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【エッセイ】愛するということ

今、どれだけその人を思いやれているだろうか。
自分自身を愛さないことで、許さないことで、大切な人を傷つけてしまうなんて、知らなかった。

私は、人と仲良くなることにいつも自信が持てなかった。仲がいい人たちを見ると、魔法を見ているように不思議で、なにか、彼らにしかない特別な能力や、魅力を持っている人たちなのかもしれないと、思っていた。それは友達同士でも、カップルでも、同じだった。人との繋がりを強く求めるあまり、私はその方法を一人で探し、彷徨い続けていた。

知り合いと仲良くなるために、友人とより親密な関係になるために、私は様々な言葉を口にした。おどけた自己卑下、盛り上げるためのおべっか、そこに張り付いた、笑顔。
そうして、私の口から出る寂しい言葉たちは、そのままゆっくりと、私の心を刺した。
そしてしばらくすると、私のそばには誰もいなくなっていて、虚しさだけが、私の中に残っていた。
私は仮面を作って、自分の本心を、堅く守っていたのだ。そして相手も、それに気づいていた。
私は自分を守ることばかりで、目の前の人がどんなことを思っているのか、考えようともしていなかった。

人と繋がるって、どういうことなんだろう。本当に人を好きになるって、どんな感じなんだろう。

戸惑い続ける私の手を導いてくれたのは、彼だった。

彼と付き合い始めたころ、私はそれまでと同じように、何かあるたびに心を閉ざそうとした。
喧嘩が起きそうになると、決まって自分から離れることを選んだ。
彼が私の元から離れていくことが、少しでもその素振りを目にすることが、耐えられなかったのだ。

だから不穏な空気が流れ始めると、私はそっと心を閉ざし、彼から一定の距離を保った。私が離れたら、彼は追いかけてくれると思った。
でも、そんなことは起きなかった。
彼は私の勇気と信じる心の無さに落胆し、失望の中で彼自身の世界を生き続けた。そして、私が彼の元に戻るまで、ただ、静かに待っていてくれたのだ。

私は何から逃げて、目を背けようとしていたのだろう。彼からでは、ない気がする。
コントロールから外れた私の本心が、とめどなく流れていってしまうことが怖かったのだ。今まで誰の前でもひた隠しにしていたものが、一番好きな、愛する人の前で露わになってしまうなんて、とても、怖かった。
でも同じようなことを続けていたら、いつまでも彼を傷つけてしまう。これまで何度も私に手を差し伸べてくれ、そして去っていってしまった友人たちのように。

私は一歩、歩みを進めてみた。そわそわして、時々少し切なくて、でも温かくて、新しい靴を履いたような気分だった。
人と繋がることって、こんなに丁寧で、繊細で、愛に溢れたものなんだ。

今はまだ、新品の靴の感触に慣れず、履き慣れた靴に手を伸ばしそうになる時もある。それでも、少しずつ馴染ませていきたい。
そうして、すっかり履き慣れて、自由に走り回れるようになった時にも、変わらず彼が隣にいること、それだけを、ただ願っている。

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