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2022年マゴソスクールの目標と課題① ~ケニアの新教育課程(CBC)について~

2022年が明け、マゴソスクールも新しい課題が目白押しだ。マゴソスクールを支えてくださっている支援者の皆様にも今ケニアで起きている大きな変化をご理解いただけるように、いくつかの目標と課題を整理して解説したい。

まず、その①として、ケニアの新教育課程(CBC)について。

2017年からケニアでは、新教育課程が施行されている。
2022年1月現在、5年生の3学期目を過ごしている生徒たちが、新教育課程の先頭にいて、現在の6年生が旧教育課程の最後の学年となる。

CBCと呼ばれるこの新教育課程について、現時点で分かっていることを解説し、マゴソスクールが2022年に取り組みたいことについてお伝えしたい。

1.旧教育課程(8-4-4)について(1985年から)

ケニアでは1963年の独立以降、植民地時代に導入された英国式教育システムをそのまま継続する形で 7-4-2-3 systemが実施されていたが、1985年に、ケニア独自の教育システム 8-4-4に改定された。それは、以下のような形だ。

8年間のプライマリースクール Standard1~Standard8
4年間のセカンダリースクール Form1~Form4
4年間の大学

8年間の終わりにKCPE受験(Kenya Certificate of Primary Education)
4年間の終わりにKCSE受験(Kenya Certificate of Secondary Education)

この全国共通テストの結果により、進学先が決まるシステムで、筆記試験での点数重視の教育内容だった。

2.新教育課程(CBC)について (2017年から)

CBC Education System 2-6-3-3-3 (The Competency Based Curriculum)

これまでの点数重視の教育システムではなく、各自の能力を伸ばし、特性を生かした職業に就いていくことができるように、早い時期に得意な分野を把握して、専門性を身に着けていくことを重視した新しい教育システム。

2年間の幼稚園 PP1~PP2
6年間の小学校 Grade1~Grade6
3年間の中学校 Grade7~Grade9
3年間の高校  Grade10~Grade12
3年間の大学  *専攻によっては3年以上

2022年1月現在、5年生3学期目の生徒がCBCの先頭。6年生3学期目の生徒以上は旧教育課程。
2022年4月~12月に新教育課程にいる学年は1年~6年生。
2023年1月から、はじめて中学校ができる。

教育内容の違いとしては、実際的な学びを多く取り入れており、筆記試験だけではなく、実技による評価方法も数多く導入されている。

様々な科目において「プロジェクト」と呼ばれる課題が出る。13科目の様々な要素を取り入れて取り組むプロジェクトは、例えば、「商売の経営」というプロジェクトがあり、そこでは、生徒たちがグループを作り、何の商売をやるかの話し合いをして、仕入れ担当、会計担当、販売担当など、グループの中に担当者を設定して、ある一定期間、実際にその商売を経営して利益を上げる取り組みをしてみる。その経過を先生がモニターして評価する。

すべての生徒にはNEMISナンバーがあり、その個人ページが教育省のポータルサイトにあり、先生はそこを開いて記録を記入していく。

学期ごとの中間試験や学期末試験は、この教育省ポータルから試験ペーパーをダウンロードして、生徒が試験を受け、それをまたアップロードして採点が個人ページに記録されていく。

KCPEとKCSEの全国共通テストは廃止され、このNEMISナンバーによる個人ページの記録により総合評価がされて、その結果により進学先が決まる。
最後のKCPEは2023年11月に、最後のKCSEは2027年11月に行われる。(2022年1月現在、6年生3学期目にいる生徒たちが旧教育課程の最後の生徒になる。)

3年生終了時と、6年生終了時に、KNEC(THE KENYA NATIONAL EXAMINATIONS COUNCIL)によるアセスメント試験が行われ、その先に進級できるかが決まる。

9年生終了時のアセスメント試験では、高校(Senior School)に進学できる学力に達しているかどうかが評価され、同時に、得意科目や特性によってカテゴリーに分けられる。

3.中学校をどこに設立するのか?

2023年1月から新しく中学校(Lower Secondary もしくは Junior High School)が始まることになるが、それを現在の小学校内に作るのか、高校内に作るのか、もしくは中学校として独立した学校を作れるのかについては、まだ教育省内での議論がされており決定していない。しかし2022年1月時点で、現行の公立セカンダリースクールに対して、中学校を併設させるための建設資金が政府から分配された。そこで、セカンダリースクールでは教室の増設を開始している。
現段階では、小学校に中学校を併設することは考えられておらず、セカンダリースクールに中学校を増設する案が最も有力と思われる。

4.高校のカテゴリー

将来のキャリアを念頭に置いて、各自の特性に応じて以下の3つのカテゴリーに分けられる。

Arts & Sports Sciences
Social Sciences
STEM(Science Technology Engineering and Mathematics)

