどのようにできあがったのか。そして、起業家コミュニティがファンドを設立した理由は。

千葉功太郎が赤裸々に語ります。

古都・鎌倉にて千葉道場が興る

画像5

(鎌倉市・浄智寺で2015年、千葉道場初の勉強会を開催。20名ほどの参加者から始まりました)

――千葉道場は何がきっかけで始まったんでしょうか?

「千葉道場の現在の運営メンバーである石井貴基(元株式会社葵・代表取締役)さんと原田大作さん(元ザワット株式会社・CEO)の声がけがきっかけですね。2015年のことです。『千葉さんがエンジェル投資しているスタートアップを集めて、勉強会を一緒にやってくれませんか』って」。

「それまでは、国内外の起業家が集まるイベント・IVS(Infinity Venture Summit)などで知り合った起業家の人たちを応援したい気持ちで少額投資していたんです。深い意味などは特になくて、ただ応援したい気持ちだけでした」。

「勉強会をやるのも当初、なんというか……めんどくさかったんですよね(笑)。意外に思われるかもしれないんですが、もともと僕は人前に出るのがすごく苦手です。10人くらいで飲むよりは少人数で飲みたい性質ですし、緊張してしまうんですよ」。

「しかも、石井さんと原田さんは勉強会の名前まで決めていました。その名も『千葉道場』。江戸時代の剣術家・千葉周作が主催して坂本龍馬らが巣立った千葉道場にあやかったって聞かされて。恥ずかしくなって『やめてー!』と思ってしまった(笑)」。

「それでも引き受ける気になったのが、石井さんと原田さんの猛烈な熱意だったんですよ。2人は『起業家同士で、事業の作り方や資金調達方法などの悩みをシェアできる場がない』『千葉さんは起業家の悩み相談に、本当に親身になって乗ってくれるんです』と言ってくれまして」。

「たしかに当時はスタートアップの経営方法や資本政策の作り方、イグジットするための情報が世間にほとんど出回っていなかった。僕自身の経験に照らしても、スタートアップ経営者が孤独を感じる瞬間は多い。『だったら、やろう』と決意しました」。

「それで、僕の住まいがある神奈川県鎌倉市にオフサイトで十数人が集まったんです。場所は浄智寺っていう地元のお寺。この当時の写真は今も持っています。まさか、ここから『千葉道場』という勉強会が、コミュニティに発展し、定着することになるとは思いもよりませんでした」。

起業家の「孤独」をコミュニティで解決したかった

画像5

(千葉道場設立から約6年、千葉道場は強固な起業家コミュニティーとして進化しています)

――コミュニティがここまで大きくなった理由はあったんでしょうか?

「起業家や経営者は、『孤独』を等しく味わいます。その孤独を共有できる環境であることが、コミュニティ拡大の理由でしょうね」。

「起業家というのは、社員、株主、ユーザーの三方に対して、ある種の虚勢を張り続けなきゃいけないんですよ。事業計画という夢を語りながら、最初は実が伴わない。だから苦しいし、それを誰にも共有できない。孤独になっていくんです」。

「実は、道場の発起人でもある原田さんが、勉強会でその孤独をポツリと吐いてしまったことがあったんです。『来月資金ショートして、本当に会社がなくなるかもしれない』って。それまでは、メンバー同士でもなんとなく壁があったんですよね。その壁が原田さんの告白で一気に取り払われた」。

「たぶん、その場にいたみんなが『これは他人事じゃない』と思ったんでしょう。あるメンバーは『実は俺もヤバいんだ』って答えてました。そこから一気に原田さんを助けるための話し合いになった。VCやエンジェル投資家を紹介したり、採用計画やコスト削減の具体的な話をしたり」。

「結果、原田さんの会社がどうなったか。V字回復したんですよ。回復してメルカリにイグジットするまでになった。あのとき、千葉道場のみんなで腹を割って話さなければ、こんなことは起こらなかったわけです」。

