【エッセイ】やぶれかぶれに憧れて

Mr.Childrenに「深海」というアルバムがあるのを、ご存知でしょうか。
人気絶頂の1996年に突如発表した、それまでのミスチルのイメージを大きく覆す、ダークで重苦しい雰囲気に満ちたアルバム。当時、メンバーは自分たちの人気と、それに伴うしがらみに疲れ果て、このアルバムを発表した後に活動を休止しました。
今まで積み上げてきたミスチルというブランド、名声、その全てを拒絶するようなコンセプトとは裏腹に、ダブルミリオンを超えるセールスを記録。日本音楽界に今なお語り継がれる、伝説の1枚です。

なぜ彼らは「深海」を発表したのか。

もともと、「売れるバンドになる」という目標を掲げていたミスチルは、デビューから2年足らずでそれを達成してしまいます。夢を叶えた先にあったのは、虚無。ここから先、何を目標にすればいいのか分からず、しかしバンドの人気は巨大化していくばかり。その葛藤の最中に生まれたのが「深海」だったのです。
前述のとおり、全てを拒絶するような負の力に溢れていながら、その先にもう一度バンドとしての志を見出そうとする「スクラップアンドビルド」的精神も垣間見えるのが、「深海」の大きな特徴です。活動休止後、再びJポップシーンの中心に躍り出たミスチルの活動は、「深海からの浮上」と呼ばれています。

僕が、どうしてこんなにもダラダラと「深海」の話をしているかというと。
僕も「深海」を作ってみたいからです。

ランナーズハイのように、一定の限界を超えることで苦悶が快楽に変わるというケースは、稀有ではあれど無いことはないと言えます。しかし、これは意図して辿り着ける境地ではない、というのが、非常に難儀なところです。
僕は脚本を書いていて、どうしても行き詰まって、メモ帳を投げ捨てて、ボロボロ泣いて、枕を殴って、みたいなことがあります。かと言って、「ライターズハイ」はそう簡単には訪れてくれません。苦しみが足りないのか、はたまた期待し過ぎてしまっているせいなのか、結局は冷静になるのを待って苦しみの続きと向き合う羽目になります。
僕だって、やぶれかぶれになって、平常時の自分ではあり得ないような力を発揮してみたい!と思うわけです。

最近は、もはや「ハイ待ち」みたいになってきちゃってます。

書いていて、行き詰まる。
ダメだ、苦しい。
お?
これ、来るか?
ハイ、来る?
来ない?
おおっ、おおおっ!!
あー、やっぱ来ないかー。

バイトをしていて、嫌なことが起こる。
はぁ、ツラいな。
ん?
これは?
まさか?
もしかして?
うわっ、来た!
来た来た!!!
来ませんでしたー。

やっぱり、期待し過ぎなのかもしれません。

「深海」を生み出すほどの圧倒的虚無に出会うには、おそらく運とタイミングも必要不可欠です。
僕にはまだ早い。そう言い聞かせながら、浮上した後のミスチルに癒されているこの頃です。

(完)

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