出会いー商業書道家になるまで①
商業書道家の小笠原麗と申します。
こう自己紹介できるようになるまでのこと。
書はライフワークだと思えるようになるまでの、約15年間のこと。
習字教室時代
習字教室に通い始めたのは、小学校2年のとき。
きっかけはなんだったんだろう?自分からやりたいと言った訳ではなかったと思う。
習い事がひとつ増えたな〜くらいの感覚。
教室が開いているのは火曜と土曜。
どっちに行っても良いのだけど、わたしはいつも土曜日。
同級生の男の子がふたり通っていて、ちょっかい出しながら2~3時間書く。
毎月課題があって、会報に載っている手本とは別に先生が書いてくれた。
ドキドキしながら半紙を差し出して、学年を伝える。
先生の迷いのない筆運びがかっこよくて好きだった。
中3まで通ったからそれなりに級や段は上がったし、賞もたまに頂いた。
でも、それだけ。決して熱心な生徒ではなかった。
家じゃ全っ然練習しなかったし、習い事は、週に何回も通った合気道やそろばんの方が断然好きだった。
芸術科・書道との出会い
高校1年、芸術科の選択授業。
美術も音楽も楽しそうだけど、習字やってたし道具も買わなくていいから、と書道を選択。
最初の単元は「漢字仮名交じりの書」。
小・中までは国語科・書写、高校からは芸術科・書道。
その違いを理解して、芸術科・書道ってなんだ?っていうところからのスタート。
あれ、お習字と書道って違うのか〜という軽いカルチャーショックに続いて、「漢字仮名交じりの書」のはじめのページに載っていた、ある作品に釘付けになった。
村上翠亭「ガラス戸」(教育出版『書道Ⅰ』より)
え!?オバQ!?
なんだこれは…書道なのに絵?
ちっちゃい子が書いたみたい…よく見たら「たのしい」の「し」は逆に書かれてるし、改行も変だからなんか読みにくい…
でも、なんでこんなに魅力的なんだろう?
とても不思議な感覚だった。
形が整っている字こそ賞がもらえる上手なもの!だと思ってたし、筆で絵なんて書いたら怒られるのに…やっぱり習字と書道はちょっと違うみたいだ…
思うままに
「あなたの好きな言葉を、思うままに書いてみよう!」
「漢字仮名交じりの書」の授業中、K先生(恩師)の言葉にまた驚く。
習字教室では毎月の課題とお手本がすべてで、書いてみたい言葉や書いてみたい書風なんて、全く考えたことがなかった。
課題もない。お手本もない。
好きな言葉を思うまま書いてみよう。
……ほんとにいいの!?
のちにわかることだが、この段階で2つのタイプに分かれる。
この”自由さ”に、ただただ戸惑ってしまうタイプと、ワクワクするタイプ。
習字教室に通っていて筆に慣れている子でも、意外と前者が多い。
中学卒業までに創作(書く内容も書風も自分で決めて制作)をやったことあれば話は別だけれど、課題やお手本でまじめに字を習ってきた子が、いきなり自由に書け〜!と言われたら、確かに驚くし戸惑うよな…と今なら思う。
わたしも7年くらい教室に通ったから、経験者のプライドみたいなものは一応あったし、自分の書く字はこんな感じかな〜っていうのもあった。
でも、「ガラス戸」やK先生との出会いは、そんなちっぽけなものを簡単に吹っ飛ばすインパクトで、胸が高鳴ってワクワクしたあの瞬間を、まるで昨日のことのように思い出せる。
夢中になれた理由
今まで習ってきたものとは明らかに違う新しい世界だ、と感じた。
更に、これは自分にとってプラスなもので、長い付き合いになりそうだと思えたのは、何よりもK先生のおかげ。
とてもあたたかく大きく、導いてくださった。
K先生は、褒めて伸ばす指導者だった。
面白がって、好きな歌詞(当時は嵐やミスチルばっかり)を書いて見せに行くと、いいね~いいね~とたっくさん褒めてくださった。
すぐ調子に乗ったわたしは、既に音楽部に入っていたにも関わらず書道部にも入部。
とにかく「漢字仮名交じりの書」が、楽しくて楽しくて仕方なかった。
夢中になれたのは、友人たちのおかげでもある。
喜んでくれる、飾ってるよ!と言ってくれる、泣いてくれる…
書くのが楽しいだけじゃなく、書いてよかったなぁ!という気持ち。
書くエネルギーになった。書く理由を与えてくれた。
筆文字の力、言葉の力ってあるのかもしれないと思えるようになった。
そして、書道を学ぶ学科・コースに進学した先輩が過去に何人もいたことを知った、高校1年の冬。
「わたしも大学で書道を学ぼう!」と、強く心に決めていた。
我流からの旅立ち
いつも褒めちぎるK先生からの、初めての"指導"をよく覚えている。
受験を意識してから初めて臨書作品を添削していただいた時のこと。
「上手だけど、これはあなたの字。」
つまり、古典の特徴を掴めておらず我流で書いているということ。
多分、ここで心折れる人もいるんだろうと思う。
"お習字教室に通った経験"が大きいと、そうなる確率は高い。
上手いのになんでだめなの?となることもあるだろう。
我流(習字教室で培ったもの)を完全に捨て去ることは難しい。
慣れ親しんだ自分の字、癖だってある。
わたしもすんなりとは受け入れられなかったけど、いろんな字があって当然、多様だからおもしろいんだし、書風を書き分けられるようになったら、もっと面白い作品が書けるのでは!?と気づくことができた。
ここで変われたから、書道での大学進学の道が開けたんだと思う。
一浪し、新潟大学教育学部芸術環境創造課程書表現コース(当時)に合格。
地元を離れ、書道漬けの4年間が始まった。
(つづく)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?