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来たるべき言語化の時のために──一人暮らしでめまいに襲われて救急車を呼んだ話

[おことわり]
わたしは医療の専門家ではありません。ここに書かれていることは素人の所感です。必要に応じて、医療機関や医師が発信する正確な情報を参照してください。
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先週の木曜夜から金曜午前中にかけて、救急搬送されて入院した。原因となったのは、「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」という病気である。

内耳の耳石器という部分にある、耳石という炭酸カルシウムの塊が何らかの原因で剥がれ落ち、三半規管の中に入り込むことでめまいを生じる病気。[...]その三半規管に耳石が入り込むと、リンパ液の流れが乱れて実際の体の動きと合わなくなり、この情報のずれからめまいが生じる。めまいの症状があるとメニエール病を疑う人もいるが、内耳の障害が原因で発生するめまいのうち、良性発作性頭位めまい症が6割以上で、メニエール病によるものは2割以下といわれている。(上記記事より)

私は呼吸器や皮膚に持病のある20代だが、これまでめまい症になったことはない。それだけに今回の体験は恐怖とともに強烈な記憶となった。ということで、事の顛末を書ける範囲で記述しておきたいと思う。

※それなりに長いので、結論からいきたい人は、目次の最後「今回のめまい症と入院で得た学び3つ」に飛んでください。

※なお、BPPVからの回復にかかる時間は個人差がある。今回の私のように一晩で回復する場合もあれば、2~3日の入院を要する場合もある。

木曜日19:30

▼キッチンで夕食を調理中に、頭のぐらつき・わずかな頭重感を覚える。ただの疲れかな?熱中症かな?と思いそのときは気にせず。

木曜日19:45頃

▼床に座って食事中、どんな動作がきっかけだったかは忘れたが、右斜め下に強く引っ張られような頭重感とともに激しいめまい頭だけでなく身体全体に強くグワアアアアアって感じの回転感。座っていても上体を起こしていられず、床に倒れこむ。

▼胸が詰まるような気持ち悪さがあり、嘔吐の前兆と予想。

木曜日19:45-21:00頃

▼寝ていれば治るかと思い、しばらく横になって様子を見る。姿勢を変えなければ何も起こらないが、上体を起こしたり何らかの動作をするとまた強いめまいに襲われる

▼寝たり起きたりを繰り返すが改善なし。

木曜日21:00頃

▼このままでは意識を失うと思い、119番で救急車を呼ぶ。名前、住所、症状を聞かれ応答。特にめまいの症状に関しては「フワフワする感じですか?グルグルする感じですか?」と尋ねられ、「グルグルするほうです」と回答(浮動性めまいか回転性めまいかを確かめる質問だったと思われる)。

▼電話を切った後、ふらつきながらどうにか貴重品と常備薬、私用の携帯電話をひっつかんでカバンに入れ、居室の戸締りと消灯もどうにか確認。キッチンの洗い物はそのまま。室内の、玄関に近い場所で突っ伏して待つ。

木曜日21:05頃

▼こちらに向かっている救急隊から電話。症状の発現時刻、頭痛はないか(おそらく脳出血でないか確かめる質問)、発熱はないか(新型コロナの可能性をかんがみた質問か)、患者の年齢、マンションにエレベーターはあるかなど質問され回答。エレベーターはあるが共用部がオートロック玄関なので、部屋番号で呼び出してほしいと依頼する。

▼この時点で頭重感はまだ強く、嘔吐感も継続。何をするにも突っ伏すか壁に手をついていないと倒れそうだった

木曜日21:10頃

▼共用部玄関のインターホンで救急隊が到着を知らせる。室内で応答して開錠。

▼救急隊員が自分の部屋に到着する前に部屋を出て施錠し、扉の前で突っ伏して待つ。部屋の前に来た救急隊員には「えっもう出てきてたの?部屋の中で血圧とか測ろうと思ってたんだけど……」と戸惑われるが、あまりに苦しそうな私の様子を見かねたのか「もう救急車乗ってもらってそこで測ろう」ということになり、隊員に支えられながらエレベーターに乗る。エレベーターに乗ってもすぐしゃがみこむほど、立っているのがつらい