高校の3年間を終了したら、その先、専門分野の高等教育(University)に進むか、職業訓練(Technical and Vocational Educational and Training -TVET)に進むか、起業して就業を開始する(entrepreneurial business)ことが出来るようになる。

Arts & Sports Sciences

芸術、音楽、スポーツ、演劇、文学、伝統文化などを専門とする生徒たち。
将来の職業は体育教師、音楽教師、スポーツトレーナー、スポーツ選手、作家、画家、脚本家、舞台芸術家、役者、詩人、伝統手工芸などが考えられる。

Social Sciences

地理、歴史、道徳(宗教教育)、語学、ビジネス、などを専門とする生徒たち。将来の職業は、社会科教師、語学教師、宗教者、通訳、観光業、サービス業、などが考えられる。

STEM(Science Technology Engineering and Mathematics)

理数科や技術を専門とする生徒たち。将来の職業は、理数科教師、エンジニア、医療従事者、会計士、銀行員、建築家、コンピュータープログラマー、経済学者、などが考えられる。

5.なぜCBCが必要だったのか?ケニアの社会的事情

(以下は早川の個人的な見解です)
8-4-4-システムによる受験戦争は生徒たちに大きなストレスを与えていた。8年生とForm4でのKCPE, KCSE 全国共通テストでは、その総合点により高校、大学への進学先が決定し、そこで落第した者には挽回のチャンスは無かった。ケニアのように、都市と地方の格差や、生活環境による条件の差が大きな、民族や生活環境の多様性が大きな国において、ケニア国民全員に平等な条件となるシステムを構築するのは非常に難しく、この共通テストの点数によりその先の人生の方向性がすべて決定してしまいがちであった。
この受験ストレスにより、青少年の非行や、学校脱落者も多数出ており、特に近年では生徒たち自身によるセカンダリースクールの放火事件が頻発していた。
また、ケニアの若者たちの失業率の高さは大きな社会問題になっており、KCSEでD以下の成績だった生徒たちにとっては、進学もままならず、かといって就職を得られるチャンスもなく、多くの若者たちは就業しておらず、そえにより国の生産性は低かった。
これを、必ずしも学問的な方向にだけ向かわせず、特別な才能を早いうちから開発していき、技術的な職業や、芸術・スポーツなどからでも才能を発揮して就業していけるように、ケニア政府は以前から奨励してきた。
しかし、保護者も生徒も含め、誰もが学問一辺倒主義に陥っており、技術的な職業訓練の分野は人気がなかった。
また、点数重視の受験をベースにした教育システムでは、芸術、音楽、スポーツなどの情操教育が軽視されがちで、各学校は点数的により優秀な生徒を獲得していくための争奪戦となり、その争いは激化していた。そのような影響から、ケニアでは青少年の精神的に及ぼす影響が年々深刻になり、自殺率の増加、若年層の妊娠、非行や犯罪、ドラッグ、学校のドロップアウト率も上がっていた。

そこでCBCでは、点数重視型の教育ではなく、カリキュラムに実践的なこと、実技やコミュニティ活動、社会経験、情操教育なども多く取り入れ、筆記試験の点数だけで生徒を評価するのではなく、それぞれの子どもの個性や才能を生かし、発展させ、そこから多様な専門性に導き、職業に就くことができるチャンスを広げ、ケニアの国を盛り立てていく人材の育成に努めるものである。

そのコンセプトとしては画期的で評価されるべき取り組みと思われるが、その一方で、CBCの大改革のために必要な教材、設備、教員の訓練などが遅れており、十分な準備が出来ていないままにスタートしているので、現時点では教員も手探り状態で対応に当たっており、教育現場での混乱を招いている。

6.CBCへの移行に関わるマゴソスクールにおいての課題

マゴソスクールとは

マゴソスクールはケニアの首都ナイロビにある貧困地区キベラスラムで、孤児や貧困家庭の児童をサポートし、教育や衣食住などへの手助けをする学校である。幼稚園から小学校までマゴソスクールに在籍する生徒は約500名、そしてKCPE受験後は「マゴソOBOGクラブ」として高校と大学への奨学金を提供してきた。その他、スラムの貧困者への生活相談、食料・医療支援、大人のための職業訓練(洋裁)、就業支援も行っている。

