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研究報告「富山県立近代美術館問題という言説空間」

記事タイトルにある論考が、『文化資源学』第20号(2022年6月30日発行)に掲載されました。
本研究では、「富山県立近代美術館問題」について述べられた議論について、議会、市民運動、美術領域(美術史・美術批評)、法領域(裁判・憲法学)、社会学といった複数の領域をまたいだ網羅的な資料調査を行いました。
その上で、様々な議論が飛び交い続け、問題の全体像を把握することが注目されてこなかった同問題について、これら多くの資料を用いて、その全体像を再構成し、課題を示すことを目的にしました。
また、この約25,000字の論考では、全ての参照資料を公開することは難しく、そのため、表や参考文献、本文や注のなかでも出来うる限り資料名を明らかにするよう心がけました。

以下では、タイトル、目次、各表、要旨(短めver.)といった、この論考のプロフィールを公開します。
この先の議論や、作品制作、美術批評、美術史、アートマネジメント、文化政策、法学、社会学など、様々な分野の方にこの論考が届き、日々の生活や仕事で抱えている課題や問題に対して、何かの気づきになればとても嬉しく思います。(来年には、J-stageで公開される予定です。)

タイトル

富山県立近代美術館問題という言説空間
The Discursive Space of the Issues Surrounding the Museum of Modern Art, Toyama


目次

1 散在する見解と分断された文脈、富山県立近代美術館問題の全体像


2 「トラブル」の発生と当事者たちの動き


3 富山近美問題を規定する観点の形成

3-1 見ることのできない作品を知るために、情報集約から資料生成へ
3-2 初期の作品評価と作家の言葉「自画像」
3-3 議会における作品評価、「不快感」発言から知事の「陳謝」と「館長見解」

4 裁判が明るみに出す問題の所在

4-1 社会問題としての富山近美問題
4-2 法領域における富山近美問題

5 富山近美問題という言説空間、慢性的な議論がもたらす課題


各表

表1:富山近美問題において生じた事態
表2:富山県立近代美術館問題・簡易年表
表3:『あいだ』において富山近美問題を論じた著者一覧
   ※『あいだ』・・・美術と美術館のあいだを考える会のミニコミ誌
表4:『「頽廃藝術」の夜明け』掲載論考一覧
   ※『「頽廃藝術」の夜明け』・・・大浦作品を鑑賞する市民の会のミニコミ誌
表5:1986年6月5日付けの各新聞記事見出し
   ※議員の「不快感」発言を受けての報道
表6:1998年12月15日(火)~17日(木)に報道された新聞記事
   ※国家賠償請求訴訟・第一審判決の直前直後の報道


要旨(前半部分)

 1986年、大浦信行の連作版画作品「遠近を抱えて」に使用された昭和天皇の写真のコラージュに対し、富山県議会で議員が用いた「不快感」という言葉が、議会内容とともに報道され、作品・図録の非公開や作品売却・図録処分など、社会的な関心を集める事態が次々と生じた。これらの事態では、作品評価、表現の自由、芸術文化の制度や公共性のあり方が、議会、市民運動、美術領域、法領域で議論され、現在では「富山県立近代美術館問題」という、表現の自由や検閲の問題として認識されている。
 そのため、これまで同問題が、各領域の内部で共有される情報媒体に依存し議論され、それぞれの言説群の関係性によって形作られてきた点は注目されてこなかった。さらに、各領域の議論を俯瞰して問題の全体像を捉える試みもなかった。そこで本論では、議員の発言が報道される1986年から、大浦と市民団体による裁判が上告棄却される2000年までに発行された、新聞、雑誌、ミニコミ誌、裁判資料等の収集を行い、同問題に対する認識の整理を行った。その上で、各領域で行われた議論の関係性から、同問題の全体像を再構成するとともに課題を示した。

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