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世界の終わりと世界の始まり 第四章③真実を知りたい!

おばさんたちとのディナーで、僕の中には、好奇心の芽が頭を出した。
映画のシーンのような輝かしいレストランでの食事の風景。
おばさん夫婦のオーラ。
ママのニューヨークでの昔話。
記憶喪失の話。
その前に、ママから聞いた誘拐などの闇の話。
目に焼き付いた血相を変えて子どもの名前を呼んでいた女性の顔。
全てが、僕にとっては、真新しい刺激で、それこそ、何か映画の中の世界に自分が入ってしまったような感覚だった。

「世界の真実を知りたい!」
胸の中に火が灯った。

自分が見てきた世界は、
学習してきたことは、
ほんの表面で、それはまるでアボカドの表の皮みたいなもんだ。
ツヤツヤの硬い皮を剥けば、黄緑色の柔らかな実がある。
食べてみれば、薄めの優しい味がする。
その中には、大きな硬い種がある。
知らずにかぶりつけば、歯が欠けそうなくらい衝撃を受けて驚くだろう。
でも、その種を割って食べることが出来たなら、その栄養価は、実よりもはるかに高いと、テレビかなんかで言っていたのを聞いたことがある。
それにママが言っていた。
「アボカドって食べ頃が難しいわ。皮を剥いたら、まだまだ青くて美味しくない時もあるし、熟れすぎて、色が変わっちゃってる時もある。」

自分の知ってる世界とおばさんが知ってる世界、ママやお父さんが体験した世界、全ては事実なんだろうけれど、もっと、色々なことを知れば、それらがつながって、世界の真実にいつかたどり着けるのだろうか?
僕の一生の中で、体験出来ることは限られてるから、世界の真実に辿り着けないにしても、そこに近づきたいと強く思った。


「ママ、、、ジャーナリストってどうすればなれるの?」

「カイト、ジャーナリストに興味があるの?
そうねー、、好奇心と真実を探求する勇気があれば、なれるわよ。」
ママは、僕の顔を見てニッコリ笑った。

「真実を探求する勇気って?」

「この世の中には、自分が今まで知っていたことが、覆される真実がある。
知らない方が良かったって思うことも沢山あるわ。
真実を知ることで、危険な目に遭うこともある。
でも、ママは、それでも、真実を突き止めたいという好奇心の方がずっと強かった。
だから、勇気を持って踏み込んで調べたり、怖い人にも会った。
真実を書いてしまうことで、身の危険がある場合もある。
それでも、真実の報道をしたいという記者魂みたいなものがあったから、出来る限りのチャレンジをした。

ジャーナリストになるかどうかは別として、この世の真実に向かって行くための好奇心をあなたが持ってくれることは、嬉しい。
沢山の体験もしてほしいと思う。
親だから、心配はもちろんある。
ママはこれから、それとの戦いね。
もしあなたが本当にジャーナリストを目指すなら。
ママは応援と心配の間で右往左往するわ。
それは、ママの問題ね。
でも、あなたが本当にやりたいことなら、応援するわ。」

翌日は、おばさんも一緒にショッピングに出かけた。
元祖熟成肉ステーキのレストランの予約が取れたということで、ブルックリンに行くことになった。

ブルックリンの街並みは、また違って見えた。
ビルの側面に壁画アートがよく描かれている。
ニューヨークは、どこへ行ってもアートに溢れているけれど、場所によってスタイルや、雰囲気が全く違う。
チェルシーあたりだと、モダンアート、ポップアート、コンテンポラリーアート、それらギャラリーに並ぶ絵は、高価だ。
周りにある路面ショップも、値札を見るとビックリするような値段の服が吊るしてある。
店員たちは、ものすごくカッコいいし、カジュアルスタイルであってもゴージャスな雰囲気が漂っている。

ソーホーに行くと、もっと高級なデパートや、インターナショナルブランドのブティックが立ち並び、本当にセレブな人たちが、行き交う。

でも、ブルックリンは、もっと下町感があるし、駅前なんかは少し怖いな、と感じる。
お店に入って、服や靴を見て、ママが言った。
「やっぱりこの辺りは物価が低いわ。
この靴みたいなのをソーホーあたりで買えば10倍以上ね。
カイトも、成長期だから、もう着れない服がたくさん出てきたでしょ。気に入ったものがあれば、買ってあげるわよ。」

ランチの後、ウインドウショッピングしながら、街ブラし、気が済んだのでおばさんの車まで戻ろうとした時、誰かにつけられる気がした。
気になって振り向いてみたけれど、若いカップルが、楽しそうに腕を組んで歩いてるだけだから、気のせいかとまた前を向いて普通に歩いた。

おばさんの車を停めていたパーキングまで、ずっと僕らの後ろを歩いていたカップルは、僕らが車に乗りこむちょうどその時に、友だちらしき人の車に乗り込む姿が見えた。
僕は、タイミングの良さに違和感を感じて、ちょっと背筋に冷たいものが通る感覚が走った。

気のせいだと思いたかったけれど、その後も、彼らの乗った黒光りしている車は、ずっと僕らについてくるように同じ行き先に向かっていた。
やっぱり気になって、何度も振り返って黒い車の位置を確かめた。
斜め後ろか、一台挟んだ後ろの位置で、僕らの車を追っているように見えた。
何度も振り返っている僕に気づいたおばさんが声をかけた。
「どうしたの?カイト?誰か知ってる人でも後ろの車に乗ってるみたいに気にしてるけど、、、」

「あの斜め後ろの黒い車、さっきからずっと僕らの後をついて来てる気がするんだ。
乗ってる人たちは、僕らが歩いてる時から、僕らのことを尾行していたように思うんだ、、、」

「そうなの?でも、まあ、わたしたちこれからソーホーに行くから、同じ方面に行く車は、別にたくさんあるわよ。ブルックリンは、住宅街だから、ショッピングで、マンハッタンの中心目指して車を走らせる人は普通にいるから、、、」
とおばさんが言うと、すかさずママが口を挟んだ。

「昨日、わたしが、子どもの誘拐がアメリカでは多発してることとか話したから、カイト過敏なのよ、お姉さん。
でも、まあ、それくらい気をつけててちょうどいいからね。わたしたち日本という温室育ちで、頭の中お花畑だから。」

僕は、気のせいであって欲しいと思いながらも、ゾクゾクした違和感を感じずにはいられなかった。







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