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参加者の47%にお店に足を運ばせた 「根回し」話術をシナリオ化 ■ナラティブマネジメント

ナラティブマネジメントとは


地域の観光振興を推進するために、観光集客の現場において、その魅力をより効果的に客に届けるためのクオリティマネジメントを指し、主に地域の観光推進の主体者により実施されます。

 たとえば、地域に残る歴史的事実を紹介する際などには、単に史実を伝えるだけでは観光客にはその土地ならではの魅力として受け止められないことがしばしばあるため、観光ガイドが、その史実に関わった歴史的人物の生涯を説明したり、ご自分の推察や解釈を加えた上で、起承転結や喜怒哀楽などを加味して物語として伝え、その歴史的事実をいきいきと魅力的に伝える工夫をこらしています。これなどは「説明(ナラティブ)する質を上げる(マネジメント)こと」を自ら実施していると言えるでしょう。

ナラティブマネジメントを行う人が最初に理解しておくべきことは、そこでお客に伝えられる物語を「物語のすじそのもの」である「ストーリー」とその「伝え方」である「ナラティブ」の二つに分けてそれぞれ別のものであることを認識することです。そうすることで、強化すべきポイントが二つに分けて考えられ、より適切で効果的な分析・改良が図れるからです。


ナラティブ(伝え方)の力を提供価値の向上に活かす

ナラティブマネジメントとは、前述の2つのうちの後者(物語の伝え方)にあたるものです。
物語の伝え方の質を高める、その「高め方」を表しています。
ナラティブ(物語の語り方、表現の仕方)は、語り手や演じ手など、本人の意識・無意識にかかわらずに声質や話すトーン、所作などにより演出的効果が生じる一方で、彼らによる物語そのものの解釈の仕方や見解によって、観客に与える印象が大きく変化します。
したがって、ナラティブマネジメントは、「物語」の作者(原作者)や専門的な識者(たとえば郷土史研究家)など物語そのものに関わる立場にいる側からの、現場の表現者(ガイドなど伝い手や演じ手)への働きかけの質をあげることが一般的となります。

・ナラティブマネジメントの基本

ナラティブマネジメントは、作者(例えば原作者などいわば「書斎」の人)から表現者(例えば観光ガイドなど「現場で観客・消費者と向き合う人)に向けて行われます。

■作者→表現者へのコミュニケーションはコンセプトワークに基づく


(補足)
・コンセプトワークは以下の5つを事前に決めることです。
コンセプトワークを行うことで作者と表現者の目線を合わせることを目指します。いずれもその物語を語る行為の有り方を決める大切な作業で、その結果「コンセプト」もうまれます。

❶誰に伝えるか

作者は伝える相手を具体的にイメージして表現者に伝えてください。
その際には、その方を「属性」「志向」「欲求」「その人をとりまく現状の世相」の4つの軸から考察し、生身の人間としていきいきとイメージすることが肝要です(これを「キャラクタライズ」と呼びます)。この人物像を表現者が聞いて「そういう人っている!いる!」と感じてくれるまで行います。

❷何を伝えるか

・作者が扱う「事実(A)」と作者が「それを知り感じたこと(B)」の2つを表現者に伝えます。(A)だけではなく必ず(B)を加え、(A)と組み合わせることで物語は成立します。(B)は「その事実を知り、自分はどういう感情をもったか、それはなぜか?」と自問自答を行い、自分の気持ちにしっくりくるところまで到達しておくことが肝心です。そうすれば、その事実は、その作者の世界観に裏打ちされた「物語」となるからです。
・構図的には「(A)が(B)であることを伝える」という形で整理されます。また、(B)を自問していく過程において、そこには、自分がそう考える理由(背景)が隠れています。そしてこの理由(背景)は、本人のもつ価値観(テーマ)から発生しており、そこには何らかの課題が含まれています。したがってそのアウトプットは「課題を解決した後の姿」となり、それはそのナラティブ活動の価値を定める「コンセプト」になりえます。

❸どう伝えるか

上記❷を❶に伝えるにはどうしたら効果的かを考え、それに見合った表現手法を創出します。 
(例:その事物を指し示しながらの直接的な説明、ボードを用意した三択クイズ、紙芝居、客に少しやってみさせる試体験、紹介するお店の店員からリアルな生声を引き出すインタビュー、劇などのパフォーマンス)

❹それはなぜか

❶から❸までをより効果的に確実にするために整理し明文化することで表現の指針となります。この作業は、現場では極めて重要で作成しておけば、仮に表現者が変わっても、大外しはしません。

❺before→afterがあるか

その結果、伝えられた者(観客・ツアー参加者など)は「伝えられる前」の状態から「伝えらえれた後」の状態において感慨・思考・行動などがどう変化するか?
いわゆる「Before」→「After」を事前にイメージしておきます。これがその物語の「創出価値」となります。これを予めしておくことで、❹とともに表現者へのディレクションをより間違いのないようにできます。

・ナラティブの価値をさらに高めるために

■表現者に対する指示

・ナラティブマネジメントで最も大切なコンセプトワークが完了したら、以下の視点を持って表現者を見守り、提供価値を高めていきましょう。

①任せるところと守るべきところの線引き

大体において表現者は自らが表現したい特質をもちます。したがって、暴走しないように、その持ち味や意向は最大限に活かしながらも、守ってもらうべきところ(コンセプトワーク)を遵守してもらうようにマネジメントする必要があります。ナラティブマネジメントはそのバランスがものを言います。守ってもらうべきスタンスやトーン&マナーなどは共通のルール(すべきこと(ポジティブリマインダー)と、してはいけないこと(ネガティブリマインダー)を設定しておくと表現者は現場で判断しやすくなります。

