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短編小説『ミルクキャンディ』
いつもの時間にアラームが鳴る。
今日、仕事に行けば明日は休みだ。
それなのに、起き上がると気分が悪い。
今日は生理2日目。
今週ずっと多忙で、休む間がなかった。
その疲れがどっと溜まっている。
準備しないといけないのに、体が動かない。
有給はまだあるけれど1日使うのがもったいない。
とりあえず歯磨きを済ませて顔を洗う。
歯ブラシを持っていない片手でスマートフォンを持ち『生理 休み』と検索。
ヒットした記事には、『世の女性は生理でも薬を飲んでやり過ごしている』とか、『生理中に休む時は頭痛とかの理由をつけて休んでます、さすがに生理って人によって違うから理解されないし』とか様々な意見だった。
『やっぱり今日行かなきゃかなぁ』と思うもじわじわと気分の悪さが増してきた。
そうだ、午前中は休んで午後から出社しよう。
今の会社には半休制度もあったはずだ。
急いで顔をタオルで拭いて携帯を握る。
電話帳を開いて上司に電話をかける。
15秒のコール音で出た。
「おはようございます。今日体調が優れないので午前だけお休みお願いします。」
『分かりました。もし午後からの出勤も難しいようならまた連絡ください。お大事にね』
「ありがとうございます」と伝え、電話を切った。
あと1時間は仮眠を取ろう。
ベッドに敷いている電気毛布のスイッチをつける。
片付けるのが面倒で6月まで放置していた。
それが今役に立ってくれた。
アラームを再セットして眠りについた。
『♪〜♪〜』
2時間ほど寝てアラームで目が覚めると、幾分かは体が楽になっていた。
いつもより薄めの化粧をして、生理痛も酷くなる前に鎮痛剤を飲んで家を出る。
最寄り駅に着くと、朝の景色とは違って人がまばらだった。
昼時の電車だから座ることもできた。
会社に着いて水を買う。
そのままロッカーに向かって鞄を置く。
「おはようございます」と、自席に着いた。
周りの人も軽く挨拶を交わしてくれて、各々の仕事に戻る。
座った途端、目の前がくらくらしてきた。
『やっぱり今日は全休がよかったのかな』と思いながら、デスクトップを眺める。
今更早退もできないから、今日は最低限の頑張りでやり過ごそう。半日だし。
いつもより時間が経つのが遅く感じたけど、何とか退勤時間が近づいてきた。
『はい、これ、プレゼント』と目の前にミルクキャンディが置かれた。
手の方向を目で追うと女性社員が心配そうな顔をしていた。
『雰囲気見ててしんどそうだったから。甘いものでも食べてね。大丈夫?』
「ありがとうございます。いつもの月一ので…」
相手が女性だったからすぐに理解してくれて、『無理しないようにね』と言葉をもらった。
体調悪い時に優しくされるとじんとなるなぁと、片付けをし始める。
退勤時間になり「おつかれさまでした」といつもより早く会社を出た。左手にはさっき貰ったキャンディが入っている。
数メートル歩いていつもの横断歩道の前で止まる。青の点滅だったけど、走れば間に合うけれど今日は走らない。信号が赤に変わったところで封を開ける。
中からはころんと甘いミルク色のした飴が入っていた。
口の中に入れると、ミルクが口いっぱいに広がって舌で転がせば転がすほど甘みがほどよく感じられた。
今日半日頑張った自分へのご褒美だ。
さっきまで体調が悪かったのに、ミルクの世界に浸っていると体も心も穏やかになった気がした。
『家に帰って、今日はゆっくりと過ごそう』
信号が青になり、さっきまでとは違う軽い足取りで駅に向かった。
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