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仏像アドベンチャー

なんとなく、アニミズムである。
天然痘や災害が相次ぐ時代に、動物や植物、生きとし生けるもの全てが幸せに暮らせる社会を実現したいと大仏さまを造ろうと呼びかけた東大寺の立て看板をみて、聖武天皇と気が合いそうと思ったくらいだ。
ひょんなことから、仏像を購入することになった。

一周年を迎え、スタッフ一人ひとりに改善点をきいてみた。部署間の連携など色々出て来ると思ったのだが、あげられたのは次の二つであった。

  • 仏像を安置してほしい。

  • お坊さんをお招きして、一周年のご祈祷をしたほうがよい。

ミャンマーは敬虔な仏教国だが、五大宗教を認めている。クリスチャンもおりバランスをとって偏らない方がよいと思っていた。けれども、日本のデパートの屋上には神社があり、ミャンマーの和食屋さんでも後光つきの神棚をよくみかける。

「それは、やるべきです。」

べテランの工場長がおっしゃった。貴方はお金だけ払って、あとはスタッフにまかせておけばよいのです。とはいえ、仏像担当などというものはおらず、誰にたのめばいいかも分からない。

ある朝、事務所のすみっこで、スタッフが目を赤くはらしていた。
産休明けの彼女はムードメーカーで、いてくれるだけでありがたい。
しかし、ワンオペ育児はどこも大変である。ことミャンマーなら尚更だ。
泣きたいときもあるだろう。

「仏像を買いに行こう。」と声をかけた。サブリーダーをつけるから、記念法要の担当をしてくれない? 信心深い彼女は、こっくりとうなずいた。

さて、まずは仏像探しである。

「どんな仏像にするのですか。」20代の若い子たちが、興味深そうにあつまって来た。それはもうゴールドよ。ミャンマーの仏像はどれも金色でしょう。というと、そうではなく、その素材だという。同じ金色でも、木製、銅製、ステンレス製、いろいろあるらしい。

 「では、一周年の記念に私がプレゼントしましょう。オリジナルを仏師に彫らせますよ。」と知人が申し出てくれた。高いところに安置するので、地震(はないけど)があっても安全だろう。ありがたく、その申し出を受けようとすると、万が一、棚から落ちて割れたら縁起が良くないという。
担当にまかせることにした。

「どこに安置するのですか?」別のスタッフが聞いてきた。方角により意味やご利益が異なるらしい。ゲストの方の宗教も様々であろうから、スタッフルームで東向きをさがす。ここは、お向かいがトイレ、仏さまの前で衣服を脱ぐのは失礼と、小さな事務所をみんなでぐるぐる巡り、新たな棚を作ることにした。

シュエタゴンパゴダの表参道には仏具を売る店が軒を連ねている。
あそこで、My 仏像を買う日がこようとは、ひそかにワクワクした。

雨季のある日、タクシーで着いたのはパゴダの入口。
あれっ?表参道ではというと、ご本尊の方がご利益があるのだという。
長いエスカレーターを3つ乗り継ぎ、高さ100メートルほどの境内に到着すると、あいにくの雨模様。誰もいないと思っていたが、意外と人がいる。
雨宿りをしながら、お祈りをしているのだ。

 階段の仲見世で仏像をみる。値段をきいて銅製にする。顔がいのちだ。
すると店主が訊ねた。

「マンダレー銅と、ヤンゴン銅のどちらになさいますか。」

これまた人生の選択。なんとなく本場のようなマンダレー銅を選ぶと、
スタッフが深くうなずいた。正解らしい。
周りに飾る花活け、敷き物、おめかしの日にかける袈裟等、いわれるままに購入して準備は完ぺきである。

両手にたくさんの荷物をかかえて、参道を下っていく。石の階段はすべりやすく、つるっといったらあの世行きだが、万が一の際には、境内のお坊様たちが天国へと送り届けてくれるだろう。しかし、ここで終わるわけにはいかない。肝心のセレモニーが控えているのだ。片手にスタッフ、片手に手すりをしっかりと握りしめて、一段ずつ慎重に降りていく。

やがて、仲見世の途中でスタッフが足をとめた。翡翠の小さな亀が気になるようだ。2,500チャット(170円)の値段をきくと、高いといって元へと戻した。
買おうよ。いや、いいです。を繰り返しながら、階段を下っていく。
仏像を買う日というのは、人生にそうないだろう。ミャンマーのお家にはすでにあるからだ。彼女のおかげですべての準備が整った。記念のご褒美くらいあってもよいのではないか。

 やっぱり、買おう!スタッフの手を引いて、仲見世に入ると、どこも象ばかりで、亀の置物は見当たらない。結局、階段を再び上って、元のお店で一つを慎重に吟味する。
雨は小降りになっていた。

翡翠は健康と長寿のお守り、これで息子さんもすこやかね。

雲の切れ間から見えたお日様に、翡翠の亀をキラキラとかざすと、
少女のように笑って、大事そうにポケットへとしまった。

これがナイショというのも、きっとバレてしまうのだろう。でもいい。
いつかみんなが必要なとき、一人ずつえこひいきしていけばいいのだ。
雨はすっかり上がっていた。



ROSES / Finn Askew
https://youtu.be/07CfAlT-DGM


#みんなでつくる秋アルバム

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