②表現者の時間のマネジメント

たとえば1時間のまちあるきツアーの場合、1時間でピタリと終わるのが理想です。観光振興の現場は観光客という相手があることなので、この時間通りに終わらせるということは想像以上に難しさがつきまといます。しかし、参加者の多くはまさに旅行の途中であり、その後の予定があることを配慮すれば、時間通りに終わらせるのは最低限のエチケットであることに思い至るはずでしょう。
ナラティブの担い手は表現者ですから、ついつい自分の「表現」である語りを長くし、出番時間を増やそうとする傾向があります。したがって、いかに短く、簡潔に表現してもらい時間内におさめながら、提供したい価値を最大限に高めるかは、マネジメントする側がまずはしっかり考え、ナラティブの担い手にあらかじめ伝え、理解を求めるといいでしょう。

③表現者の存在価値が物語の価値とは違うことを認識する・認識させる

その物語は、その表現者でないと成立しないという属性的な関係ができると、長く続けるには、物語の継承発展に支障をきたします。したがって、表現者の存在価値を認めつつも、それが物語自体の本質的な価値であると錯覚しないように両者を切り離して冷静に見極め、それを表現者にも納得してもらっておくことが大切です。

④表現者の表現力を敬い表現者にしかできない提供価値を判別しておく

 ナラティブの担い手であるガイドや演者といった「表現者」とはいわばできあがっているストーリーに命を吹き込み完成された「物語」として提供する立場。したがって、それら表現者が提供することではじめて可能となる提供価値もあります
 たとえば、物語の中で取り扱ったり説明したお菓子などをその後に売り子に成り代わって売るなど。いわば表現者が表現機会を終えた直後に売り子の役を担うケースなどがそれです。また、たとえばまちあるきのガイドが表現者の場合、コンセプトを強めるために、立ち寄ったお店のご主人などに話を向けて、いきいきとしたお話を聞き出すような即興のインタビュアーになることだってできます。つまり、物語の筋に拠りながら、物語とは離れたところで、表現者の力を活用して、本来のコンセプトを深堀し提供機会の価値を付加することもナラティブマネジメントの一面となります。

④の例

 あるまち歩きのツアーでは、そのエリアの歴史と伝説のスポットを巡り、その地域の紹介と後日の再訪に期待をかけていました。そして当然ながら、その目的としては「そのエリアの好感度アップと直接的な経済波及効果」も狙っておりました。そこで、そのツアーでは、歩く道沿いにある飲食店を、歩いている途中にガイドが紹介するようにあらかじめシナリオに組み込んでおきました。そして、詳細は「当日の事前訪問時にとっておきの情報を拾ってきめましょう」とガイドに事前に伝えておきました。

 ツアー中にガイドは話の筋を乱すことがないように配慮しながら、途中途中で目にする飲食店を紹介しました。そのために、ガイドは、シナリオ通りに、まちあるきツアーの始まる3時間ほど前に、紹介すべきお店全軒を訪れ、その日のおすすめの一品などの情報を細かく聞き出し仕入れておきました。

 そして、ツアーの途中で、「あちらの赤ちょうちんのお店は、このエリアで人気の居酒屋です。近郊の海の幸が廉価で食べられるから地元の人が毎晩のように通うのですが、さきほど3時間ほど前に、ご主人の〇〇さんにご挨拶にいったところ、とっておきの情報が入りました。「今日は珍しい〇〇が釣れたので、炙って出してみよう」とのことでした。この時期の〇〇はこの町でも貴重で、味も本当においしいんです。よろしかったらツアーの後にぜひお立ち寄りください。」などと紹介しました。

 ガイドによる実感のこもった説明に加えて、ツアーの参加者向けのチラシには、それらのお店の簡単な紹介とツアー参加日限定参加者特典としてクーポンもつけていましたから、さらに参加客は行きたくなったのでしょう、全日程の全参加者のうち、実に47%強が、そうやって紹介した数店のお店の中のどこかに行ったことが、後に使用されたクーポンを回収してわかりました。

これなどは、インターネットのクチコミよりも、以下4点で優れており、いずれも参加者を前にして向き合っている「表現者」だからこそ創出できた価値と言えましょう。

①実際にガイドがその日にそのお店の主人と話していて、主人の言葉を代わりに伝えていることでまだ会っていない主人なのに「親近感」を事前に醸成している

②その情報は、その日の参加者だけに伝えられたお値打ち情報なので、参加客に「自分たちだけに教えてくれた」というささやかな特別感を醸成させている

③その情報は、そのガイドからの情報で、ガイドも実際に食べておいしかったようなので、情報として信頼感が高い(そのガイドが好印象をもたれている時に限りますが)

④その情報は、その日ならではの情報なので、インターネットにも出ていない最新の情報であることが感覚的に感じられる

以上表現者だからこそのメリットを活かし、「情報」に対する ①親近感②特別感③信頼性④最新性 をそれぞれ醸成することに成功していると言えます。

この4つはすべて参加者にとっては「現場に足を運んだからこそ得られる」うれしい性質のものばかりなので、参加者が「旅に来てよかった」としみじみとした感慨を感じる結果にもつながっています。

以上、ナラティブマネジメントについて、最後にナラティブの価値を感じさせるエピソードをお伝えしました。

本項で記した手法は、ビジネス社会におていは組織全般に関わる「部下育成」、クリエイティブ業界の「ディレクション」、演劇などの「演出」、オーケストラの「指揮者」、チームの「監督」など広範な活動で応用できるかと考えます。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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