――瀕死の仲間を助けるために、起業家同士でどうにか知恵を出し合った。そこから千葉道場ならではの雰囲気ができあがって、メンバーが増えていったと。

「そうですね。起業家みんなが寄り添って、安心して話し合える空間ができた実感があります。孤独を抱えた起業家同士が腹を割って相談できる、いわゆる『心理的安全性』が担保された場所です」。

「そうなると、回を重ねるにつれて、外には出せない際どい話も増えてくる。お互いが話し合った内容を外に出さないことを誓い合う『血判状』という文化ができ上がったのもこの頃です」。

「『血判状』というとちょっと仰々しいんですが、指の先に朱肉をつけて拇印して、メンバー同士の名前を一枚の紙に連ねていたんですよ。別に紙と拇印じゃなくてもいいんですけど、『千葉道場』って名前にひっかけて(笑)。この血判状が「仲間の秘密は守る、悩みを本音で話し合える」という共通認識を生んで心理的安全性の担保につながっていたのかなと思います」。

「もちろん単にメンバーが集まって話し合うだけでなく、研修も工夫しています。若い起業家たちが会社を仕切れるように、日本の美学である大企業の研修プログラムを下敷きにしたマネージャー研修などを開いたり」。

「千葉道場のマネージャー研修は、ただ受け身で聞くものではありません。聞いて、考えて、アウトプットするんです。レクチャー側からいきなり質問をすることもあるので、ずっと緊張感がある。僕のもともとの専門は人事領域なんですが、それを生かした研修になったと思っています」。

起業家たちがギブしあい、競争していく仕組み

画像5

(2018年には、特許庁とコラボレーションして「知財道場」も開催)

――起業家コミュニティが強固なつながりになっていく一方で、2019年には、イグジットしてコミュニティーを卒業したメンバーを出資者とする“千葉道場ファンド”を設立しました。起業家コミュニティ自体がファンドを持つのは日本では珍しいですよね。なぜファンドを設立したんでしょうか?

「千葉道場にサステナビリティ(持続可能性)を入れたかったんです。それまでは、“個人のお金で投資しているエンジェル投資家・千葉功太郎と愉快な仲間たち”といった状況だったわけですが、僕自身はパイロットの訓練をしていたりするので、極端なことを言うと、もしかしたら訓練中に死んでしまうかもしれない。コミュニティを千葉功太郎一人の身体や財布の残量にぶら下げていると、僕の状況に応じてコミュニティの状態が上げ下げしてしまいます」。

「非・千葉依存体質になって、サステナビリティな状態にしていくには、僕以外のお金と人間で組織を構成していくのがいいと思いました。僕自身がいなくても、ファンドのメンバーがいれば、組織が回り、スタートアップ経営者の悩みを解消する場は続いていくという考え方です」。

スクリーンショット 2021-07-07 22.57.34

――千葉道場ファンドならではの特色は見えてきましたか?

「僕以外にもLP投資家(ファンドに投資を行う投資家)の方に多く投資いただいている以上、VCではあるんですが、ファンドになったことでコミュニティの空気感が大幅に変わらないようにしています。いわば『エンジェル投資家と楽しい仲間たち』という延長線上の世界観でやっていくために努力しています。この世界観が、千葉道場の特色であるコミュニティの心理的安全性の根幹にもなっていると確信しています」。

「投資先に対する姿勢としては、ハンズオンで事細かく口を出したり報告を頻繁に求める、といったことはしないのが特徴ですかね。何か問題があったら深く入ることもありますが、『ああしろ、こうしろ』みたいなことをこちらから言わず、『何かあったらすぐ相談してほしい』と言うことにしています。これには、千葉道場の伝統である『困ったら自分で仲間に相談する。秘密を守りながらお互い助け合う』という雰囲気を引き継ぎたいからという意図もあります」。

「千葉道場ファンドはコミュニティファンドですので、一般的なVCと比べると投資方針なども異なると思っています。千葉道場ファンドは起業直後のシード期からプレシリーズAくらいまでの比較的早いステージと、上場直前のレイターステージにいるスタートアップが主な投資対象です。これはコミュニティへの『入』と『出』を意識しており、学校の入学・卒業のような投資が特徴になっています」。