CBCの設備的・資金的な課題

CBCでは、IT導入が必須とされており、そのためには電力供給の整備をすることと、パソコン、プリンター、スマートTV、撮影のための機器など、設置しなければならない設備が多い。
また、CBCのための新しい教科書を購入しなくてはならない。ケニアでは、公立学校へは政府からの教科書補助金が出るが、キベラスラム内で運営されているマゴソスクールは私立学校であり、政府からの補助はない。そのため、教科書購入は全額自費となるが、マゴソスクールの生徒の保護者にはその費用を捻出する経済力がない。
また、筆記による教育ではなく、実技が多くなるため、そのための教材が多数必要となる。例えば、音楽教育ではリコーダーやキーボードなどの楽器、体育ではスポーツ用具、農業科目では家庭菜園をするためのスペースやその道具が必要となる。これらの実技は、生徒たちが実技をする様子をビデオに収め、その一人一人の記録を教育省のポータルサイトの個人番号にアップロードしていく必要があり、そのためには学校にインターネットが完備されている必要がある。
これらすべてにコストがかかるが、毎学期の課題をクリアしていかなければ生徒たちは次の段階に進めない。スラム内の学校としては、その条件を整えるためのスペースや、電力やインターネットの条件、コンピューターなどの設備などに関しての課題が非常にハードルが高い。
そのため、マゴソスクールでは早急にそのための資金集めをして、CBCへの移行をスムーズに進めていかなくてはならない。

マゴソスクール卒業後の中学進学・高校進学への課題

これまでマゴソスクールでは、8年生を卒業した生徒には、その家庭的な背景や生活事情などに応じて、Form1進学のための奨学金を提供してきた。このためにMORO教育基金という奨学金のための基金を設立し、サポーター制度を作り、主に支援者と生徒との一対一での関係を作り、高校大学の学費支援をしてきた。その支援者グループも作り、マゴソOBOGクラブを応援してきている。これまでは、年に一回、1月にForm1の入学期があり、その時期に新規支援者を募ってきた。(大学の場合は主に8月と1月の年二回。)

しかしコロナ禍の影響で、2020年以来、ケニア政府の学校スケジュールに乱れが生じ、2022年には3月と11月の2回のKCPE/KCSE受験がやってくることとなった。そのため、Form1の新規支援者が必要となるのは2022年の4月と2023年の1月と、約1年間に2回の入学期がやってくることとなった。

それだけでも支援者が普段の倍は必要になるのだが、さらに、CBCにより2023年1月には7年生が中学校に入学することとなった。
旧教育課程のForm1の入学と、新教育課程の7年生の入学の、2学年分の進学サポートをしなくてはならなくなった。

それに対応するためには、2022年度には、通常年度の約3倍の支援者が必要となる。

キベラスラムの保護者にとっては、旧教育課程であれば8年生終了までマゴソスクールで無料で学べるところを、通常よりも2年早く、7年生で中学校に進学させなければならなくなった。そのための資金的な準備がスラムの保護者には無い。コロナ禍で仕事を失った保護者が多い中、2023年1月時点で7年生の約50名の生徒の多くが中学校への進学への困難を抱えている。

7.「マゴソスクールを支える会」支援者募集

以上のような理由で「マゴソスクールを支える会」では、このCBCへの順調な移行と、マゴソOBOGクラブの支援拡大のために、支援者募集の呼びかけをしていきたい。コロナ禍で経済が大きな打撃を受けているケニアで、キベラスラムの貧困者たちの間には生活状態の悪化がいちじるしく、食糧支援や医療支援、生活相談などを親身に続けているが、2022年8月9日には大統領選挙を控えており、その政情不安がさらに経済にも響くことが懸念されている。また、コロナ禍の影響による治安悪化や若者たちの非行問題、セカンダリースクールの相次ぐ放火、失業率の悪化や健康状態の悪化など、問題が積み重なる中、マゴソスクールではキベラスラムのコミュニティの中で人々がより希望を見出し、未来を変えていく力を生み出していくために、マゴソスクール教職員一同、これまで以上に団結して誠心誠意の努力を続けている。

「マゴソスクールを支える会」が窓口となって、マゴソスクールへの支援を取りまとめている。レギュラーサポーター、不定期の寄付など、随時受け付けているので、ホームページからご参照いただけると幸いです。

8.早川千晶よりご挨拶

ケニア在住34年になる早川千晶と申します。私は1987年に大学3年生の頃、大学を退学して日本を出発、世界放浪の旅の末にケニアに定住し、旅行や撮影のコーディネーターとして働きながら、キベラスラムというケニアの貧困地区で生きる人々の支援を始めました。
私が出会ったキベラスラムの仲間たちは、ドン底のような生活状況の中、決して希望を失わず、助け合い、励まし合いながら懸命に生き、スラムで拠り所を失った孤児たちの救済をしていました。私はそんなスラムの仲間たちから、人間としてどれほどの希望と、命の光、そして尊敬を受け取ってきたか、言葉では尽くせません。その命の輝きと未来への希望を日本にも届けたくて、1999年から来日し日本全国での講演活動を開始しました。
それ以来、日本全国各地、そして世界各地に、数多くの貴重な友人を得ました。共に歩み、学び、励まし合い、前進してきました。
このマゴソスクールがキベラスラムの中で確実に一歩一歩歩んできた道の力強さは、マゴソスクールで育った若者たちの姿に表れています。
いま、マゴソスクールを担う若者たちの多くは、幼い頃に、飢餓や虐待や病苦からマゴソスクールが救い出した子どもたちで、マゴソスクールで成長し、健全な精神を身に着けた若者たちは、このスラムのコミュニティでさらに苦しむ子どもたちを救済して、癒し、導いていっています。

