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今日もぼくらは二人で野球をする(初巻)

千葉県の田舎街で、ぷにぷにの柔らかいボールとプラスティックのバットを振り回して野球の真似事をしている変質者がいたら高確率で我々です。決して怪しい者ではございません。友人がいない哀れな二人なので、どうか広い心で何卒生温かい目で見守ってやって下さい。

この記事を読んで下さる方が、我々の不穏な経緯を知って頂けると幸いです。今後も活動内容を定期的に[今日もぼくらは二人で野球をする]として執筆しようと企てています。

はじめに

日本MATSUTAKEファン倶楽部という奇怪なチーム名を掲げ、カラーボール野球の活動を開始するも、すぐに千葉カラーボール野球連盟と名を改めた同級生二人の足跡を辿る短編エッセイです。過去四話分の備忘録を一話にまとめて[今日もぼくらは二人で野球をする]という滑稽な表題で改めて投稿する事にしました。Byメガネ


カラーボール野球との出会い

その日の夜も薪を焚べながら、野球部の元チームメイトでもあり同級生でもある、後に会長の座に着くその男と焦げたお肉を譲り合っていた。

焦げたお肉を半ば強制的に譲り受けた事
席を外して戻ってみるとビールが痛烈な酸味を帯びていた事
タン塩を食べようと思い、レモン汁を振るも中身が空になっていた事
大事に育てていたお肉達を一人残らず拐われた事

酩酊状態でも嫌な記憶は翌日になっても意外とアンインストールされていない物だ。

その男とは頻繁にキャンプの真似事をしていた。

その日もお肉を焼いたり星空の下で温かいコーヒーを飲んだり、お酒の力も相まってくだらない話で盛り上がっていた。

エモみ増し増しで良い曲が作れそうな夜景
炎上しているお肉(左)はメガネの取り分
食べ頃のお肉(右)は会長の取り分



その男は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだ。


「見てみ面白いからこれ」

主語の欠落と文法の指摘はさておき、その男のスマホを覗き込むとゴムボールとプラスティックバットを使用して野球を楽しんでいるSNS動画が映っていた。

小さな画面の中のその映像はキラキラと眩しく、とても楽しそうに見えた。この名称不明な野球をやりたいという気持ちに駆り立てられたのが事の始まりである。

今ではきのこヘアーにメガネという陰湿を凝縮した様な風貌の私も、小学生から高校までは野球部に所属していたのだ。

毎日の厳しい練習の末、野球部の盟友達は皆痩せこけていて揃いも揃って捕虜の様な風貌であり、例にも漏れず私も栄養失調寸前であった。

太れない事が当時の悩みだったが今にして思うと贅沢な悩みだ。

強制的な坊主による毛先での遊戯禁止
神と民ほどの差が生じている上下関係
歪なグランドで跳ね上がるボールとの死亡遊戯
監督の逆鱗に触れると外野まで飛んでくるノックバット

そんな戦禍を潜り抜けてきたので、皆が見ている楽しそうな野球とは違った裏側の地獄を知っている。

野球部を引退して、野球から離れる期間が長くなるに連れ、本格的にバチバチとぶつかり合うレベルの高い野球はもう自分にはできないなとバッティングセンターの後、痛む手をただじっと見つめ思うのであった。

怖くて辛い地獄の様な野球から離れていた私がカラーボール野球に魅力を感じたのは、動画に映っていた野球を心から楽しんでいる姿、経験者も未経験者も大人も子供も年齢を問わずに楽しめるという野球の原点をそこに感じたからである。

珍しく私は声を大にして、その男を誘った。

「来週にでもその、カラーボール野球ってやつやろうぜ!!」


その男は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだが意外と的を得た事をいつも言う。


「友達いないから俺達できないじゃん。」

動揺を悟られないよう平静を装い、落ち着いたトーンでお互いの友人を合わせる提案をした。

二人合わせても片手で足りる友人達へ、真心を込めたラブコールを送るも全て撃沈に終わり、動画で見たカラーボール野球の背中が遠く、小さくなっていったのであった。


カラーボール野球チーム
[日本MATSUTAKEファン倶楽部]結成


野球という競技は九人対九人で成立する
SNS動画で見たカラーボール野球は五人位で成立していた
二人合わせても片手で足りる友人達を失った我々は二人で始動するしかない

これが現実

二人でやる野球といえばキャッチボールしか思い浮かばない
カラーボール野球を二人で成立させる為にどうすれば良いのか皆目見当も付かない
友人の増やし方はいつまで経っても分からない

これも現実


その男は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだ。


「おい聞いてくれ。ニホンマツタケファンクラブや。降ってきた。」

きっとその男は少数精鋭の友人達にお誘いを断られ続けて、頭と心が疲れてしまったのだ。若しくは現実逃避の過多により受診が必要な状態に陥ってしまったのだ。

よく分からない単語を羅列しているその男はこちらを見て満面の笑みを浮かべている。年齢制限必須のホラー映像が目の前で繰り広げられていた。

満面の笑みの会長 参考画像


一応ラリーを続けるという選択をした私は平静を装い聞き返す。

「何のクラブに松茸が降ってきたんだい?」

その後もニヤニヤしながら意気揚々と語りかけてくるその男の話を要約すると

[ニホンマツタケファンクラブ]はチーム名らしい
競技ルールは考えていないが、楽しければ良いらしい
その男は松茸が好きではないらしい(どうでも良い)
正式名称は[日本MATSUTAKEファン倶楽部]らしい(どうでも良い)

