短編小説『綾の果てまで』⑦
あの日から2ヶ月後、私はまた大阪の地にいた。
前と同じ出張がてらだけど。
今回も2泊3日。有給を使って一泊延ばしてもらった。
2ヶ月離れていただけなのに、見たことある景色に時間が経っていることを忘れてしまう。
恋人とはあれからぎくしゃくして、お互い核心を隠したままダラダラと付き合っている。
恋人は何も悪くはない。頼りにもなるし何かあれば引っ張ってくれる。
優柔不断で片付けが苦手な私を優しく受け止めてくれているのに。
あの日から違和感が増して、その優しさがたまに私が求めているものとかけ離れている気がして、一緒の空間でも落ち着かない。
きっと私の態度も冷めているはずなのに恋人は何も言ってこない。気づいているのかそうじゃないのかさえ聞くのが怖い。
私は結局一人になるのが怖いのだ。
安全圏の恋人がいることで私自身も認められている気がする。
昔から彼氏は途切れなくて何やかんやで別れて1週間もしないうちに新しい彼氏ができた。
恋人と離れて大阪にいる彼の元へ行く勇気も出ない。彼の気持ちさえ知らないのに急に飛び込むのがかなり怖い。周りに話したらかなり傲慢だと言われるだろう。
大阪に出張になったと伝えても『気を付けてね、いってらっしゃい』と、空港まで送ってくれた。
家から何も会話を交わさずに、見送る時だけ『帰る時連絡してね』と一言告げた。
運転中、恋人は何を思ってハンドルを握っていたのだろう。
前回と同じように仕事を終わらせてホテルに向かう。
あの日から彼とはたわいもないやり取りが続いている。
日を跨ぐまでやり取りをして、起きて支度して出勤途中から昨日の続きが再開する。
どちらかからも止める気配がない。
『おやすみ』は絶対言わない。やり取りが切れてしまいそうで。
別に愛を交わし合ってるわけでもなく疾しい訳でもないのに、彼としか分かり合えない何かが存在しているのは確かだ。
前と同じホテルについて部屋に荷物を置く。
スマートフォンを見ると仕事と恋人と彼からの通知が来ていた。
恋人にホテルに着いたよと送り返す。
彼からは明日の待ち合わせ場所と時間を送り合って携帯を閉じた。
思ったより早く目が覚めたので、今日の服に着替えてコンビニでサンドイッチを買いにいく。
前とは少し雰囲気を変えて、パンツスタイルにした。大阪は思ったよりも歩くのでヒールの低いレース生地のパンプスを選んだ。
外に出ると空気がむわんとして夏の知らせを知る。出かける前に日焼け止めを塗らないとな。
ホテルに戻ってサンドイッチを食べて化粧を施す。
約束の時間にちょうどよく着くようにホテルを出た。
2回目となれば大阪駅は少しは慣れていて、前ほど迷うこともなかった。
前と同じ緑の熊の場所が集合場所だ。
今日は暑いからか人も少なくて、彼をすぐ見つけることができた。
「おはよう!」と小走りで彼に近づく。
私の声に気がついて彼が振り向いた。
『おはよう、というか久しぶりかな』
「2ヶ月ぶりだね」と簡単に交わして、今日の目的地を決める。
今日は前もって何も決めずに、会った時に気分で決めようと話になっていた。
『うーん、今日はどうしようか』と二人で悩んだ末、本屋に行ってお互いのイメージに合う作品をプレゼントし合おうとなった。
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