【ショートショート】君の秘密
いつもは私が、待ち合わせ時間に少し遅れて行くから、気づかなかった。
その日はめずらしく、たまたま早めに着いた。
私の家から二つ角を曲がったところの、開けた場所。
待ち合わせ時間を少し過ぎたとき、彼から連絡が来た。
「もう着いてるよ」
彼が通ってくるはずの道で待っていたのに、私が気づかないうちに彼は通り過ぎていたのだろうか。
私の家の前に戻ってみると、彼は年季の入った車の隣で、いつもの色褪せたダウンコートと大きなマフラーに顔を埋めて立っていた。
「あれ?私ずっとあそこにいたよ?」
私がそう言うと、彼はいたずらっ子のような笑顔でこう言った。
「バレちゃった」
彼は時空を自由にさすらう旅人だった。
私は、それは彼にぴったりだと思った。