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乗り越えるべき【起業の壁】Chapter6 PMFの壁(後編)

こんにちは、千葉道場メディアチームです。

千葉道場noteは、起業家コミュニティである千葉道場内の起業家が持つ経営ノウハウをもとに、日本のスタートアップエコシステムをよりよくする情報を発信しています。

スタートアップの経営では、起業後に必ず遭遇する悩みや困難、すなわち「壁」があり、それを乗り越えなくては成長が停滞してしまいます。

本連載『乗り越えるべき【起業の壁】』は、千葉道場コミュニティのメンバーでもある令和トラベルCEO・篠塚 孝哉さんのnote記事「スタートアップ経営で現れる壁と事例とその対策について」を参考に、スタートアップ経営において乗り越えるべき「壁」に注目。千葉道場コミュニティ内の起業家にインタビューを実施し、壁の乗り越え方を探ります。

本連載では起業家が直面する壁を下記の8つに分類。壁ごとに前編・後編に分けて起業家の考え方をご紹介します。

第6回の前編は、起業家としての本当の戦いとも言える「PMFの壁」の乗り越え方を探りましたが、今回はその続きとなる後編をお送りします。

【今回の壁】

第6回:PMFの壁

【次回以降の壁】

第7回:組織の壁
第8回:倫理・ガバナンスの壁

ご協力いただいた起業家の皆さん

黒川 晃輔 さん
株式会社LITALICO、株式会社パンカクを経て、2013年10月にゲームアプリケーションの企画・開発・運用を行なうNobollel株式会社を創業。現・同社CEO。

篠塚 孝哉さん
株式会社令和トラベル代表取締役社長。2020年4月から21年4月まで千葉道場ファンド フェロー。2011年株式会社Loco Partnersを創業、2013年に宿泊予約サービス「Relux」を開始。17年春にはKDDIグループにM&Aにて経営参画。2020年3月退任。千葉道場ファンド フェローを卒業後、2021年4月、株式会社令和トラベルを創業。「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに海外旅行代理業を展開。2022年4月、海外旅行予約アプリ「NEWT(ニュート)」をリリース。

名越 達彦さん
株式会社パネイル代表取締役社長。2012年、株式会社パネイルを創業。次世代型エネルギー流通基幹システム「Panair Cloud」の研究開発および小売電気事業者等への業務支援などの事業を展開。

門奈 剣平さん
株式会社カウシェ代表取締役CEO。日中ハーフ。2012年より「Relux」を運営するLoco Partnersにジョインし、海外担当執行役員と中国支社長を兼任。2020年4月に株式会社X Asia(現・カウシェ)を創業し、同年9月にシェア買いアプリ「カウシェ」をリリース。

PMFの経験談や考え方

黒川 晃輔さん(以下、黒川)
僕の場合、ゲームアプリがPMFするかは分からないので、自社ゲーム開発をしながら別のキャッシュ・カウ(※1)を作ることを念頭に置いています。ゲームアプリ開発という事業はボラティリティ(※2)がとても高く、リスクも大きいからです。自社のゲームエンジンを拡大していく事や得意な開発ジャンルを作るなどで、リスクヘッジする考えを重視しています。

ひとつのことにフルスイングするのは相当勇気が要るというか、無茶なことだとさえ思っています。僕の場合はエクイティと同じくらい借り入れもしていましたから、決め球を絞ってフルスイングするのは難しかったです。

※1.キャッシュ・カウ:直訳すると「cash cow=現金を生む牛」であり、「稼ぎ頭の事業」を意味するビジネス用語
※2.ボラティリティ:価格の変動性のこと。「ボラティリティが高い」とは「変動性が大きい」ことを意味する

篠塚 孝哉さん(以下、篠塚)
PMFの壁はまさに今、令和トラベルも直面している状況です。事業によってPMFの定義はかなり変わるので「あなたのやろうとしている事業のPMFは何か?」をまず定義する必要があると思います。

例えばソーシャルゲームのように、リリース後の1週間の初速ですべて判断できるようなものもあれば、私たちの取り扱っている海外旅行のように長期的なスパンで見なければ判断が難しいものもあります。その事業のフリークエンシーはどの程度なのかを理解しながら、自分たちの事業におけるPMFの定義をまず持つことが必要です。それがないまま進んでいくと、途中で挫折してしまい、不必要なピボットをしてしまったりします。PMFの定義をきちんと持ち、その定義に従って粘り強く改善し続けることがとても大事です。

名越 達彦さん(以下、名越)
PMFの壁とは何か?を整理したとき、教科書的な話ですが「死の谷(※3)」と「ダーウィンの海(※4)」といった概念が出てきます。つまり、「これらを越えるのがなぜ大変なのか?」という論点になると思っています。

※3.死の谷:製品化にこぎ着けた商品・サービスを事業として発展させていくフェーズで訪れる関門
※4.ダーウィンの海:事業として成立した商品・サービスに待ち構える、ライバル企業との競争

門奈 剣平さん(以下、門奈)
商品やサービスをリリースする前って、みんな「これを出せたらいけるはずだ!」って思うんです。ただ、スタートアップ界隈には「死の谷」という言葉もあるとおり、最初は大々的に注目されたとしても、その後にグンと落ち込んでしまうなんてことはザラにあります。ですから「サービスローンチの壁」の記事でもお話したとおり、「事業が当たるかどうかはダーツのようなもので、そうそうラッキーなことは起きたりはしない」という心構えをしておいた方が良いと思います。

PMF実現に向けた改善のアプローチ

名越
仮に、資金も人材も潤沢にリソースとして揃っているのならば、PMFを実現できるまで何発でもパンチを打てばいいんです。しかし実際には事業においては、例えばファイナンスから来るランウェイは何ヶ月か、どういった体制で臨めるかといった「制約条件」があり、これら与えられたリソースの中でPMFの実現を目指さなければなりません。そういった難しい状況の中でステージを進められるか否かが、成功する起業家であるかどうかの違い、だと思います。

門奈
事業成長を目指す以上は常に壁と対峙しなければなりません。「PMFを実現できた!」などと思わず、常に改善等に取り組むべきです。

越えたと思っても油断してはならない「PMFの壁」

起業家が語る“スタートアップの8つの壁”、第6回では「PMFの壁」について、前後編あわせて7名の起業家の話を紹介してきました。

PMFの壁を越えるにあたっては、そもそも「自分たちにとってのPMFとはどのような状況か?」を考えて定義することが重要であると、みなさん異口同音に語られていたことが、ひとつ印象的でした。プロダクトによってビジネス環境はかなり異なるため、見るべき指標や判断すべき基準、観察すべき期間といったセオリーには分野ごとの違いがある点は、基本としてしっかりと押さえておくべきでしょう。

もう1つ印象的だったのが「PMFは達成したなどと思わず、常にPMFを目指して改善を続けるべき」という意見で、これも複数の起業家から異口同音に語られていました。目標を達成したと思った瞬間に満足してしまい、そこで努力が失速してしまう…。これは事業運営に限らず、人生全般において言える話であり、非常に重要な人生訓でもあるように感じました。

次回は「組織」がテーマです。どうぞお楽しみに!

文:小石原 誠
編集:斉尾 俊和


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