「創業初期のタイミングから千葉道場に入っていただき、様々な業種・ステージの経営者同士で切磋琢磨してもらいます。その後、会社が成長し、上場が視野に入ってきたタイミングで『卒業』資金のような考え方で投資を行い、上場前最後の資金調達を後押しします。そして、無事に卒業した起業家は、順次LP側に回って後輩を支援するといった流れを作っていきたいと考えています」。

「また、次の起業までの修行期間として、先輩起業家として投資先へアドバイスを行いつつ、ファンドの仕組みや投資家サイドの視点を身につける“フェロー制度” という仕組みもあります。千葉道場コミュニティを卒業してLPやフェローになっても、また起業したくなったら出資を受ける側に回る事ができます。千葉道場への再入学ですね(笑)。この仕組みを日本流・スタートアップのエコシステムとして普及させたい」。

――ファンドが設立されたことで、コミュニティのカルチャーに変化はありましたか?

「千葉道場が始まった当初は、『協力し合う』『ギブし合う』というカルチャーが強いコミュニティだったんですが、数年前から競争をプラスするようにしています。『なぜアイツはあんなにできるのに、俺はできないんだ』という感情を健康的なかたちで煽るようにしているんです」。

「コミュニティの初期は人数が少ない。だから、お互いの距離も短いですよね。ギュッとした世界観の中で支え合いをしていた。そこから投資先が増えて、道場内でも顔見知り程度のメンバーが増えてくる段階になると、組織論的には、競争をしたほうが個々人が成長していくんですよ」。

「最近ではIPOとかM&Aされる会社も出てきたので、道場での勉強会で彼らに話を聞く機会もあります。IPOやM&Aを実現した起業家を、みんなの前で2時間半褒めるセッションをする。もちろん、彼らの学びや経験をギブしてもらうんですが、同時に、聞いているメンバーには『なぜあそこに俺がいないんだ』と競争心が生まれてくるんです。こういった競争の中でSmartHRの宮田(昇始)さんやウェルスナビの柴山(和久)さんが頭角を表してきた」。

“雄弁で真摯”な陰キャが日本の未来をつくる

画像5

(2019年、千葉道場ファンド設立を発表。左:パートナー・石井貴基 中央:代表取締役GP・千葉功太郎 右:フェロー・原田大作)

――道場内にはどういうカルチャーの人たちが多いんでしょうか?

「キラキラ華やかな場所で飲むタイプではなく、赤ちょうちんの居酒屋で杯を傾けるような、飾りっ気のない人が多いですね。現代的な言葉でいうと、“陰キャ”なのかもしれません。本当に真面目でウソがない人たちです。ちなみに、僕も道場の運営メンバーもこのタイプかなと思います」。

「とはいえ、自分が専門としていて情熱を傾ける分野の話になったら、雄弁に語れる人たちですね。僕も含めて陽キャを“演じる”ことができる人も多い。キラキラしたカンファレンスで身振り手振り交えながらしゃべることはできる。でも2時間が限界ですかね(笑)」。

――そういった仲間同士で切磋琢磨しながら、メンバーもコミュニティも成長しているんですね。

「ええ。こうしたメンバーたちと『起業家のエコシステム』を日本に作りたいと思っています。10、20年と長いスパンを経ながら起業家たちがずっと成長していけるシステムです。いろいろなかたちでギブしあい、支え合ったり、競争したりして、何度でも挑戦できるような仕組みをつくりたいんです」。

「そのエコシステムをつくるには、起業家に対してお金や知見を供給する機会が、まだまだ必要です。千葉道場と千葉道場ファンドがその中心を担いたいと考えています」。

あらためまして、千葉道場ファンドnoteです

というわけで、千葉功太郎による「千葉道場」の紹介はここまでです。これから、千葉道場のキープレイヤーが道場内で得た知見などをnoteで語り尽くしていきたいと思っています。

どうぞ、次回の更新をおたのしみに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?