▼マンションの共用部玄関前に待機していたストレッチャーに、靴を履いたまま自力で横たわるように言われ、乗ったはいいものの頭を動かしたときに強いめまいと嘔吐感があり、その場で2~3回嘔吐。

▼頭を固定していればめまいと吐き気はおさまるので、隊員の質問に答えつつ、体温、血圧や脈拍、血中酸素濃度(指先をクリップみたいなので挟まれるやつ)などを測定される。

木曜日21:15-20頃

▼救急車内にストレッチャーごと収容され、某病院での受け入れが決まる。

▼頭を左から右に動かすとまためまいと嘔吐感が出るので、頭を左向きに固定したまま搬送されていた。隊員に「このご時世に病院受け入れてくれますかね……」みたいな感じで聞くと、「発熱はないので大丈夫だと思いますよ」とのこと

▼搬送されながら、自分の既往歴、通院状況、服薬状況、妊娠の可能性の有無、家族の居住地や既往歴など矢継ぎ早に聞かれる。それなりにつらいのに、意識があるからってめっちゃ聞くなあと思った

木曜日21:30頃

▼病院の救急外来に到着。救急車のストレッチャーから、病院のストレッチャーに自力で乗り移り、これまた自力で体温計を腋にはさんで体温をはかるよう言われる。自力でやらせるの酷すぎんか。36.3度の平熱。

▼当直医による質問は以下の通りであった。

①「頭痛はないか」→ない。
【推測される意図】脳卒中、脳出血によるめまいの可能性を排除するため
②「ろれつが回らないとかはないか」→ない。
【推測される意図】①に同じ。
③「(足首や手首を変な感触のブラシで触りながら)触感はあるか」→ある。
【推測される意図】①に同じ。
④「耳鳴りはないか」→ない。
【推測される意図】メニエール病によるめまいの可能性を排除するため。
⑤「めまいはフワフワする感じか、グルグルする感じか」→グルグルする感じ 
【推測される意図】浮動性めまいか回転性めまいか特定するため
⑥頭を左から右に動かすとき、私の目の前に医師が指を出すのでその指の動きを目で追うように言われる→めまいと嘔吐感、気持ち悪い、目がぶれるような感じがしてうまく追えない (※後から調べたところ、本来ならフレンツェル眼鏡という器具を使うところか?)
【推測される意図】眼振(がんしん)の発現を確かめるため。眼振があると、「めまい感」ではなく、脳か内耳の異常からくる「真のめまい」と判断できる
⑦「どういう動作をきっかけにめまいが起きたか」→覚えてない。
【意図】頭の向きを変えたときに起こる「頭位性めまい」と判断するため。


▼⑦がよくわからないと答えたが、左から右に頭を動かすときに眼振が出ているということなので、医師は「頭位変換性の回転性めまい」と判断。(たぶん、本来なら正式病名「良性発作性頭位めまい症(BBPV)」と言うはずだが)

▼⑥の検査を何回かされたとき、頭の向きを変えるので、めちゃくちゃ吐き気がしてまた2~3回嘔吐した。当直医いわく、「耳石が元の位置に戻るには、頭の向きを変える練習を何回かする必要がある。あとは時間が解決してくれる」とのことで、何回か頭の向きを変えようと試みるが、嘔吐感でやはりうまくいかない

▼短時間では解決しなさそうなので、一人暮らしということもあり「入院の方向で」。検査より先に点滴薬を投与される。この時点で、実家と会社の人事に連絡。


▼入院するにあたり、不整脈でないか確かめるため、その場で心電図検査。やはり頭は動かせないので、左向きで点滴されたまま電極ぺたぺた貼られてえらい状態になる。

木曜日22:00頃


▼病院のストレッチャーに乗せられたまま救急外来を出て、病院地下の検査室でCTを撮られる。脳卒中や脳出血の可能性が低いことを確かめるため。仰向けになれないので、横向きのままできる範囲で撮ると言われる。