2020年、まさかの新型コロナウィルスの嵐に見舞われ、ケニアはロックダウンや経済打撃の苦しみを負いました。それは世界中どこも同じように予測もしていない苦境であったと思いますが、そもそも過酷な貧困状態の中で人々が生きるキベラスラムにおいては、想像を絶する苦しみでした。
それを2020年、2021年と、マゴソスクールでは最大の努力と共に力を合わせて乗り越えてきました。マゴソスクールで育った若者たちが、主戦力となり、最前線でスラムの貧困者たちと子どもたちの救済を行ってきました。

2022年、さらなるチャレンジに立ち向かっていきます。教育現場の根底からの大改革、これはケニア政府の驚くほど大きな決断であり、未来を良くしていくために今やらねばならないことに最大の勇気を持って踏み込んだ、歴史的な挑戦であると思います。これはまさに「産みの苦しみ」と言っていいほどの大きな大混乱を招くでしょうが、この先、必ず良い未来を作っていくんだという決意のもとに踏み込んだ道だと信じています。

私がアフリカに関わって34年間、ここで私自身も子供を産み育ててきました。アフリカが、ヨーロッパの列強国による植民地分割を受けて、植民地支配の圧政の中、人間性をずたずたにされるような搾取と蹂躙が行われてきて、ケニアも例外ではありませんでした。これまでケニアで行われてきた教育システムは、その植民地支配による影響を色濃く受けたシステムでした。
独立から59年の今、やっとケニアは植民地支配によって受けた精神的蹂躙や抑圧から、本当の意味で解放され、自らの力で自分たちの国の未来を選び、作り、子どもたちを教え導くための独自のシステムを構築しようとしていると感じます。
その取り組みが、いかに混乱しようとも、それはケニア人が議論し、研究し、構築していったシステムですから、私はその方針に寄り添い、彼らの挑戦を応援したいと願っています。

今現在、ケニアの社会は問題が噴出していますが、私たちキベラスラムでは、10年前、20年前、30年前とは、確実に違うと感じます。それは、スラムで育ち、学びの機会を得た若者たち自身が、自らの力で考え、発言を始めたからです。どのような状況に生まれ育とうとも、その出自がどうであれ、ケニアのそして世界中のどの若者とも対等に発言し、意見を言い、語り合い、問題提起が出来る若者たちがマゴソスクールでは育っています。

ここから先の未来がどうなっていくか、それは、思ったよりも早くその変化を私たちは見ることが出来る予感がしています。このスラムの貧困のコミュニティを根底から変えていく。そのような気概を持って、マゴソスクールの若者たちは真剣に取り組んでいます。

どうかあともう少し、助けの手を差し伸べていただけませんでしょうか。ここから先の未来に向かって、まだまだ変わっていきたいと変革と成長を続けているケニアは、活気ある発展途上の国です。
この先の未来を、彼らとともに私自身も出来るだけ長く見ていきたいと思いますが、私の命が尽きる日が来ても、マゴソスクールの若者たちは必ずこの流れを引き継ぎ、次の世代の、そしてまたその次の世代の子どもたちにまで、このマゴソスピリットを伝えていきます。
いつも助けていただき、応援していただき、心から感謝申し上げます。ここから先も、より良き未来に向けて、キベラスラムの仲間たちの歩みを応援していただけますと大変ありがたく思います。どうかよろしくお願い申し上げます。

2022年1月12日
早川千晶(ナイロビ、ケニア)

●早川千晶facebook
https://web.facebook.com/chiaki.hayakawa1

●早川千晶twitter
https://twitter.com/chiakihayakawa0

9.Magoso OBOG TV (マゴソ卒業生によるyoutube channel)の紹介

マゴソ卒業生ジョンソンが立ち上げたyoutubeチャンネル

まだまだ未熟ですが、様々な話題をお届けしていきますので是非チャンネル登録をお願いします!

CBCに導入するためのSmart TV の各教室への設置の様子

マゴソ卒業生Generation10のポール(ケニヤッタ大学1年生)のインタビュー

撮影しているのは同大学3年生のジョンソン(Generation8)です。







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