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乗り越えるべき【起業の壁】Chapter6 PMFの壁(前編)

こんにちは、千葉道場メディアチームです。

千葉道場noteは、起業家コミュニティである千葉道場内の起業家が持つ経営ノウハウをもとに、日本のスタートアップエコシステムをよりよくする情報を発信しています。

スタートアップの経営では、起業後に必ず遭遇する悩みや困難、すなわち「壁」があり、それを乗り越えなくては成長が停滞してしまいます。

本連載『乗り越えるべき【起業の壁】』は、千葉道場コミュニティのメンバーでもある令和トラベルCEO・篠塚 孝哉さんのnote記事「スタートアップ経営で現れる壁と事例とその対策について」を参考に、スタートアップ経営において乗り越えるべき「壁」に注目。千葉道場コミュニティ内の起業家にインタビューを実施し、壁の乗り越え方を探ります。

本連載では起業家が直面する壁を8つに分類。壁ごとに前編・後編に分けて起業家の考え方をご紹介します。

第6回は、起業家としての本当の戦いとも言える「PMFの壁」について、その乗り越え方を探ります。今回は前編となります。

【今回の壁】

第6回:PMFの壁

【次回以降の壁】

第7回:組織の壁
第8回:倫理・ガバナンスの壁

ご協力いただいた起業家の皆さん

「サービスローンチの壁」前編となる今回は、千葉道場コミュニティから3人の起業家のインタビューをご紹介します。

松村 映子 さん
千葉道場ファンドフェロー。2011年、株式会社heydayを創業するも、事業がうまくいかず2014年に会社清算。清算と同時に宅配クリーニング「バスケット」を運営するバスケット株式会社を創業。2015年に株式会社ストライプインターナショナルの完全子会社となり、同社の取締役Chief Digital Officerに就任。ファッションレンタルアプリ「メチャカリ」などを手掛ける。2018年に退任し再び起業。

原田 大作 さん
2011年にザワット株式会社を創業、代表取締役に就任。WishScope、スマオク等のC2Cフリマアプリをグローバル市場で展開。2017年2月、株式会社メルカリにM&AでExitし参画。2022年にVELVETT社を創業し2回めの起業に挑戦中。

山内 奏人 さん
2016年5月、15歳でウォルト株式会社(現・WED株式会社)を創業、現・同社CEO。レシート買取アプリ「ONE」の開発・運営を軸として人々の購買行動に基づくビジネスを展開。

「PMFの壁」とは

「PMF」とは「Product Market Fit」の略語であり、「商品がマーケットに合っている」状態のことを言います。

商品やサービスはリリースした瞬間、マーケットという大海原に投げ出されます。ユーザーは容赦することなく商品やサービスを選別するため、ニーズにマッチしていなかったり、ユーザーの要求に十分に応えられていないと見なされた商品やサービスは淘汰されてしまいます。

いかに自社の商品やサービスの支持者を獲得し、支持層を拡大してマーケットの中での立場を確立すべきか? そもそも、どのような状態をもって「PMFを実現した」と判断すべきか? PMFの壁との戦いは、起業家が志している「理想」とマーケットの要求という「現実」のせめぎ合いという側面も持つ過酷なものです。

PMFの壁を乗り越えるために様々な苦難を味わい、また今も奮闘している起業家に向けて、経験談や考え方、PMF実現に向けた改善のアプローチについて語っていただきました。

PMFの経験談や考え方

松村 映子さん(以下、松村)
PMFについては、プロダクトやサービスを市場に出して、それらが当たっているかどうかを測る問題が今に至るまでずっと議論されてきています。ただ、個人的な考え方をいうと、PMFを実際にやってみると「自ずと分かる」ものなんです。

私も起業当時、周りの起業家に「PMFってどうやったら分かるんですか?」と聞いたりしました。すると皆さん決まって「すれば分かるよ」と仰られ、「すれば分かるってどういうこと?」と思ったことを覚えています。

でも実際に経験してみると、本当にPMFは「すれば分かる」ものだったんです。例えば、同じことを毎月やっているはずなのに、明らかにサービスのユーザーがどんどん増えていき、業務がとても大変になる。こういう状態になってくると「あ、これはPMFしているんだ!」と感じられます。