▼CTが終わったらそのまま病棟へ移され、相部屋(といっても先客は1人だけ)のベッドで安静に。抗めまい薬の錠剤と、嘔吐感解消のための医療用漢方を処方され、服用。

▼看護師と医師が入れ代わり立ち代わり訪れて処置をしてくださった

木曜日22:30頃

▼この時点でまだ頭重感は残っていたが、頭を動かしてもめまいを感じなくなっていた

▼当直医から、CTの画像で特に脳に所見はなかったと伝えられる。

▼立って歩いてトイレに行けないときのために念のため尿取りパッドを着けてもらっていたが、ふらつかずに歩いてトイレに行くことができ一安心。その後、就寝。

金曜日6:00頃

▼目が覚める。立って歩いてトイレに行くことができた。

▼当直医が来て、眼振がないことを確認し、今日の昼頃にも退院できそうだと判断。

金曜日7:00頃

▼朝食(1800kcalの常食)を完食。上体を起こしていてもつらくないし、嘔吐感もない。食欲も普段通り。指示通り服薬。

▼看護師から退院手続きの説明を受ける。

金曜日8:00頃


▼当直医とは別の医師から、今の体調と、最近の生活状況について尋ねられる。医師いわく、今回のめまい症は、長時間同じ姿勢でいるデスクワークや、在宅勤務の緊張感やストレスによるものかもしれないとのこと。

▼「また同じようなめまいの症状が出たら?」と尋ねると、「まずは安静にして、待つ。それでもおさまらなかったら、また病院に来てください」との答え。

金曜日9:30頃

▼病院の受付で退院手続きと支払い。夜間の救急だったのでいろいろと加算されて3万2000円くらいになっていた。貯金と保険はだいじ……

金曜日10:30頃

▼退院。

今回のめまい症と入院で得た学び3つ

めまいは、大の大人が一人で何もできなくなるほどの苦しみを伴う。特に一人暮らしの人は、「誰も助けてくれない……」という強い不安と恐怖に襲われると思うので、もし万一のときのために、以下の学びを共有してみたいと思う。

(1)特に一人暮らしの人は、自分で何かできるうちに救急車を呼んだほうがいい

何かできる」とは、具体的には

○電話で応答ができる
○貴重品や最低限の必需品をひっつかんで準備できる
○家の戸締りができる

これら3つがすべてできることをさす。となると、「このくらいの症状だったら寝て治るかな……救急車呼ぶなんで大げさかな……」とか言っていられないことになる。すぐ救急車を呼ぼう、ためらうな。公共サービスは遠慮なく享受しよう。

(2)お金と保険の準備は大切
突然の救急搬送や入院に対応できるくらいの手持ちのお金は準備しておき、入院初日から保障される保険にも入っていたほうがいい。

(3)自分の症状を言語化できるように、知識は必要
めまい症は、素人目に見て、どこかから血が出ているとかみたいなわかりやすい症状としては現れにくい。素人目に見てわかることなんで、せいぜい「めちゃくちゃつらそう」くらいである。

そんなとき、救急搬送や医師の判断の根拠となるのは、めまい症で苦しんでいる当事者の言葉だと思う。患者本人がどんなふうに感じているかを、患者本人が言語化して伝えなくてはならない

自分がかかったことのないあらゆる病気について知識をつけるのは不可能だが、病気の当事者がどんな言葉をつかって自分の症状を言語化したかに、折に触れて耳を傾けることには意味があると思う。例えば、めまいについて言い表すための言葉として「グルグル」「フワフワ」という異なる何種類かの言い方があるんだな、と知っておくだけでも、自分の感覚を言い表すための言語のストックは増える。それが自分や家族の命をいつか救うかもしれない。

もっと大風呂敷を広げた言い方をしてみれば、自分以外の他者の言葉が、いつか自分自身を救う言葉になるかもしれないということなのだ。来たるべき言語化の時のために

とはいうものの、そんな時はあんまり来てほしくないので、健康な生活をするに越したことはない。私も、めまい症を予防するために、長時間同じ姿勢をとらずに程よく身体を動かしていきたいと思っている。

そして、この文章が、誰かの、来るべき言語化の時に少しだけ役立ってくれたらいいなと思っている。

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