チーム名というのはチームが出来上がってから命名するのではないか
二人でチームというのは如何なものか
そもそもダサさを凝縮した様なその単語の羅列はなんだ
まず、ルールもなければ競技としての確立もできていないではないか

という心の声を押し殺して他のチーム名を提案するも、互いにしっくり来ないまま大量のお蔵入りを生み出していたら夜が明けた。

ご満悦の男としっくり来ないメガネは奇妙で謎に包まれた怪しいチームを発足し、カラーボール野球という未知の領域に足を踏み入れたのである。

焦げたお肉とベーコンの塊、酸味が効いたビール、それに加えて奇怪なチーム名を消化しきれないまま朝を迎えると、冬の朝日が僕らを出迎えてくれていた。

気温-3℃の心地良い朝

奇怪なチームの会長にはその男が就任した。
私は庶務のメガネらしい。

会長の下にある数々の肩書きを頂けずに庶務らしい。
二人しかいないのに。チーム発足人なのに。

夜中の思いつきで始まった放課後遊びの延長戦を際限なく楽しむ為、会長メガネは翻弄するのであった。


二人でのカラーボール野球いよいよ始動!

うちの会長は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだ。


「ちょっと市役所行って来る。」

幼馴染に近い存在とは言え、恋人や伴侶でもあるまいし逐一そんな報告は不要だと思いつつ、生活における必要な手続きや更新の類があるのだろうと思い「はいはい」と欠伸混じりの生返事をふわりと投げ返した。

「スポーツ推進課の偉い人が5人と館長が来るらしい。」

欠伸を急いで飲み込み「はい!!?」を添付して投げ返した。

数日前の作戦会議という名目の飲み会では、カラーボール野球の開催場所が議題に上がるも結論が出ないまま解散していたのだ。

屋外だと風の影響を受けやすく、最近では球技禁止の公園が多いという事実が我々を苦しめる。

更にはグラウンドを借りる為には十名以上での団体登録が必要という大きな壁が立ち塞がり、慢性的な友人不足に頭を抱える私達は八方塞がりとなった結果、揚げ物とアルコールの多量摂取と大きな課題に盛大な胸焼けを起こしていた。

電話越しの会長が話を続けていたので再び耳を傾ける。

「体育館なら天気も時間も人数も気にしなくて良いよな?」


うちの会長は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだが意外と的を得た事をいつも言う。


「まぁたしかにそうだけども。」

怪しいチーム名を引っ提げた謎の男が、よく分からない競技を体育館で行いたいという申請なんぞ大人達が許可する訳も無いだろう。

撃沈確定の[日本MATSUTAKEファン倶楽部]の会長を「ダメだったとしても誠意を見せてきておいで。終わったら傷心会を開こう。」と送り出した。

会長から即不採用と切り捨てられたロゴ

ほとんど幼馴染に近い存在なので会長の性分は熟知している。

彼はラガーマンの様な見た目によらず極度の人見知り
ぶっきらぼうで建設的なディスカッションは苦手
人見知りである事を悟られぬ様、何故か堂々と胸を張る癖がある
脳味噌の95%が筋肉で形成されている為、筋肉でしか会話ができない

動物的な行動なのだろうと十数年その行動を横目に過ごしてきたが、今回は一人で大人達に囲まれてプレゼンをしなければならない状況なのだ。文字通り絶対絶命だ。

傷心会の会場を抑えるべく行きつけのお店へ電話をして席を確保した。

「まぁよく頑張ったよ」
「よく思いついたよ」
「とりあえずお疲れ様」
「また考えようぜ」

慰めテンプレートを脳内にインストールし、傷心会の会場も確保できて準備が整った頃、会長からの着信に気が付きスマホを手に取る。


「よく分かんないけど許可取れたよ。」

いちばん嫌らしい嘘は、いちばん真実に近い虚言だ。
ジイド 「一粒の麦もし死なずば-二部」

その後も会長の声色とトーンを仔細に観察し、数十年の付き合いに基づき推し量った結果、真実を語っていると判明するまでに相当な時間を要した。

若輩者ではございますが、役職付きの大人の方々へ誤解を恐れずに言わせて頂きます。

「こんなふてぶてしく胸を張った怪しい人間に体育館の使用許可を出してはいけないと思います。きちんと話は聞くべきだし、申請内容もきちんと確認するべきだと思います。怪しい集団は申請書類を確認した時点で断るべきだと思います。秩序と風紀を保つ為には大人がきちんと対応しないといけません。」

