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上田久美子演出オペラ「道化師/田舎騎士道」感想

上田久美子先生による宝塚歌劇退団後初の演出作品であり、初演出となるオペラ「道化師/田舎騎士道」を観てきました。上田先生にとって戯曲を手がけた朗読劇「バイオーム」に次ぐ退団後2作目です。

当初はウエクミせんせがオペラやるのか、オペラってちゃんと観たことないけど上田先生なら面白いだろうな、蘭乃はなさんも出るのか〜みたいな軽い気持ちでチケットを購入。後方席が激安だったこと、上田先生の期待をあおるコメントも後押しに...。

こんな時代にこそ、マエストロ、歌手、ダンサー、オーケストラ、コーラス、他にもたくさんの素晴らしいアーティストたち…人々のエネルギーが混じり合い、イタリアと日本が混じり合い、脳味噌フル稼働で観ていただけるオペラができたらと思います。

さあ、生まれるのは、失望か?希望か?

                                                             
上田久美子
東京芸術劇場   公式サイト
https://www.geigeki.jp/performance/concert255/


そんな感じで、なんの下調べもせず会場についてポスターを見たら、ゴシック調フォントのタイトルに加え、“現代日本の裏通り”の写真の上に「みんなさみしいねん」と書かれていてカオス。すでにこわい!!!(褒め言葉)とワクワクしながら着席した。

“現代日本の裏通り”に載せられた手描き文字

一幕は「田舎騎士道」。始まる前からセット上にホームレスに扮したダンサーが2人寝転んでいて、ガラガラやダンボール、肉のハナマサの袋(芸が細かい)などが置かれている。無料配布されたプログラムによると、舞台は“現代の大阪みたいな場所”とのことだが、どうしたって西成地区を思い浮かべてしまう。

演出は、オペラ歌手とダンサーが、歌とダンスの2人1役で表現するというもの。この演目を事前に観た際に“耐え難くゆっくりしていた”と感じた上田先生が、この仕事を引き受ける条件だったそうだ。

スクリーンにはオペラ原曲の歌詞と日本語詞が、舞台のセットには関西弁の“少し間違った”セリフが同時に映し出される。例えば原曲の歌詞が「祝福の日!ミサへ行こう」だとしたら、関西弁のセリフは「今日は1年に1度のだんじり! もうこれしか楽しいことないねん」といった感じ(笑)。

「田舎騎士道」「道化師」ともに、主役のオペラ歌手はアントネッロ・パロンビという男性。「田舎騎士道」には、テレサ・ロマーノという女性がヒロインとして出演していた。他のオペラ歌手、そしてダンサーはすべて日本人じゃないかなと思う。

オペラ歌手が美しい響きで原曲オペラを歌うとともに、“大阪みたいな場所”の住人に扮したメインキャストのダンサーが演じるように踊り、その関西弁の下品なセリフが映し出されるという仕掛け。かなりシュールなんだけど、ヒリヒリもする...。

“大阪みたいな場所”の住人として舞台上に立っているサブキャストは、全員オペラ歌手だったかと思う。阪神のユニフォームを着たおじさんや頭にカーラーをつけたおばさん、作業服のおじさんも。このオペラ歌手の人たち、きっと舞台上でこんな格好したことなんだろうな...と思ったり(笑)。

一幕の「田舎騎士道」、二幕の「道化師」ともに「ヴェリズモ・オペラ」の代表作だという。「ヴェリズモ」とは19世紀末から20世紀初頭のイタリアで起こった文学のムーブメントで、貧しい人々の悲惨な生活をありのままに描くというもの。上田先生は今回それを今の日本に重ねたそうだ。一幕でも二幕でも貧困や孤独、そして不倫が描かれていた。

一幕のダンサーは望海さんの「SPERO」にゲスト出演していた柳本雅寛さんが主演。どうしようもない男を演じる柳本さんを、どうしようもなく愛する孤独な女性役の三東瑠璃さん、柳本さんの老母を演じたケイタケイさんも凄まじい熱演だった…。

一幕で特に印象に残ったのは、街で有名な“こわい人”であろう“日野さん”が、トラック運転手の仕事を終えて街に帰ってきたシーン。

セットに映し出された関西弁のセリフの
「日野さん!お疲れ様!」
『俺はトラック野郎!雪の中を走り抜けてきた!』
「日野さん!さすが!すごい!知らなかった!
さしすせそで褒めとけばええねん」
ってくだりが辛辣で好きだった(笑)。

二幕「道化師」の冒頭では、ピエロが口上でこの舞台の仕組み(原曲詞、日本詞、“ちょっと間違った関西弁のセリフ”が映し出される)を改めて説明。本当は一幕と二幕の順番が逆だったんだけど、直前で上演順変更のアナウンスがあって。たしかに一幕は、この仕組みをわざわざ説明されないほうが衝撃が強かったかもしれない。

二幕の説明は当初一幕でやる予定だったものをそのまま残しただけかもしれないが、観客全員に最後まで着いて来てもらえるように丁寧に説明したのかな。客層としては、オペラを普段から観てそうなおじさんも多かった。

二幕の主役はなんと、宝塚の振付師としておなじみの三井聡先生!そこに蘭乃はなさんや芋洗坂係長が脇を固める。旅一座をとりまく人々のお話だったのだけど、オペラ歌手のアントネッロ・パロンビが三井先生と2人1役で出演していた。

衝撃的だったのは、旅一座の座長である三井先生が蘭ちゃんに不倫され、怒りで震えながらも舞台本番で道化になるべく顔におしろいを塗っている場面。三井先生がはけるときに、アントネッロの頬に、手についていたおしろいを思いっきり塗りつけたのがこわかった...!

頬におしろいを付けられたアントネッロは絶望の表情を浮かべるんだけど、それを顔全体に伸ばして、自身も道化になって...。最終的に三井先生ではなく、アントネッロが自我を持って蘭ちゃんと2人1役のオペラ歌手を殺そうとしてたのがこわかった。

いつの間にか、主役の三井先生もアントネッロが殺そうとするのを止める側になっていて…。オペラをわかりやすくするために存在していたダンサーがメインだったはずが、結局はオペラ歌手だけで物語を完結させるという...。オペラを観たことのない人でもオペラの歌手に目がいっちゃう、すごい演出だな…こわい演出だな…と(笑)。

ちなみに二幕で“大阪みたいな場所”の住人が旅一座の舞台を観るシーンで「贔屓探さなきゃ!」「舞台でさびしさを紛らわせてる」みたいなセリフがあって、宝塚ファンとしてはアセアセって感じだった...上田先生、こういうことやるよね(笑)。

カーテンコールには、上田先生もご出演。アントネッロたちに何度も手を引かれてお辞儀していて(延々終わらなかったw)、ちょっと困っていたのが上田先生らしかった(笑)。

※以下撮影OKの舞台写真です。ネタバレご注意ください。


左下が上田先生
お辞儀をする上田先生(左下)



公演後のロビーには、ホームレス役のダンサーさんが。最後まで抜かりない演出...!

なぜかかつお節を削っている


初めてのオペラ、きっとスタンダードなものではないのだろうけど(笑)、上田先生のおかげで飽きずに楽しく観ることができました。

上田先生についていくと、面白いものが観られるの最高だなあ。これからもついていきます!

こちらは前作「バイオーム」の感想なので、よろしければ読んでみてください。「バイオーム」、岸田戯曲賞の最終に残っているみたいですね...すご...!

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