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はんなり???!!!着付師物語 第6章②未来四十歳、新しい目標

 離婚再婚問題は、予想していたよりもあっさり片付いた。
未来は、前夫が故意に離婚届を出していなかったとするなら、一悶着あるかもしれないと覚悟していた。離婚届と保証人を準備して名古屋へ向かった。
喧嘩も覚悟で出てきた未来を迎えた前夫は、拍子抜けするようなことを言った。
「いや、お前のことだから、大阪に飽きたから帰ってきたよ。やっぱり一緒に住もうか!って言い出しかねないからな。そうなった時、もう一度婚姻届出すのも面倒だから、とりあえずしばらく置いといたんだ。」
未来は、再婚する旨を話し離婚届を前夫の手からもぎ取り大阪に帰ってきた。
そしてその半年後に無事に再婚を果たしたのだ。
 未来の人生には、このように、普通は起きそうにないことが幾度となく起こる。
未来は自身に起こった本当の話を人にしても、「それは、本当の話なんですか?」と必ず引き気味に聞かれることが多い。その度に未来はケラケラ笑いながら、
「そんなに大したことじゃないよね。みんなだってこのくらいのことあるでしょ?私は普通だって。」と答える。
本人にしてみれば、その人生が自分のものである限りそれがデフォルトなわけだから、大したことのない普通の出来事なのだろう。この辺りの感覚が、人と比べず自分自身の人生をしっかり歩いてきた証だ。

再婚して、夫とペチャとの暮らしにも慣れた頃、未来は四十歳を迎えようとしていた。そこで未来は、次の十年の目標を立てることにした。
「何かやること見つけなきゃ。」と悶々と思いながら、ある日荷物の整理をしていた時に韓国にいた頃の写真が出てきた。
その中に自分が浴衣を着せてあげた韓国人の友だちが嬉しそうに笑っている写真を見つけた。
そこでピンときたのが、着付師として生きる道だった。着物は美しいし、日本の誇る文化芸術品だ。最近では、冠婚葬祭でも着る人がめっきり減ったし、需要がないから呉服産業は衰退し、職人たちも跡を継ぐ人がなく、このままでは素晴らしい技術も継承されずに廃れていく。
だからこそ、まずは需要を作る必要がある。もっと気軽に着物を着てお出かけ出来る人が増えれば、この日本の文化が復活する可能性がある。
それに、美しいものを見に纏う嬉しさは、人を潤わすし笑顔にさせる。
更には、外国にもこの日本の文化を広めたい。美しいものを愛でる気持ちは万国共通であるし文化交流こそが世界を結んでゆく。また、今の世の中海外に住む日本人も少なくない。そんな人たちにも着物を着せてあげたなら喜ぶに違いない。未来は、イメージしだすと止まらなかった。
未来は、すぐに着付を学ぶことを決めた。もちろん最初から師範を目指した。目的が、世界中に着物の文化を届けることだから当然だ。
人が何かを始める時、設定する目的というものが、進むペースを決めるものだ。例えば、走ることでも、それが100mなのか10kmなのかマラソンなのかで全然走るペースが違う。
未来は京都の着付け教室を選び、びっしりレッスンを入れ、たくさんの宿題や自主練もこなし、一年たたずして師範の資格を取得するためのテストを受けることとなった。
テストには、着付をさせてもらうモデルさんを自分で連れて行かなくてはいけない。未来は、名古屋から大阪に何のつてもなくきたから、京都までボランティアで来てくれるような女友だちがいなかった。そこで思いついたのがSNSで募集することだった。毎日、着付モデル募集をつぶやいて、やっと一人だけ手を上げてくれる人がいた。大阪府堺市から全く知らない人が、わざわざ京都まで本当に来てくれるかの確信もなかったけれど、当日その人はちゃんと来てくれたのだ。未来は模擬レッスン形式のテストを見事に合格して、ついに着付師範となった。
資格は取ったものの、仕事にすぐなるかと言えばそうではなく、仕事やお客さんを自分で掴んで行かなければならない。模擬レッスンのモデルを見つけるだけでも苦労したのだから、最初は簡単ではなかった。お茶会の企画をしてSNSで呼びかけるも、せっかく用意した会場で、未来はただ一日呆然と待ち、結局は誰も来ないという日々が続いた。名刺やフライヤーを持って、美容室などに飛び込み営業にも行った。とにかく、着物を教える生徒や場が欲しかった。誰も人が来ない企画も、とにかく人が来るまで辞めずに続けた。仕事をくれるかどうかもわからないところへの飛び込み営業も続けた。そのうちに、着付けを習いたいと言ってくれる人が一人二人と現れてきたし、着付師としての依頼も徐々に入り出したのだ。
未来がすごいところは、後先のことを考えずにまずは行動するところだ。色々考えすぎて、一歩も進めない人は、ごまんといるだろう。けれど、運命を切り開いていく人は、絶対に行動先行型だ。そして、どんなに不毛と思えるチャレンジも、最初のチャンスを掴むまで諦めずに続けるしぶとさを持っているのだ。
未来の着付師としての滑り出しは、順風満帆とは程遠かった。けれど、未来はその道を力強く歩み続けたのだ。


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