という心の声が漏れない様に会長へ一連の流れを訊ねる事にした。

・周囲への配慮を行う為の具体策
・安全性と怪我のリスクの低さを提唱
・実際にカラーボールとプラスティックバットを使用して頂く
会長なりのPR

筋肉脳味噌を振り絞った結果プレゼンは成功したらしい。
大人の方々はプレゼンそっちのけで、会長の説明もおざなりにカラーボール野球を終始楽しんでいたらしい。そして散々遊び終わり「まぁ良いんじゃない。」と許可を頂いた。

色々と突っ込む箇所が多いのはさておき、多額の賄賂や恫喝をしていない事にほっと胸を撫で下ろし、傷心会改め祝勝会会場で合流して日本松茸なんちゃら同好会の幕開けにグラスを交わした。

メガネの愛飲 ハートランドビール


「とりあえずやってみないとルールも分からないし、やりながら楽しい事考えようぜ」


うちの会長は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだが意外と的を得た事をいつも言う。


[日本MATSUTAKEファン倶楽部]改め
[千葉カラーボール野球連盟]として再出発!!


うちの会長と役職付きの大人達との協議?競技?の上、体育館の使用許可を頂いた我々[日本MATSUTAKEファン倶楽部]だが、慢性的な友人不足という事実がいつまでも付き纏っていた。

数少ない貴重な友人達へ懇切丁寧なお誘いをするも、折り合いがつかず二人で始動する選択肢以外残されていなかったのである。

カラーボール野球を楽しむのであれば、チームメイトがいて練習や試合もしたい。

という絵空事を具現化する為には、一緒に活動してくれる仲間が必要なのだ。

外部へアウトプットする術を持ち合わせていない情弱二人は、恐る恐るSNSという魔境へと足を踏み入れるが、もちろん知識や技術という武器は持ち合わせていない。

仕方なく革の上着を羽織り、ひのきの棒を片手に彷徨い始めるのであった。

SNSと対峙する我々の参考画像



足りない頭を二つ振るも皆目見当もつかず、作戦会議ではお年寄りパソコン教室への通学も候補に上がる始末だ。

試行錯誤の末、お年寄りパソコン教室やらパソコンカルチャースクールへ通学をせずに、骨髄を砕く思いでSNSのアカウントとやらを取得し、晴れてカラーボール野球を発信できる環境が整ったのである。

もちろん[日本MATSUTAKEファン倶楽部]名義で

アカウント取得後、カラーボール野球の様子を少しずつ発信するも、我々は何か違和感に近い物を感じ始めていた。そこから数日ほど経過したある日、我々は重大なミスに気が付いたのであった。

[日本MATSUTAKEファン倶楽部]ってなんなん?


もし見ず知らずの[日本MATSUTAKEファン倶楽部]というアカウントが呟いたり何かを発信して誰かの目に付いた所で、お年寄りのきのこ採り集団として認識されるだろう。

もし運良くカラーボール野球の活動をしていると認知して頂いたとしても、怪しさ全開の奇怪な集団として認識されるので、常人であれば近寄りたくはないだろう。

つまり、誇らしく掲げた松茸が我々の足枷となっていたのである。

我々はきのこ採り気狂い集団として大手を振って世に羽ばたき、そしてその羽をすぐに畳む決断をした。

残念ながら不採用となるが、最終選考まで残ったロゴ



気狂い集団は会長と庶務のメガネで構成されている。


「会長、恐らく誰の目にも止まっていないです。」

「なんでだろう。」

「なんででしょう。」


数日後


「おいメガネ、日本MATSUTAKEファン倶楽部って意味分からなくないか?」

「恐らく、不審者として誤認されてるでしょうね。」


「…」


「「よし、名前を変えよう!!」」

ここまで辿り着くのに相当な時間を要した事を少々後悔もしているが、我々が熟考に熟考を重ねた、愛おしく誇らしい名義には変わりない。

いつかチームメイトが増え、団体登録ができる状態になった暁には
[日本MATSUTAKEファン倶楽部]を押し入れから引っ張り出す事にしよう、それまでは一度眠ってて頂く。

一度目の失敗をした我々はノンアルコールでの作戦会議を静かなトーンで行う。

千葉でカラーボール野球をやっている事と、今後使用できる体育館を増やしたり、オフィシャルとして存在する為にも連盟という冠をつけよう。

という結論に至るまで然程時間を要さなかった。
我々が何者であるかを曲解されぬ様シンプルに、そして真っ直ぐに。

そうして我々は晴れて[日本MATSUTAKEファン倶楽部]の冠を外し
[千葉カラーボール野球連盟]として羽を広げたのであった。

会長から即採用を頂いたロゴ①
会長から即採用を頂いたロゴ②

空になったグラスを片手に次の注文を店主に告げ、注ぎたてのビールに舌鼓を打っていると会長が唐突に口を開いた。

「競技人口も少ないし訳分かんないだろうけどよ、俺らが楽しい事には変わりないだろ?」「つまらなさそうな事には人間興味が湧かないけど、楽しそうなら気になるし目に止まるだろ?」「楽しい事を続けようぜ。」


うちの会長は毎回そうだ、いつでも無計画でぶっきらぼうなのだが意外と的を得た事をいつも言う。


手を取り合う仲間が増えるまで
[日本MATSUTAKEファン倶楽部]を再び掲げるその日まで

今日もぼくらは二人で野球をする


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