原田 大作さん(以下、原田)
PMFについてはプロダクトによって考え方が違うと思います。ザワットの場合、最初の方に取り組んだWishScopeでは、課金をしてもらうことよりもユーザーがバイラル(※1)で増えていくことを意識していました。ですから、お金をかけなくても口コミでユーザーが一気に増えていった時に、PMFしたことを実感しました。

その後に取り組んだフリマアプリは、強力な競合がいたりして中々マーケットにフィットせず。ピボットして越境CtoCのサービスを始めたときに、PMFというよりはユニットエコノミクス(※22)の視点から上手く噛み合ったと感じました。

※1.バイラル:SNSなどによる口コミによりサービスや商品などが広まっていくこと
※2.ユニットエコノミクス:おもにサブスクリピション型のサービスにおいて使われる指標。1人のユーザーや1つのアカウントなどの「1単位」あたりの経済性や採算性を表す

山内 奏人さん(以下、山内)
私は「PMFはしていない!」と常に思っている方が良いと思います。ONEの場合はアプリのリリース後1週間で30万ダウンロードぐらいあったんですけど、それで「PMFした!」と考えたことは1回もありません。それと少し前にMAUが100万人を超えたんですけど、それでも別にPMFしているとは思っていません。

なぜ「PMFはしていない!」と思った方が良いのか? それは「PMFした!」と思った時点でKPIを達成したような感覚になり、そこでグロースが止まってしまう恐れがあるからです。「ディズニーランドは永遠に完成しない」と言われるのと同じで、「永遠にPMFしない」と思うことで、止まることなく成長し続けられるのではないでしょうか。

PMF実現に向けた改善のアプローチ

松村:
宅配クリーニングのバスケットでは2段階のPMFを経験してきたので、そこでの経験をお話します。

1段階目は、ファーストプロダクトだったので稚拙な状態から始まってコツコツと改善を積み上げていく必要がありました。何か一つ大きなきっかけがあったというよりは、改善を積み重ねていたら、ある時マーケティング等を頑張らなくてもユーザーがちゃんと使ってくれるサービスになっていた、という状況でした。要は、何か「コレ!」という改善をすることよりも、地道だけど着実な改善を積み重ねることの方が、PMFを実現するためのアプローチとしては大事なのだと思います。

2段階目のPMFは1段階目のPMFから1年半後、クロスカンパニー(現・ストライプインターナショナル)にバイアウトした後でした。この時は本当に「大当たり」という感覚がありました。ストライプとグループ会社になったことで、ストライプからの協力を得られて大々的にマーケティングをしたんですけど、それが大きく的中した形です。社員総出で工場勤務しなければならないくらい、大忙しだったことを覚えています。

原田:
WishScopeは、とにかくデータを見て機能改善に取り組みました。重要なKPIを絞り込み、バイラル効果が出るよう動線をチューニングしたり。あとは口コミを広げてくれそうなインフルエンサー的な人との連携も重視しました。

もともとWishScopeはWebのサービスとしてスタートしたんですけど、スマホアプリを出した瞬間に数字が爆上がりしたんです。要はプラットフォームの選択を間違えていたんですよね。それをスマホアプリを出す形にしたことで、UXが劇的に改善され、PMF実現に近づけたのだと思います。

その後に展開したフリマアプリでは、顧客へのヒアリングをもう1回やり直して改善すべき点を洗い出しました。すると、購入者の中で爆買いをしてくれる人の上位に外国人ユーザーがいることに気付きました。それで「海外に持っていけばうまくいくのではないか」と考えて、実際に海外現地で様々な検証を行い、越境CtoCにプチピボットしてみたんです。

加えて、対象セグメントをめちゃくちゃ細かく細分化しマッチングのリボン図のチューニングを高速回転で行ったことで、なかなか突破できなかった主要KPIの改善が思いのほか異常値で伸び、ユニットエコノミクスが合致しうまくいった、という次第です。

後編でも、さらに4人に“壁の乗り越え方”を聞きます

後編ではNobollel代表・黒川晃輔さん、令和トラベル代表・篠塚孝哉さん、パネイル創業者の名越達彦さん、カウシェ代表・門奈剣平さんの4人に「PMFの壁」の乗り越え方を聞きます。

文:小石原 誠
編集:斉尾 俊和

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